第4話 骸骨

文字数 2,103文字


 熊の焼き肉に熊鍋で温まった一行は、また2人が見張り番に立ち残りはすぐに眠りについた。

 アイリ・ライハラが毛布にくるまりうとうとしだすと、横で寝ているイルミ王女が小声をかけてきた。

「アイリ────アイリ────」

「なんだよ? 寝てくれイルミ」

 めんどくさそうに少女は背中を向けて答えた。

「村人を襲ったのはあの熊ではありませんわ」

「なんでそんなことわかるの?」

「あの肉に背徳の味覚はありませんでしたから」

 アイリは熊が人を喰い殺していないと言われ嫌な予感がしだして身体を起こし座り込んだ。

「勘違いしてるんじゃねぇの? 騎士を喰おうとさらって行ったじゃねぇか」

 イルミ王女も身体を起こし少女に向かい座り込んだ。

「あれは恐らく森に誘い込みこちらの剣士を1人ずつ殺そうとしたもの。でなければこの場で腕の1本も喰い千切っているはずです」

 王女に言われアイリは顔を曇らせ、確かにそうだと思った。それじゃあ、襲ってきた奴は思い通りにゆかなかったので、(あきら)めるか、また襲ってくるしかない。

 (あきら)める────わけね~よなぁ。

 だが同じ手で攻めてくるとは思えない。輪を掛けて襲ってくるとなると────アイリは寝息もたてずに横になってるイラ・ヤルヴァの肩に手を掛けた。

「起きろイラ」

 いきなりガバッと女暗殺者(アサシン)が跳び起きたのでアイリは驚いて両手を振り上げ飛び退()いた。

「なっ、なんですか!? アイリ!?」

「し────っ! 声がでけぇ。また襲ってくるぞ」

「いやぁ~熊鍋はもういいです」

「熊じゃないかも」

「鹿か(うさぎ)ならいただきます」

 真面目な顔で言うイラをアイリは(のぞ)き込んだ。

「お前、ちゃんと起きてるか?」

「熊の肝! いえいえ、そんなものいりません」

 アイリはイルミ王女へ振り向き両肩をすぼめた。

「あぁ、こいつダメだ。放っておいてラハナトスとホスティラを起こそう」

 そう少女がイルミ王女へ告げた瞬間だった。いきなり横倒しにした荷馬車の外から(やいば)がぶつかる硬質の音が響いた。

 アイリが顔を振り向け自分の長剣(ロングソード)をつかみ立ち上がると、今度は真後ろの荷馬車の外からも鍔迫(つばぜ)り合いの音が響きだした。

 囲まれた! そう判断した刹那(せつな)、アイリ・ライハラは大声で怒鳴った。



「奇襲だぁ!!! 起きろ!!! (ソード)を持ち立ち上がれ!!!」



 少女は身体を起こし振り向いた女騎士ヘルカ・ホスティラの方へ数歩駆け騎士の右肩に飛び上がり、さらに蹴り込んでつんのめるヘルカを置き去りにし横倒しの荷馬車を一気に飛び越え(スキャバード)から細身の湾曲(ソード)を引き抜き外へ飛び降りた。

 そうして眼にしたもの。



 黒い骸骨(スケルトン!)────の群れ!!



 その髑髏(しゃれこうべ)数十体が右に(ソード)左に(シールド)を持ちガチャガチャと荷馬車へ迫り寄って来ていた。その数体相手に見張りだった2人の騎士が斬り合いをしている。

 アイリはまず敵をつぶさに見て黒光りしているスケルトンの手足だけが(やいば)の様に光っているのを気づき、さらにスケルトンの体格や身長がバラバラなことも見抜いた。

 もしかしたら────この村のどの家々にもあった残された手足の理由がやっと解けた。


 骸骨を抜かれそれを使い魔にされたんだ!


 あの色の違う手足──何かで強化されてる。


 それを他の者へ知らせようと少女が大声で怒鳴った刹那(せつな)、甲高く短い音が響いた。アイリが振り向くと闘っていた1人の騎士がスケルトンの腕を切り落とそうとして(やいば)を折ってしまい取り囲まれようとしていた。

(スキャバード)で戦え! ないよりマシだ!」

 そう大声で命じながらアイリは抜刀(ばっとう)しその男の元へ駆けた。

 走る彼女は鍔迫(つばぜ)り合いの音が周囲で増えている事に気づいた。6人が──リクハルド・ラハナトス騎士団長も女騎士ヘルカ・ホスティラ、女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァや他の騎士も戦っている。

 (ソード)を折った男を取り囲んだスケルトン6体の首を一瞬で切り落としたアイリはイルミ王女が心配になった。今や戦えるもの(みな)が荷馬車で取り囲んだ外にいる。

「イルミ! 危険が迫ったら私を呼んで! そこを出るな!」



「頑張んなさい、アイリ!!!」



 すぐ近くで声が聞こえたので向かい合ったスケルトンの首を切り落とし少女が振り向くと、イルミ王女が荷馬車の外で手を振っているのを眼にしギョッとなった。その王女目掛け3体の敵がガチャガチャと歩き寄って行く。


 アイリが慌てて向かおうと駆けだした目前を5体のスケルトンが立ちふさがった。



 イルミ・ランタサルに(ソード)が届きそうなほどスケルトンが迫っていた。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み