第17話 どうしましょう

文字数 1,907文字

 退(しりぞ)く兵士らを追うようにアバドンはアイリ・ライハラの方へ進み出た。

 その背姿を見つめ御輿(みこし)玉座の王妃(おうひ)王妃(おうひ)イルミ・ランタサルは腰を浮かし食いついて見つめた。

 アイリ・ライハラはすでにサタンを捕らえていた。そのことを眼の前の深遠の王者は知らぬはずだった。1人の若き小娘と(あなど)れば墓穴を掘ることになる。万が一、途中で力量に気づいたところでアイリはみすみす逃がしたりしない。

 さあ、素手で魂を引き抜く魔物の総大将にどう立ち向かう。



 げげぇ! 兵士の魂を引き抜きやがった!

 アイリ・ライハラは三度その闇の王を名乗る黒塗りの大男の顔を刺そうと身構えていたが後退(あとず)さった。

 アバドンは魂を抜いただけでなくそれを(すす)り呑み込んでしまった。こいう時こそ(たて)になる女騎士ヘルカ・ホスティラを前に押し出しその(すき)に逃げるところだが、ヘルカがいたところで周囲をびっしりと騎士と兵士らが取り囲んでおり逃げ込む場所がなかった。

 何か方法はないか。

 眼を(およ)がせて何か姑息(こそく)な方法がないかとアイリは懸命に考えた。その合間にもアバドンは逃げ遅れた兵士らの首根っこをつかみ服を引き()がすように魂を抜いてそれを(すす)ると取り囲んでいる兵士らをかき分けて右手に女騎士ヘルカ・ホスティラが、左手にテレーゼ・マカイが出てきた。

「気をつけろ! 首をつかまれると魂を抜かれ喰われるぞ!」

 アイリが警告すると2人とも腕を広げ兵士らを押し下げた。

「次は貴様だ──」

 闇の王はそう言い捨てアイリ・ライハラの方へ脚を踏みだした。

 接近戦は駄目だとばかりにアイリは振り回す(ソード)の勢いを増してアバドンへ振り切った。

 闇の王はひょいとその風圧を(かわ)すと背後の御輿(みこし)に命中し砕けた(かつ)ぎ棒の一本が砕け散り、王妃(おうひ)イルミ・ランタサルは両膝(りょうひざ)を抱え上げ顔を引き()らせた。

 それを見てアイリは遠距離攻撃も駄目じゃんと(ソード)を振り回すのを止めてしまった。

「小娘、そこら辺の魔物みたく(わし)を簡単に倒せるなどと思うな。闇の王だぞ!」

 それを耳にして兵士らが大人しくしていなかった。腐っても王妃(おうひ)イルミ・ランタサルが引き連れてきたのは十字軍8万の兵。(ふところ)から小瓶(こびん)を取り出し闇の王へ投げつけた。

 小瓶(こびん)がアバドンにぶつかり中味が飛沫(しぶき)上げ闇の王にかかると黒い皮膚が(ほのお)を上げ燃え始め(わめ)いた。

「ぬ、おおおおっ! 聖水など卑怯(ひきょう)な!」

 それを見てアイリ・ライハラは近くの兵が手にする小瓶(こびん)を奪い取り(ソード)に叩きつけ割り聖水を(ソード)に浴びせた。そうして(ソード)を引き闇の王へ駆け込み胸ぐらを刺し()いた。

 (ソード)に触れた闇の王の黒い皮膚から(ほのお)がほとばしりアバドンは(うめ)き声を上げよろめくと女騎士ヘルカ・ホスティラと女剣士テレーゼ・マカイが同じように(ソード)を聖水で濡らしアバドンへ駆け込み首やわき腹を刺し(つらぬ)いた。

「くぬうぅぅぅ! ひ、卑怯(ひきょう)だぞ!」

 (わめ)(もが)くアバドンの胸にアイリ・ライハラはブーツ底を押し当て(ソード)を引き抜くと飛んできた小瓶(こびん)を空で受け(やいば)で叩き割り聖水を滴らせ闇の王の額を刺し貫いた。

 額から火焔を吹き出しアバドンは地に両膝(りょうひざ)を落として前に倒れると額に刺さっていた(ソード)が付け根まで食い込んで後頭部から突き出した。

 倒れて動かなくなった闇の王に兵士らはそれぞれの小瓶(こびん)を叩きつけ聖水で濡らすとうつ伏せに倒れた闇の王の背へ(ソード)を突き立てた。

 燃え盛り動かなくなったアバドンの熱気に耐えかねてアイリ・ライハラや他の騎士達はその(むくろ)から離れると王妃(おうひ)イルミ・ランタサルが拍手した。

「見事! 見事です! もはや魔王の(たぐい)も恐れるに足りませんね」

 大喜びの王妃(おうひ)へアイリは指差し怒鳴った。

「どうすんだこのどでかうんち(・・・)! こんなに兵集めて!? お帰り下さいは通らないぞ!」

 パンと王妃(おうひ)は閉じた扇子(せんす)を肘掛けに叩きつけ総大将に問うた。

「どうしましょうアイリ?」

「て、てめえ考えもせずにこんだけ方々から寄せ集めたのか!?」

 ポンとイルミ・ランタサルは扇子で額を叩き総大将に告げた。

「そうそうあなた方が蛮族数万と(ソード)ぶつけ合ってるから招集したんですよ」

「そ、そんな大軍はしらねぇ」

「だったらこうしましょうアイリ。これより西の蛮族国家イルブイへ攻め入り国王トピアス・カンナス・サロコルピ4世の首を取るのはどうでしょう?」


「どうでしょうって!? てめえ、やれと言ってるじゃん! (みんな)帰るぞ!」


 一斉にブーイングが起きてその騒ぎにアイリは頭を抱え込んだ。

 どうすんだぁ!? (みんな)やる気満々じゃん!

 胡乱(うろん)な表情でアイリ・ライハラは顔を上げると投げやりで兵士らに告げた。



「イルブイ国王トピアス・カンナス・サロコルピ4世の首を取りにゆくぞ」



 歓声に包まれアイリ・ライハラはしかめっ(つら)王妃(おうひ)イルミ・ランタサルへ中指を突き立てた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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