第28話 討議(とうぎ)

文字数 1,697文字


 伝令の鳩を飛ばしイモルキ王室打倒を知らせ二週間。

 護衛に護られた王妃(おうひ)イルミ・ランタサルが乗り込んできた。

 イルミは歓待を持って出迎えるものらを見るまで半信半疑だった。

 そうそう10名ほどの人数で国家転覆をはかれるものではない。

 王妃(おうひ)アグネス・ヨークと共に出迎えたアイリ・ライハラを手招きで呼び寄せた。

「ちょっとアイリ、どうなっているの!?」

「え!? 王制打倒したじゃん」

 玉座の王女が咳払いしたのでイルミは内輪の会話を中断した。

「アグネス・ヨーク殿、お招きくださりありがとうございます。(わたくし)はノーブル国王女、デアチ国、イルブイ国統合王妃(おうひ)のイルミ・ランタサルと申します」

「東の地へご足労ありがとうございます。私はこのイモルキを統治する王妃(おうひ)アグネス・ヨーク。ランタサル様に来ていただいたのはイモルキを共和国の一員にするためです。本来なら私が出向かなくてはならないところ。まだ王制が盤石(ばんじゃく)でなく国を離れられなく、イルミ・ランタサル様に来ていただきました」

 すげぇ────とアイリはアグネスの口上に驚いた。イルミ・ランタサルと同じ歳とはいえどこに出しても一端(いっぱし)王妃(おうひ)で通ると思った。

 アグネスが言った通りまだ政権には謀叛(むほん)(たくら)(やから)が散見し油断も(すき)もなかった。

 だが残された騎士らの教育も一通り終わり引き継いで、帰ろうかな──と言いだす機会をアイリはうかがっていた。

「さあ、イルミ・ランタサル様、(うたげ)をご用意しております」

 そう告げてアグネスが玉座から立ち上がりイルミ達一行を案内した。

 二人の後につきアイリは考えていた。

 金持ちになりたいわけじゃないし胸のすく冒険をしたいわけじゃない。

 普通の暮らしして普通の夢を見る。

 魔女だの魔族だの知っちゃいない。

 だから頑張って暮らす。

「え?」

 アイリが振り向くとヘルカとテレーゼがニコニコしていた。

「騎士団長、次は何するんですか?」

 ヘルカ・ホスティラに言われアイリはにやついた。

「普通、ふつう」

 そう言い少女は右手のひらを振って前を向いた。

 アグネスとイルミは楽しそうに談話しながら(うたげ)()に歩いている。

 もしもこいつらに牙むく(やから)がいたらただじゃおかない。

 肩を小突かれアイリは顔を向けると(ほお)に伸ばされた人差し指が食い込んだ。

「なに殺気を放っているんですか」

 テレーゼ・マカイに言われアイリは唇をすぼめた。

「秘密────」

 大陸にはまだ南のイルベ連合があった。(すき)あらば領土拡張を狙う国の寄せ集まり。拡大するノーブル共和国をどう見ているのか。連合を(つぶ)せば(いくさ)のない平穏な世の中になる。

 だがこれまでのように一国の政権を打倒したからと連合は変えることができない。

 九つの小中国からなる連合は支え合い政権を守り合っているヒュドラとも云われる国々。

 ともあれ父を追い立てた国はひっくり返した。

 それで十分。





 豪勢な料理が振るまわれた歓待の議が終わり、イルミとアグネスは王室の一つ──居間で話し込んだ。アイリとヘルカが護衛として部屋に入ることを許されその会話を膨張した。

「ええ、アイリ・ライハラの優秀さを強盗に襲われたときに気づきましたのよ」

 そうイルミが()めるのをソファの(かたわ)らに立つアイリは顔を背け知らぬ素振りでいるとアグネスが(そで)を引っ張って横に座らせた。

「紅い三連火(さんれんか)を倒した時も、一度倒されながら復活し見せた御業(みわざ)には舌を巻きました」

 そうアグネスが持ち上げるとイルミが()めちぎった。

「アイリは黄泉の地からの帰り道が見えるから不死身なのです」

 それにアイリは小さく舌打ちしイルミが気づいた。

「何ですかアイリ!? 思うところあるなら言いなさい」

「お前らなぁ、俺のことばっかで少しは国のことでも話し合えよ」

「あら? 手駒(てごま)のことを共有するのは大切ですよ」

手駒(てごま)だぁ!?」

 アイリは眼を丸くしヘルカへとそっぽを向いた。

「ヘルカ、お茶会に夢中の王妃(おうひ)らをお前に(たく)す」

 ヘルカは小鼻の横を指でぽりぽり()いて苦笑いしアイリに告げた。

「それは騎士団長の領分ですよ」

 とたんにアイリは両腕振り上げアグネスの横から立ち上がろうとして服裾(ふくすそ)を引っ張られ腰をソファに沈めた。



「こいつら、魔物────だぁ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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