第21話 手練(てだ)れ
文字数 2,826文字
見えてきた荷馬車が1つなのか、4つなのか────。
ウチルイ国近衛兵団第1騎士のヨハンネス・クラミは城に戻ってきた第3騎士ヤロ・アホの報告に基づき騎士5騎と上級近衛兵30騎を伴い、侵入してきている密偵 を捕らえるため動いた。
有り得ないような巨大な鶏 の雛 に騎乗し帰城したヤロは悲惨な有り様で、その謎の密偵らに騎士レヴェルの剣士がおり完膚 なきまでにやられたのだとヨハンネスに訴えた。
1騎であれ自国の騎士が倒されたとあれば問題。
さらにその謎の密偵 らが南の大きな街、ヨルン近隣の奴隷を買いあさっているとの彼の報告を聞くに及 びヨハンネスは北の大国デアチが同盟を反故にしたのか調べる必要もあった。
捨て置くわけにはゆかず、隊 を組み捕縛 に向かったが、その謎の密偵 らはウチルイ国本城のヤランスカ城近辺で動くのでなく裏街道を真っ直ぐに北へ向かっており、第1騎士のヨハンネス・クラミはいよいよ北の大国デアチの手のものなのかと不安を抱いた。
見えだした荷馬車は動いておらず、商人や農民の使う粗末なもので、密偵 とはいえあまりにも屈辱的な旅装でとても騎士とは思えなかった。
手綱 を右に引き隊 横に馬を移動させたヨハンネスは荷馬車隊 が4台でヤロの言っていたもののように思えたが、気配を察してるはずなのに動く人影が見えず、乗り捨て逃げたのかとヨハンネスは考えた。
だが最後尾の荷馬車から離れた手前に、濃緑の服を着た小柄な子どもに見える人が立ってじっとしている事に気づいた。
近づくにつれ、その子どもが少女で見たこともないような冴え渡った蒼 い髪色をしており、左手に鞘 に収まった長剣 を持っている事で少女兵か、暗殺者 だと思いながらヨハンネスは馬をそのものの前──5ネフフス(:約15m)で止めると引き連れたもの達も手綱 を引き止まり馬の嘶 きが広がった。
間近で目にしたヨハンネスは少女の髪がまるで青い宝石だと思った。
「我らはウチルイ国近衛兵団! 答えよ娘! 他のものらは!?」
俯 いていた少女がゆっくりと顔を上げ前髪に隠れていた青の双眼で睨 みつけ言い放った。
「馬から見下ろすお前らは、上から目線で気に入らねぇ」
その反抗的態度に騎乗していた近衛兵らがざわつき下馬し腰の剣 に手をかけながら左右に広がった。
「娘! 貴様、どこの手のものだ! 答えよ!!」
ヨハンネスに誰何 され少女が押し殺した声で罵 った。
「だぁ、かぁ、らぁ! 気に入らないって言ってんだろ! 力でものを言うなら力に言葉を失うぞ!!」
言い捨てた直後、少女が剣 のグリップに右手を掛け腰を軽く落とした瞬間、一斉に近衛兵らが剣 を引き抜き前へ構えた。
目の前の小娘1人が刃 を抜いてもいない気迫にウチルイ国近衛兵団第1騎士のヨハンネス・クラミは顔を強ばらせ配下へ怒鳴った。
「気をつけろ! こいつとんでもない手練れだ!!」
警告した一閃 、少女が何か呟 きその蒼 い髪が引き伸ばされたリボンの如 く残像を曳 きながら放った矢の様な速さで左へ走った。
あぁ、嫌だ、イヤだ。
アイリ・ライハラは長剣 の鞘 をつかみ荷馬車から飛び降りると侍女 のヘリヤに荷台に乗ってろと告げ迫り来るものらの方へ歩きだした。
もめ事は嫌いなんだ。
でも馬の蹄鉄 に踏み拉 がれ、荷馬車の車輪に乗り上げられ、少々気分が尖 っていた。
騎士が5、近衛兵が30といったところ。やってくる連中の装備を眼にして少女は盗賊などでなくウチルイの兵らだと思った。
だけども旅の騎士達6人とイラ・ヤルヴァは投げつけた石で昏倒 しており────あっ!
アイリは指を折って投げつけた石を数えた。
1、2、3──6。
最初にヘルカ、次に騎士団長に、そのあと他の騎士3人。で、イラを昏倒 させた。くるんくるんはスカートを引っ張って顔面落としにしたし。
「ヨーナス! 聞いてるか!? 王女の傍 にいろ!」
若い騎士に声をかけて寸秒、彼が助かったとばかりに爽快 に返事をした。
「わかりましたぁアイリさん!」
なんて奴だと少女は思いながら、後は自分がやるしかなかいと開き直った。
向かってくる混成隊の中にあの縛り上げ放置した阿呆やろうがいるのを気づき、アイリはあれが城へ戻り手引きしたんだと眉根をしかめた。
荷馬車から十分に離れると少女は俯 き左手に長剣 を収めた鞘 を握りしめやってくる兵らを待った。
僅 かな間 で30騎あまりの兵が駆けつけ少し離れた手前に馬を止めた。そうして1人の男が声高に名乗った。
「我らはウチルイ国近衛兵団! 答えよ娘! 他のものらは!?」
ムカッときてアイリはゆっくりと顔を上げ言い返した。
「馬から見下ろすお前らは、上から目線で気に入らねぇ」
言われ男らがざわつき始め近衛兵らが剣 のグリップに手をかけながら左右に広がった。
「娘! 貴様、どこの手のものだ! 答えよ!!」
問いかけたのは甲冑 の仕上げから騎士の1人だと少女は理解した。眼光から恐らくは騎士の中でも上位の奴だとアイリは思った。だが何が腹立つというとその騎士の上から目線の物言い。
そりゃあ自分は田舎町の鍛冶職人の娘。
育ちの違いは百も承知。
アイリは腹立ちを抑える様にゆっくりと言い返した。
「だぁ、かぁ、らぁ! 気に入らないって言ってんだろ! 力でものを言うなら力に言葉を失うぞ!!」
言い捨てた直後、少女が剣 のグリップに右手を掛け腰を軽く落とした刹那、近衛兵らが一斉に剣 を引き抜き前へ構えにじり寄り始めた。
だがアイリはやり取りをした騎士から眼を離さなかった。睨 み合うといきなりその騎士が近衛兵らに警告した。
「気をつけろ! こいつとんでもない手練れだ!!」
気がついた時には、物事引き返せぬ峠 を越えているとアイリ・ライハラは思った瞬間、長剣 を引き抜きながら言い捨て右手へ駆けだした。
「シックス・ステップ!」
兜 を被る男らの驚愕の眼差しが一瞬でリーチの間合いに入った。
ウチルイ国近衛兵団第1騎士のヨハンネス・クラミは城に戻ってきた第3騎士ヤロ・アホの報告に基づき騎士5騎と上級近衛兵30騎を伴い、侵入してきている
有り得ないような巨大な
1騎であれ自国の騎士が倒されたとあれば問題。
さらにその謎の
捨て置くわけにはゆかず、
見えだした荷馬車は動いておらず、商人や農民の使う粗末なもので、
だが最後尾の荷馬車から離れた手前に、濃緑の服を着た小柄な子どもに見える人が立ってじっとしている事に気づいた。
近づくにつれ、その子どもが少女で見たこともないような冴え渡った
間近で目にしたヨハンネスは少女の髪がまるで青い宝石だと思った。
「我らはウチルイ国近衛兵団! 答えよ娘! 他のものらは!?」
「馬から見下ろすお前らは、上から目線で気に入らねぇ」
その反抗的態度に騎乗していた近衛兵らがざわつき下馬し腰の
「娘! 貴様、どこの手のものだ! 答えよ!!」
ヨハンネスに
「だぁ、かぁ、らぁ! 気に入らないって言ってんだろ! 力でものを言うなら力に言葉を失うぞ!!」
言い捨てた直後、少女が
目の前の小娘1人が
「気をつけろ! こいつとんでもない手練れだ!!」
警告した
あぁ、嫌だ、イヤだ。
アイリ・ライハラは
もめ事は嫌いなんだ。
でも馬の
騎士が5、近衛兵が30といったところ。やってくる連中の装備を眼にして少女は盗賊などでなくウチルイの兵らだと思った。
だけども旅の騎士達6人とイラ・ヤルヴァは投げつけた石で
アイリは指を折って投げつけた石を数えた。
1、2、3──6。
最初にヘルカ、次に騎士団長に、そのあと他の騎士3人。で、イラを
「ヨーナス! 聞いてるか!? 王女の
若い騎士に声をかけて寸秒、彼が助かったとばかりに
「わかりましたぁアイリさん!」
なんて奴だと少女は思いながら、後は自分がやるしかなかいと開き直った。
向かってくる混成隊の中にあの縛り上げ放置した阿呆やろうがいるのを気づき、アイリはあれが城へ戻り手引きしたんだと眉根をしかめた。
荷馬車から十分に離れると少女は
「我らはウチルイ国近衛兵団! 答えよ娘! 他のものらは!?」
ムカッときてアイリはゆっくりと顔を上げ言い返した。
「馬から見下ろすお前らは、上から目線で気に入らねぇ」
言われ男らがざわつき始め近衛兵らが
「娘! 貴様、どこの手のものだ! 答えよ!!」
問いかけたのは
そりゃあ自分は田舎町の鍛冶職人の娘。
育ちの違いは百も承知。
アイリは腹立ちを抑える様にゆっくりと言い返した。
「だぁ、かぁ、らぁ! 気に入らないって言ってんだろ! 力でものを言うなら力に言葉を失うぞ!!」
言い捨てた直後、少女が
だがアイリはやり取りをした騎士から眼を離さなかった。
「気をつけろ! こいつとんでもない手練れだ!!」
気がついた時には、物事引き返せぬ
「シックス・ステップ!」