第19話 群青の宝石
文字数 1,949文字
ダンジョンに連れて来るべきではなかった。
跪 いて顔をくしゃくしゃにし涙溢 れさす男は我が子の遺体を抱きしめこの魔物だらけの風穴 を呪った。
三首 の巨竜を倒すに難儀した男は少ない術式の魔法の中で爆裂魔法を天磐 に放った。
剣士にして魔術を扱える稀代 の男は剣 で歯が立たぬ相手に急場の切り札をきった。
崩壊し一気に落盤してきた大きな岩石の1つが背負っていた娘の頭に直撃し、幼い赤子は死に際の言葉も言えずに息を引き取った。
長らく泣きわめききった男は、ふと向けた落盤の岩山に多数光る赤い魔石の中──1つだけ違う色を見いだした。
半ば埋もれる形で群青の鋭い光りを放つ魔石。
場所が場所だけに男はその青い石も魔石だと思い込んだ。男はその美しい魔石を娘の墓に供 えようと拾いあげた。手にした瞬間、男の意識に何ものか の年老いた声が聞こえた。
────小さき骸 を助けたくば────
────我 を骸 の胸に載せよ────
男は青ざめた。辺りには誰もおらず。たった1人の肉親を亡くした失望に頭がおかしくなりかかっているのだと思った。いいや、もしかしたら何かの魔物が付け入りそそのかしているとも考えた。だがまたその年老いた男の声が聞こえた。
────これは命の盟約なり。我 を受け入れさせれば幼子を再臨させようぞ────
男は震える手でその拳 半分ほどの涙形した群青の魔石を我が子を包む布の胸元に載せた。
一閃 、青い石が脈打ったように見え膨大なラピスラズリの煌 めく輝きを鍾乳洞 に溢れさせた。男が驚く目先で我が子を包む布に青い炎が燃え上がり男は慌 てて消そうと手を伸ばした。
手のひらを炙 った炎は熱くなく氷のように冷ややかで娘の胸に載せた魔石の周囲の布が灰になるとゆっくりとその群青の石が赤子の胸に沈み込み始めた。
男はその尋常でない光景に恐れを感じ石を投げ捨てようと咄嗟 に右手でつかんだ。刹那 、その魔石は凄まじい放電を放ち痺 れた男は石から手を放し尻餅をついた。
いきなりそれら群青の光りや放電が消え失せると男は布に包んだ娘の骸 を覗き込んだ。
赤子の胸に半 ば埋もれ生き物のように群青の光り踊る魔石がそこにあった。いきなり我が子が息を吹き返し泣き始めると、男は復活した我が子を胸に抱 いた。
クラウス・ライハラは決意した。
娘────アイリ・ライハラの命支えるものが魔物だと誰にも知られてはならぬ。
彼はその群青の魔石が魔物の由来であると胸に秘め、娘が物心ついた大きくなった時に胸に埋まる群青の宝石の理由を問われそれらの話を打ち明けた。
だが1度たりとも邪悪なものを感じたことがない。
アイリ・ライハラは5歳のころから胸の青い宝石が天空のものだと思うようになった。
見る夢は大空を自由に駆けるものばかりだったからだ。
だが父にはそのことを打ち明けなかった。よけいな心配をさせたくなかった。
6歳のある日、アイリは森で見つけた兎 を追いかけた。6歳の足で追いつけるほど兎 は遅くなかった。見失いそうになった瞬間、何が起きたのかアイリには理解できなかった。
遠く離れた大きな樫 の木が次の一瞬に目前に迫り幹を躱 すことも直前で止まることもできずに凄まじい勢いでぶつかった。
その樫 の木は根を持ち上げ他の木を巻き添えに大きな地響きと共に葉を巻き散らした。
アイリ・ライハラは眼を回したが兎 の耳をしっかりとつかんでいた。
自分が空駆ける尋常でない速さで動けると知ったのはその時からだった。
鍛冶職人となって久しい父に黙っていても国1番の剣士であり魔導師だったクラウスは娘の時折見せる動きの速さが尋常でないことを見抜いていた。
その頃から父はアイリに焼けた蹄鉄 や兜 を投げつけ上手に躱 させることで娘の動きの操り方に磨きをかけ始めた。
荘園 への武具の納品に行った帰り15歳に成長したアイリ・ライハラは盗賊に襲われるノーブル国王女イルミ・ランタサルに出会うころ騎士団1部隊と対等に渡り合えるほどの剣技 も身につけていた。
力はできるだけ抑えてきた。
すべての力を胸の群青の宝石から取りだした時に何が起こるか不安だったから。
だがいつか大切な人が窮地に追い込まれた時にその力すべてを使わなくてはならない予感があった。
自分を慕 い忠誠をつくす部下達や、テレーゼ・マカイやヒルダ・ヌルメラを怪物の贄 になぞするつもりはなかった。
騎士らが異変に気づき怪物から視線を振り向けた先に胸当 の隙間 いたる所から刺さるような青い光りを放つ騎士団長を眼にした仲間らは次の瞬間、アイリ・ライハラが雷吼 を響かせ残像を残し稲光となり崖を突っ走り空へ飛び上がったのを眼にした。
その稲妻に巨大な赤竜は一気に火焔浴びせ焼き砕こうとした。
火焔球を突き破り青く踊る雷光が現れた須臾 、赤竜の王の運命は下された。
剣士にして魔術を扱える
崩壊し一気に落盤してきた大きな岩石の1つが背負っていた娘の頭に直撃し、幼い赤子は死に際の言葉も言えずに息を引き取った。
長らく泣きわめききった男は、ふと向けた落盤の岩山に多数光る赤い魔石の中──1つだけ違う色を見いだした。
半ば埋もれる形で群青の鋭い光りを放つ魔石。
場所が場所だけに男はその青い石も魔石だと思い込んだ。男はその美しい魔石を娘の墓に
────小さき
────
男は青ざめた。辺りには誰もおらず。たった1人の肉親を亡くした失望に頭がおかしくなりかかっているのだと思った。いいや、もしかしたら何かの魔物が付け入りそそのかしているとも考えた。だがまたその年老いた男の声が聞こえた。
────これは命の盟約なり。
男は震える手でその
手のひらを
男はその尋常でない光景に恐れを感じ石を投げ捨てようと
いきなりそれら群青の光りや放電が消え失せると男は布に包んだ娘の
赤子の胸に
クラウス・ライハラは決意した。
娘────アイリ・ライハラの命支えるものが魔物だと誰にも知られてはならぬ。
彼はその群青の魔石が魔物の由来であると胸に秘め、娘が物心ついた大きくなった時に胸に埋まる群青の宝石の理由を問われそれらの話を打ち明けた。
だが1度たりとも邪悪なものを感じたことがない。
アイリ・ライハラは5歳のころから胸の青い宝石が天空のものだと思うようになった。
見る夢は大空を自由に駆けるものばかりだったからだ。
だが父にはそのことを打ち明けなかった。よけいな心配をさせたくなかった。
6歳のある日、アイリは森で見つけた
遠く離れた大きな
その
アイリ・ライハラは眼を回したが
自分が空駆ける尋常でない速さで動けると知ったのはその時からだった。
鍛冶職人となって久しい父に黙っていても国1番の剣士であり魔導師だったクラウスは娘の時折見せる動きの速さが尋常でないことを見抜いていた。
その頃から父はアイリに焼けた
力はできるだけ抑えてきた。
すべての力を胸の群青の宝石から取りだした時に何が起こるか不安だったから。
だがいつか大切な人が窮地に追い込まれた時にその力すべてを使わなくてはならない予感があった。
自分を
騎士らが異変に気づき怪物から視線を振り向けた先に
その稲妻に巨大な赤竜は一気に火焔浴びせ焼き砕こうとした。
火焔球を突き破り青く踊る雷光が現れた