第２３話　歪（ゆが）んだ世界

　アイリが頷(うなづ)くとノッチがとんでもないことを言い切った。


「──では、魔女の真似をしてみせよう」


　そう告げたノッチは少女に右肩を向け半身開き胸の前に交差させた両腕を素早く左右に振り下ろした。

　刹那(せつな)、彼の両手から雷光放つ長剣(ロングソード)が伸びて刃口(きっさき)が地面に食い込んだ。

　氷の剣(ソード)と雷光放つ剣(ソード)、彼の翻(ひるがえ)ったコートと銀眼の踊る白髪の違いあれどノッチの姿と銀盤の魔女の容姿が重なりアイリ・ライハラは生唾(なまつば)呑み込んだ。

　いきなりノッチがステップ細やかに足を繰り出し雷光の長剣(ロングソード)を振り回し急激に広がった刃口(きっさき)が振り回すリボンのように複雑な波打つ円形の帯となり長剣(ロングソード)構える少女へと爆速で迫った。

　その稲妻の外縁がアイリの刃(ブレード)に触れ擦(こす)れあう激しい金属音が広がり騎士団長の剣(ソード)は跳ね上げられ、続きざま無防備のアイリの両の小手に回転してくる雷光の一筋(ひとすじ)が迫った。

　アイリ・ライハラは跳ね上げられた剣(ソード)を一瞬で回転させ逆手にした長剣(ロングソード)で今や銀眼の魔女に見えてしまうノッチの２撃目を辛うじて受けると刃(ブレード)弾かれ刃口(きっさき)が少女の腰に迫った。

　片足を退(ひ)きその刃(やいば)躱(かわ)した腕振り上げ逆手で握るアイリの剣(ソード)へさらにノッチの振り回す刃(ブレード)が激突しアイリは激しく長剣(ロングソード)を振り切られ圧し負けた少女は後退(あとず)さるしかなかった。

　だが百戦錬磨のアイリ・ライハラは黙って引き下がりはしなかった。

　ノッチの振り回す長剣(ロングソード)の外周寸前で恐ろしい速さでステップ踏み替え身体をスピンさせ仮想銀眼の魔女の刃(やいば)へ剣(ソード)を斜めに叩(たた)きつけた。

　だが高速で振り回される天上人(てんじょうびと)の剣(つるぎ)は重くアイリ・ライハラはまたしても長剣(ロングソード)を弾かれ素速く後退(あとず)さった。

　その間合いの一瞬にノッチは怒鳴った。

「どうしたアイリ！　本気で斬り込めと言ったはずだ！！　ヘルカ・ホスティラ！　テレーゼ・マカイ！！　お前たちも斬り込んでこい！！！」


　真似ではなかった。白髪の魔女そのものに見えるヘルカ・ホスティラは唖然として一瞬出遅れるとテレーゼが抜刀(ばっとう)し駆け出し斜めに剣(ソード)を恐ろしい速さで振り上げた。

　金属の激突音が響き渡りその刃(ブレード)を打ち返されるのとアイリ・ライハラのさらなる１撃が弾かれると出遅れた女騎士の双眼が座りヘルカ・ホスティラは己(おのれ)の剣(ソード)引き抜き魔女そのものに見えるアイリの夫(おっと)へと走りだした。

　頭上に振りかぶった満身の１撃をヘルカ・ホスティラが打ち下ろすのとアイリの素速い再撃、それに合わせるようにスピンし横様に剣(ソード)振り出すテレーゼの刃(ブレード)がそろい、いきなり回転を止め振り上げる太刀筋(たちすじ)違うノッチの２本の刃(やいば)に激突し爆轟の波が広がり唇一文字で歯を食いしばる３人の騎士の頬(ほほ)を波打たせた。



「────凄い！！！」

　そう呟(つぶや)いた背後で見ているイルミ・ランタサルは、眼の前の剣戟(けんげき)の光景がとても鍛錬(たんれん)などには思えず目眩(めまい)覚えた。

　まさに戦場(いくさば)そのもの。

　アイリ・ライハラの若い夫(おっと)は魔女の歪(ゆが)んだ能力を再現仕切っていた。そうしてノッチは宣言した通り騎士ら３人で掛かることでは魔女の太刀筋(たちすじ)を読み辛くしてしまうのを実践(じっせん)で教えていた。

　同時に青白い顔の男が独りで腕自慢の３人の剣士に見合う剣技(けんぎ)の持ち主だと思い知った。

　その彼が銀盤の魔女攻略が容易(たやす)くないと言う意味を眼(ま)の当たりにしている。

　多人数の同時攻撃が腕２つしか持たぬ女に通じない！

　王妃(おうひ)イルミ・ランタサルは落ちてゆきそうだと感じて己(おのれ)が立てた策(さく)を見直す必要性に駆られていた。

　所詮(しょせん)は戦(いくさ)を後方で指揮する王族。対局しか見通せないとイルミ・ランタサルは認めたくなかった。

　命賭(いのちか)け剣(ソード)操るものらに指揮できるのは攻める退(ひ)くの２択(たく)しかないと言わせはしない。

　２振り(ふたふり)の剣(ソード)が３人の攻撃に勝る事実があるのなら、１口(ひとふり)の刃(ブレード)が銀盤の魔女両腕で操る氷の剣(ソード)に勝てる道理もあるはず。



　私(わたくし)の瞳ならこの歪(ゆが)んだ世界を綺麗に見せる！



　ふと思いついた策(さく)に１７歳のイルミ・ランタサルは気づき鳥肌立った。