第29話 痛心(つうしん)
文字数 1,789文字
群衆の野次 や投げつけるものの多さに並び壁となる近衛兵らがいたるところで市民と揉めていた。
怯えきった稀代の魔女が牢 馬車から下ろされ罵声 はさらに高まり十字架に張り付けになった。
魔女と白状し確定したミルヤミ・キルシの裁判後、刑が速やかに行われる運びとなり、その火刑場にキルシは引き出された。
火が放たれようとして火刑が始まる寸前、イズイ大陸のカラサテ教最大の宗派の総本山──ヴィツキン市国から早足の伝令が処刑場へ戻ってきた。
教皇 ──ヨハネ・オリンピア・ムゼッティの書簡を詠み上げるアイリ・ライハラを王妃 イルミ・ランタサルや全教区統括異端審問司祭ヘッレヴィ・キュトラは同じ死罪という事で押し止めることができなかった。
アイリ・ライハラは十字軍総大将の名において教皇 へ具申 し処刑方法を変更させた。
処刑場の同じ広場にあるそこに十字架から下ろされた魔女ミルヤミ・キルシは即座に処刑人らに連れられ、後ろ手に手枷 をかけられその処刑倶に頭 垂れた。
その間 だずっとアイリ・ライハラはキルシに付き添っていた。
「最後に願い事はあるか?」
処刑人は魔女の口の拘束倶 を緩め俯 いたキルシに問いかけた。
「アイリ────騎士アイリ・ライハラにお話しが」
少女がキルシの傍 らに寄り顔を近づけた。
「どうしたキルシ?」
「怖い────こわい────お願い────────終わるまで手を握りしめて────」
震える声で魔女キルシは懇願 した。
アイリは両手の籠手 を外し素手で魔女の後ろ手を握りしめた。厳しい尋問で黒爪をすべて剥 がされた拘束倶 で寄せられた小さな手が震えきっていた。
「心配しないで。私がこうして傍 にいるから」
アイリはできるだけ優しくそう告げ処刑人に顔を向け命じた。
「目隠しの頭巾を被せてあげて」
魔女へ気配りする英雄と云われるアイリ・ライハラを見つめる処刑人の黒の三角頭巾から覗 く眼が動揺していたが男は頷 くとすぐに黒い麻布が魔女の頭に被せられた。
処刑人が用意し、その瞬間、群衆の罵声 が静まり返った。
「ありがとう────アイリ」
重い刃 が真っ直ぐに落ちる寸前、そうミルヤミ・キルシが厚い布越しに言ったのをアイリ・ライハラは確かに耳にした。
終わっても少女は魔女の手を握りしめていた。
細い指が硬直し弛緩 してゆく感触を手の中に感じながらアイリは桶 に落ちた黒髪の少女の一部をぞんざいに扱おうとする処刑人に警告した。
「ミルヤミ・キルシの遺体を死体捨て場に出すな!────俺が埋葬する」
言い放ち立ち上がり断頭台を回り込みアイリ・ライハラは両手で桶 を抱き上げた。
魔女が流す血が黒いと誰にも言わせたくなかった。
それはもう言葉を喋 り釈明できない。
死者に鞭 打つことをしてはならないとアイリは思いながら断頭台の階段を下りた。
丘の上を風が駆け抜け群青の髪を横へ揺らした。
墓場でなく人里離れた明るい丘の上に決めたのは、いつかアレクサンテリ・パイトニサムがこの墓石を見つけ人目を忍んで涙するにふさわしい場所にとアイリが選んだ。
アイリが胸の前で十字切り両手を結びあわせると横にいるノッチがぼそりととんでもないことを言い始めた。
「アイリ、これで終わったと思うな」
「────どういう意味だよ?」
「アーウェルサ・パイトニサム裏 の魔女のキルシには姉がいる。そいつも魔女だ」
アイリ・ライハラは顔を強ばらせノッチス・ルッチス・ベネトスへ振り向いた。
まさか生きてる親族が孫以外にいるなど思いもしなかった。
しかもそいつも魔女だと天上人 は言うのだ。
だがこれまで裏の魔女以外に大陸での魔女の大きな悪評を耳にしたことはなかった。魔女も悪人ばかりとは限らない。
少女は唇を歪 ませ下唇を噛んだ。
「いつか死ぬために生きてる奴だ」
ノッチのその表現にアイリ・ライハラはそのキルシの姉という魔女が覚悟の上の悪党なのかと思った。
少女の青い瞳が座るのを見てノッチは眼を細めアイリに言い切った。
「やる気だな?」
「いや、どんな奴か確かめるのが先だ」
そう告げアイリ・ライハラはミルヤミ・キルシの墓石に踵 返し帯刀のハンドルに左手をかけ無言で丘を下り始めた。
丘裾 に馬車 から下りた王妃 が少女と連れが戻るのをじっと見上げ待っている姿があった。
アイリ・ライハラはミルヤミ・キルシの姉が魔女であるとイルミ・ランタサルにどう切りだしたらいいのか焦慮 した。
怯えきった稀代の魔女が
魔女と白状し確定したミルヤミ・キルシの裁判後、刑が速やかに行われる運びとなり、その火刑場にキルシは引き出された。
火が放たれようとして火刑が始まる寸前、イズイ大陸のカラサテ教最大の宗派の総本山──ヴィツキン市国から早足の伝令が処刑場へ戻ってきた。
アイリ・ライハラは十字軍総大将の名において
処刑場の同じ広場にあるそこに十字架から下ろされた魔女ミルヤミ・キルシは即座に処刑人らに連れられ、後ろ手に
その
「最後に願い事はあるか?」
処刑人は魔女の口の
「アイリ────騎士アイリ・ライハラにお話しが」
少女がキルシの
「どうしたキルシ?」
「怖い────こわい────お願い────────終わるまで手を握りしめて────」
震える声で魔女キルシは
アイリは両手の
「心配しないで。私がこうして
アイリはできるだけ優しくそう告げ処刑人に顔を向け命じた。
「目隠しの頭巾を被せてあげて」
魔女へ気配りする英雄と云われるアイリ・ライハラを見つめる処刑人の黒の三角頭巾から
処刑人が用意し、その瞬間、群衆の
「ありがとう────アイリ」
重い
終わっても少女は魔女の手を握りしめていた。
細い指が硬直し
「ミルヤミ・キルシの遺体を死体捨て場に出すな!────俺が埋葬する」
言い放ち立ち上がり断頭台を回り込みアイリ・ライハラは両手で
魔女が流す血が黒いと誰にも言わせたくなかった。
それはもう言葉を
死者に
丘の上を風が駆け抜け群青の髪を横へ揺らした。
墓場でなく人里離れた明るい丘の上に決めたのは、いつかアレクサンテリ・パイトニサムがこの墓石を見つけ人目を忍んで涙するにふさわしい場所にとアイリが選んだ。
アイリが胸の前で十字切り両手を結びあわせると横にいるノッチがぼそりととんでもないことを言い始めた。
「アイリ、これで終わったと思うな」
「────どういう意味だよ?」
「アーウェルサ・パイトニサム
アイリ・ライハラは顔を強ばらせノッチス・ルッチス・ベネトスへ振り向いた。
まさか生きてる親族が孫以外にいるなど思いもしなかった。
しかもそいつも魔女だと
だがこれまで裏の魔女以外に大陸での魔女の大きな悪評を耳にしたことはなかった。魔女も悪人ばかりとは限らない。
少女は唇を
「いつか死ぬために生きてる奴だ」
ノッチのその表現にアイリ・ライハラはそのキルシの姉という魔女が覚悟の上の悪党なのかと思った。
少女の青い瞳が座るのを見てノッチは眼を細めアイリに言い切った。
「やる気だな?」
「いや、どんな奴か確かめるのが先だ」
そう告げアイリ・ライハラはミルヤミ・キルシの墓石に
アイリ・ライハラはミルヤミ・キルシの姉が魔女であるとイルミ・ランタサルにどう切りだしたらいいのか