第3話 太陽神の騎兵

文字数 1,805文字

 野営地の警護を任されている兵士らが掘り出してくれてアイリ・ライハラとテレーゼ・マカイは胸をなで下ろした。

「ったく! 埋めたまま(いくさ)に行きやがって! 敵が来たらどうすんだぁ!」

 アイリが服の土を払いながらこぼすとテレーゼがたしなめた。

「そう言うな。あの騎士は責任上いたしかなくそうしたまでだ」

 それを聞いてアイリは言い返し下唇を突き出した。

「どんな理由でも敵が来るかもしれない場所に埋めっぱなしにするかぁ!? イルブイって()えてるものも根こそぎ引き抜くって蛮族なんだぞ」

 それを聞いてテレーゼが鼻を鳴らしたのでアイリは怪訝(けげん)な顔で冥府から連れ帰った女騎士を見つめ(たず)ねた。

「ち、ちがうの──かぁ?」

「無知なものを祭り上げたものだな」

 テレーゼに言い捨てられアイリは(そば)で様子を(うかが)っている兵士3人に(たず)ねた。

「なあなあ、西のイルブイって筋肉バリバリの臭いゴリラみたいな連中だよなぁ?」

 大将の問いに兵士らはうんうんと(うなづ)いて肯定した。

「チィ、どいつもこいつも──経験浅いんだよ。いいかお前らイルブイの兵士らは────」

 テレーゼ・マカイが言い出しアイリや兵士らは違うのかと蛮族の兵士がどれほど恐ろしいのだと注目した。



「あいつらは超絶美男子ばかりで魅了(チャーム)魔法のように女騎士どころか男らも籠絡(ろうらく)して投降させる恐ろしい(・・・・)連中だ」



 美男子と聞いてアイリはテレーゼに言い返した。

「そ、そんなものに、ま、負けるわけねえじゃん」

 剣士ウルスラ・ヴァルティアを名乗るテレーゼ・マカイは顔を隠すスカーフの下で眼を細めた。

「アイリ、耳を立て小鼻をひくつかせているじゃないか」

 テレーゼに指摘されアイリは(あわ)てて鼻を両手で覆い隠し弁解した。

「そ、そんなこと──ねぇ──よ」

 それをテレーゼは鼻で笑い騎士団長に(たず)ねた。

「ところでアイリ、参謀長のヘルカ・ホスティラはイルブイの兵士と戦ったことがあるのか? お前同じノーブル国の出だろ。知っておるか?」

「知らねぇ。まああっちこっちで(いくさ)をしていたとは聞いたけど」

 答えアイリは心配げな面もちで国境(くにざかい)の方へ視線を向けた。

「50騎って言ったよな。行くぞウルスラ」

 アイリがそう言い切ると兵士らが(あわ)てて騎士団長と女剣士の馬を取りに走り去った。

「数では負けてないけど────その魅了(チャーム)魔法の兵士らってヤバいよ」

 大将の本音にスカーフの下でテレーゼ・マカイは一瞬驚いた。見てくれだけ19だというまだ子供だと小馬鹿にしているものが(あなど)れないことに気づいた。

魅了(チャーム)魔法じゃない。美男子というだけだ」

 そう告げる女剣士に背を向けアイリ・ライハラは兵士が連れてきた馬に飛び乗ると馬の腹を(かかと)で蹴りつけ土埃(つちぼこり)の巻き上げ走り出し、後を女剣士ウルスラ・ヴァルティアが追い始めた。




 な、なんだ!?

 眼にする越境者らが異質なことに女騎士ヘルカ・ホスティラは正直困惑した。

 イズイ大陸西の大国イルブイは古くからノーブル国の戦略的位置を理解して占領しようと(いくさ)を仕掛けていた。

 ヘルカ・ホスティラは駆け出しの騎士のころからイルブイとの戦いは経験しまるでゴブリンのような蛮族だと知っていたし、イルブイ兵との(いくさ)を経験したほかのものらも人間離れしたその連中を知っていた。

 だが今、侵入してきている兵──ほとんどが騎士に見える連中は()った装飾を施された甲冑(アーマー)に身を包み、しかも1人ひとりがまるでアポローンの(ごと)き引き締まった肉体をしている。

 離れているので顔は見えぬが、どいつもがウエーブがかった金髪を(なび)かせている。

 こいつら本当にイルブイの連中なのか!?

「ホスティラ殿、いかがいたしますか? あいつら迷い込んだ風には見えません。真っ直ぐに国境(くにざかい)を越えています」

 数で討伐隊(とうばつたい)が勝っており、力でもこちら優勢に見えるのだが、ヘルカ・ホスティラは嫌な予感に(さいな)まれていた。


「あいつらを正面、左右から(おさ)える。30騎ずつで別れ全速で接敵! かかれ!」


 そう命じヘルカは正面を(はば)む隊の先陣を切って馬を爆走させた。

 3方から迫る騎兵に侵入者らは馬の手綱(たづな)を引き馬をいななかせ立ち止まる目前にヘルカ・ホスティラの30騎が迫り顔の見分けつく場所に辿(たど)り着いた。

 女騎士ヘルカ・ホスティラは暴れる馬を落ち着かせ大声で越境者らに怒鳴った。

「貴様ら! ここをデアチ国領土と知って立ち入ったのか!?」


 その美貌(びぼう)の騎士らが笑顔を浮かべた瞬間、ヘルカ・ホスティラはまるで取り憑かれように魅入られてしまった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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