第12話 下山
文字数 1,691文字
ごちん!
痛ぁあああああっ!
落ちてきた鶏の卵ほどの石が頭に当たって足下の暗闇に転がり落ちていった。
「阿呆ぅ! 3個目だぞ!」
アイリは後から下りてくる女大将ヒルダに喚 いた。
「御免でござるアイリ殿ぉ──」
アイリ・ライハラとヒルダ・ヌルメラは山道から落石に巻き込まれ谷底に落ちた魔女ミルヤミ・キルシの生死を確かめるため、かれこれ半時 も山肌の崖 を這 うように下りていた。
暗くなければそう難しくない下山も、自分の手足さえはっきりとは見えぬ闇夜に2人は悪戦苦闘していた。
上から大柄なヒルダが落ちてきたら躱 しようがないと先に下ろさせようとしたら、暗いのは嫌だとか、足場がわからぬと朝までかかるとか抜かす脳筋をアイリは仕方なく後から下ろさせた。
わがままを通させたのは、1人で谷底に下りてもし生きていれば魔女とやり合うのが不安に他ならなかったからだったが、途中、少しでも人の声を聞いていたら気が紛れるからだった。
力もスピードも失った今、残ったのは不安だけだった。
いや、心身ともに共有していた憑 き物がいなくなり命の半分を失ったとアイリは感じていた。
父が迷宮で紡 がせたという青い龍は引き剥 がされて不安なのではともアイリは思った。
竜も命の半分を失っている。
永い年月 共に生きてきた。
だけど地上にいる理由はなくなった。青龍は天に帰れる。名も知らぬ友だったがアイリはぽっかりと胸に穴あいたように感じていることに驚いていた。
いきなり顔を掠 り人の頭ほどの岩が転げ落ちていった。
アイリは眼を細め上にいるヘルカを睨 んだが今度は怒鳴らなかった。
何のかんの言いながらも蛮族兵の長 であるヒルダ・ヌルメラは魔女討伐 について来てくれた。
聞くにミルヤミ・キルシはイルブイ国にはそう悪さはしていなかった。
何の益 もない命の危険さえある討伐 にヒルダはどうしてついて来たのだろう。
デアチ国をノーブルの属国とした勢いで西のイルブイ王家まで打倒した今、蛮族らの兵すべての頂点に立つのは自分だとアイリは思い起こした。
ヒルダに命じれば逆らうことできず従うしかないのに、来るかと聞いて一言返事で上の厳 つい女剣士はついて来ている。
まるでダチだとアイリは思った。他にもいる。テレーゼ・マカイやノーブル第3騎士ヘルカ・ホスティラも命じなくとも危険に身を曝 してくれる。
みんなマブダチだとアイリは感じた。
だけど今のままだと皆の足を引っ張ってしまう。そう思うとアイリは憂鬱になった。
暗がりに手探りで足場を確保しながら岩壁を下りてゆく。
「ヒルダ──」
「はい! 何ですかアイリ殿!?」
声をかけると喜ぶように大の大人が返事をした。
「急がなくていいからゆっくり確実に下りろよ」
とたんにバラバラと小石が落ちてきてアイリは顔を背け嬉しくても岩壁で小躍りするなと声に出さずに思った。
この高さだ。落ちたミルヤミ・キルシは助かりはしないだろう。ましてや暗がりでもわかるほどあんな大きな落石に巻き込まれたのだ。
魔女裁判できつい責め苦を受けるよりもよかったのかもしれないとアイリは思った。
魔女は十中八九火炙 りで処刑される。
酷く苦しむよりも滑落死の方がわけもわからずに死ねる。
ふとアイリは魔女が箒 に跨がり空を飛べることを思い出した。雷光に見えたミルヤミ・キルシは素手でなにも持たなかったはずだ。
だがあれはいつぞやベッドに乗って空を飛び平原に現れた。
もしかしたら落ちる途中で空中に逃げだしたかもしれなかった。
飛んでいるのならとうに襲ってきても不思議ではなかった。
岩壁に張りついている今襲われたら自分もヒルダもひとたまりもない。今度は自分たちが谷底へと落ちる番だ。
とりあえず半時 ほど襲われずにすんでいることにアイリは胸をなで下ろしながら片足の爪先で新しい足場を探りながらふと気づいた。
自分は脱ぎ捨てたが、ヒルダは滑る鉄靴 を履いたまま下りてるのではないか?
嫌な予感がした寸秒、上でヒルダが素っ頓狂な声を上げた。
「ひえぇええええ!」
直後、体格の大きな奴に直撃されてアイリ・ライハラはつかんでいた岩から両手が滑り離れた。
痛ぁあああああっ!
落ちてきた鶏の卵ほどの石が頭に当たって足下の暗闇に転がり落ちていった。
「阿呆ぅ! 3個目だぞ!」
アイリは後から下りてくる女大将ヒルダに
「御免でござるアイリ殿ぉ──」
アイリ・ライハラとヒルダ・ヌルメラは山道から落石に巻き込まれ谷底に落ちた魔女ミルヤミ・キルシの生死を確かめるため、かれこれ
暗くなければそう難しくない下山も、自分の手足さえはっきりとは見えぬ闇夜に2人は悪戦苦闘していた。
上から大柄なヒルダが落ちてきたら
わがままを通させたのは、1人で谷底に下りてもし生きていれば魔女とやり合うのが不安に他ならなかったからだったが、途中、少しでも人の声を聞いていたら気が紛れるからだった。
力もスピードも失った今、残ったのは不安だけだった。
いや、心身ともに共有していた
父が迷宮で
竜も命の半分を失っている。
永い
だけど地上にいる理由はなくなった。青龍は天に帰れる。名も知らぬ友だったがアイリはぽっかりと胸に穴あいたように感じていることに驚いていた。
いきなり顔を
アイリは眼を細め上にいるヘルカを
何のかんの言いながらも蛮族兵の
聞くにミルヤミ・キルシはイルブイ国にはそう悪さはしていなかった。
何の
デアチ国をノーブルの属国とした勢いで西のイルブイ王家まで打倒した今、蛮族らの兵すべての頂点に立つのは自分だとアイリは思い起こした。
ヒルダに命じれば逆らうことできず従うしかないのに、来るかと聞いて一言返事で上の
まるでダチだとアイリは思った。他にもいる。テレーゼ・マカイやノーブル第3騎士ヘルカ・ホスティラも命じなくとも危険に身を
みんなマブダチだとアイリは感じた。
だけど今のままだと皆の足を引っ張ってしまう。そう思うとアイリは憂鬱になった。
暗がりに手探りで足場を確保しながら岩壁を下りてゆく。
「ヒルダ──」
「はい! 何ですかアイリ殿!?」
声をかけると喜ぶように大の大人が返事をした。
「急がなくていいからゆっくり確実に下りろよ」
とたんにバラバラと小石が落ちてきてアイリは顔を背け嬉しくても岩壁で小躍りするなと声に出さずに思った。
この高さだ。落ちたミルヤミ・キルシは助かりはしないだろう。ましてや暗がりでもわかるほどあんな大きな落石に巻き込まれたのだ。
魔女裁判できつい責め苦を受けるよりもよかったのかもしれないとアイリは思った。
魔女は十中八九
酷く苦しむよりも滑落死の方がわけもわからずに死ねる。
ふとアイリは魔女が
だがあれはいつぞやベッドに乗って空を飛び平原に現れた。
もしかしたら落ちる途中で空中に逃げだしたかもしれなかった。
飛んでいるのならとうに襲ってきても不思議ではなかった。
岩壁に張りついている今襲われたら自分もヒルダもひとたまりもない。今度は自分たちが谷底へと落ちる番だ。
とりあえず
自分は脱ぎ捨てたが、ヒルダは滑る
嫌な予感がした寸秒、上でヒルダが素っ頓狂な声を上げた。
「ひえぇええええ!」
直後、体格の大きな奴に直撃されてアイリ・ライハラはつかんでいた岩から両手が滑り離れた。