第18話 愛の嘴(くちばし)
文字数 2,270文字
天気も良く、風が今日は気持ちいいんだべ。
農婦のイェンナ・ハルメは自宅から一番遠い畑の手入れをするため、手に抱えた籠 に鎌 を入れ道沿いの草地を歩いていた。
彼女は風に乗ってくる獰猛 そうな獣の唸 り声に立ち止まった。
耳を立てるとどうも野犬の唸 り声が幾つか重なって得体の知れぬ獣の声に聞こえている事に気づいた。
たとえ犬であっても馬鹿にして関わると大怪我になる。イェンナはそう思い遠回りをしようと足運びの向きを変えた。その直後だった。
唸 り声の合間に人の喚 きが聞こえる。
大変だべ! 人さんが襲われている。
彼女は籠 から鎌 を取り出し籠 を地面に下ろし草地を野犬の唸 り声の方へ急いだ。
しばらく行くと草叢 に動き回る数匹の野犬の背や尻尾が見えイェンナは鎌 を構え大声で怒鳴りながらその方へ小走りになった。
野犬が顔を上げ彼女に気づき後退 さった。
それを見てイェンナは走り鎌 を振り上げた。
その勢いに野犬は恐れ一気に逃げ出したが、草で見えなかった拳 より大きな石につまづき彼女は前に倒れた。
その振り上げた手にした鎌 が地面に突き刺さり刃 の傍 に目を大きく開き引き攣 らせた男の顔があった。
イェンナは草叢 に横倒しなり、海老反りの格好で縛られている鎧 を着た男と目が合い苦笑いを浮かべ尋ねた。
「おまぁさん、こんただ所でそがんだ格好してさ、変態がね?」
とたんに男が石を咥 えた口で喚 き始めた。
イェンナは身体を起こし鎌 でやたらと結び目のある縄 を切り男を自由にした。
男は座り込み口に押し込まれていた拳 大の石を指を突っ込み口からひねり出し助けた彼女に怒鳴った。
「我は近衛兵団第3騎士ヤロ・アホだ! 変態ではない!」
名乗られてイェンナは一瞬驚き苦笑いを浮かべ彼に告げた。
「なぁんだばさ。騎士どのの阿呆野郎 だったがね。だぁから自分で縛って犬に遊んでもらってがんだね」
「違うぅ! 1人でこんな風に縛れるかぁあ!」
そう怒鳴りヤロ・アホは身体を仰 け反 らせ唾 を飛ばした。
「まあ、そげな事はどげんでもよか。それよりー、おまぁさん、鼻と指からそんただ血ぃ流してぇ、汚いもん入ると腐れんでぇ。家に来なはれー。手当てしてやるさかい」
そう言って立ち上がった女の言ってる事が時々わからんとヤロ・アホは蔑 んだ顔で眉根をしかめ立ち上がった。
女の粗末な藁葺 き小屋に着き、招き入れられヤロ・アホは仕方なく中に入った。日中でも暗い室内に荒い手作りのテーブルと長椅子が左右にあり奥に1つだけベッドがあった。
「お前、所帯持ちじゃなかったのか?」
椅子に腰を下ろしながらヤロ・アホが尋ねた。
「そうだべさ。旦那はぁ3年前にころっと行っちまっただぁ────やっだぁ!」
いきなり女から頬 を横殴りに叩 かれヤロ・アホは椅子から落ち掛かった。
「おまぁさん、あてをたぶらかそうと」
「するかぁ!」
ヤロ・アホが怖い顔で睨 んだのでイェンナは両肩をすくめ棚の小籠 から草を一掴 みし小皿に乗せそれをテーブルの上で木の棒を使い押しつぶし始め見ていた彼は切りだした。
「何を始める気だ? 呪術なら断る。これでも聖教会の加護にある身だ。不浄の────」
いきなりまた女から頬 を横殴りに叩 かれヤロ・アホは椅子から落ち掛かった。
「やだぁさぁ、これ薬草なんよ。塗ったら怪我が膿 んだりせんからぁさ」
「そ、そうか──」
椅子に座り直した彼が頷 くとイェンナが尋ねた。
「おまぁさん、あんただ所でぇ、何してさぁ? 強盗にでもあったかぁ?」
問われ彼は思いだした。
あの行商人どもは、どこぞの騎士団らしき偽 り名を語り、我の剣 を二振りも駄目にし、暴力を働いた。とヤロ・アホは本末転倒に思いだした。
「女、馬はないか!? 至急城に戻らなければならん」
鼻筋に薬草の汁を細い木のへらで塗ってくれている顔の近い女が一瞬考える素振りで頷 いた。
「あるんだけれどもさぁ」
手当てをしてもらい小屋裏の木柵をまわされた狭い放牧地にいる生き物を目にしてヤロ・アホは顎 を落とした。
馬じゃない────。
「女、あれは何だ!? あの鶏 の子を────」
「ポイカネンだべ」
「何だと!?」
「鶏 の雛 だべさ」
「鶏 の子はあんなに大きくないぞ────」
「たくさんえさやって、さんさんと降り注ぐお天道さんの下で好きにさせてたら、あそこまで育ったべ」
餌 と日光でこんなにでかくならん!
そうヤロ・アホが考えた直後、女の姿を見て餌 がもらえるとその大き過ぎる雛 がびよびよと鳴きながら元気にやってきた。
思わずヤロ・アホは逃げ腰になってしまった。自分より頭3つ高く、横幅など馬の尻の倍以上もある。
「こいつに────乗れるのか?」
「ああ、時々背中に乗って遊んであげんべ」
「本当に────乗れるのか?」
「あーのちんこい羽の付け根に両足引っ掛けて頭後ろのもふもふばつかんで操るんだべ」
近づいたらシャベルよりでかいあの攻城兵器でつつかれそうだとヤロ・アホは思った。
「どうやって乗る?」
そう近衛兵団第3騎士が問うと女がぽんぽんと手を2度叩 き鳴らした。その直後巨大な雛 がくるりとお尻を向けた。
「手を鳴らすとこうやって背中向けんべ。羽の手入れしてくれると思ってるんだべ」
ヤロ・アホは腰袋の口を開き手を差し入れ中味を少し取りだしそれを女に手渡した。数枚の金貨にイェンナは目を丸くした。
「礼だ。受け取れ。用が済めばポイカネンは返しに来る」
そう言ってヤロ・アホは柵を乗り越えそっと雛 に近づいたらいきなりそいつが振り向いて彼を見下ろし目があった。
まるで5人の大男からシャベルで殴られてる様に嘴 打撃を浴びせられた。
農婦のイェンナ・ハルメは自宅から一番遠い畑の手入れをするため、手に抱えた
彼女は風に乗ってくる
耳を立てるとどうも野犬の
たとえ犬であっても馬鹿にして関わると大怪我になる。イェンナはそう思い遠回りをしようと足運びの向きを変えた。その直後だった。
大変だべ! 人さんが襲われている。
彼女は
しばらく行くと
野犬が顔を上げ彼女に気づき
それを見てイェンナは走り
その勢いに野犬は恐れ一気に逃げ出したが、草で見えなかった
その振り上げた手にした
イェンナは
「おまぁさん、こんただ所でそがんだ格好してさ、変態がね?」
とたんに男が石を
イェンナは身体を起こし
男は座り込み口に押し込まれていた
「我は近衛兵団第3騎士ヤロ・アホだ! 変態ではない!」
名乗られてイェンナは一瞬驚き苦笑いを浮かべ彼に告げた。
「なぁんだばさ。騎士どのの
「違うぅ! 1人でこんな風に縛れるかぁあ!」
そう怒鳴りヤロ・アホは身体を
「まあ、そげな事はどげんでもよか。それよりー、おまぁさん、鼻と指からそんただ血ぃ流してぇ、汚いもん入ると腐れんでぇ。家に来なはれー。手当てしてやるさかい」
そう言って立ち上がった女の言ってる事が時々わからんとヤロ・アホは
女の粗末な
「お前、所帯持ちじゃなかったのか?」
椅子に腰を下ろしながらヤロ・アホが尋ねた。
「そうだべさ。旦那はぁ3年前にころっと行っちまっただぁ────やっだぁ!」
いきなり女から
「おまぁさん、あてをたぶらかそうと」
「するかぁ!」
ヤロ・アホが怖い顔で
「何を始める気だ? 呪術なら断る。これでも聖教会の加護にある身だ。不浄の────」
いきなりまた女から
「やだぁさぁ、これ薬草なんよ。塗ったら怪我が
「そ、そうか──」
椅子に座り直した彼が
「おまぁさん、あんただ所でぇ、何してさぁ? 強盗にでもあったかぁ?」
問われ彼は思いだした。
あの行商人どもは、どこぞの騎士団らしき
「女、馬はないか!? 至急城に戻らなければならん」
鼻筋に薬草の汁を細い木のへらで塗ってくれている顔の近い女が一瞬考える素振りで
「あるんだけれどもさぁ」
手当てをしてもらい小屋裏の木柵をまわされた狭い放牧地にいる生き物を目にしてヤロ・アホは
馬じゃない────。
「女、あれは何だ!? あの
「ポイカネンだべ」
「何だと!?」
「
「
「たくさんえさやって、さんさんと降り注ぐお天道さんの下で好きにさせてたら、あそこまで育ったべ」
そうヤロ・アホが考えた直後、女の姿を見て
思わずヤロ・アホは逃げ腰になってしまった。自分より頭3つ高く、横幅など馬の尻の倍以上もある。
「こいつに────乗れるのか?」
「ああ、時々背中に乗って遊んであげんべ」
「本当に────乗れるのか?」
「あーのちんこい羽の付け根に両足引っ掛けて頭後ろのもふもふばつかんで操るんだべ」
近づいたらシャベルよりでかいあの攻城兵器でつつかれそうだとヤロ・アホは思った。
「どうやって乗る?」
そう近衛兵団第3騎士が問うと女がぽんぽんと手を2度
「手を鳴らすとこうやって背中向けんべ。羽の手入れしてくれると思ってるんだべ」
ヤロ・アホは腰袋の口を開き手を差し入れ中味を少し取りだしそれを女に手渡した。数枚の金貨にイェンナは目を丸くした。
「礼だ。受け取れ。用が済めばポイカネンは返しに来る」
そう言ってヤロ・アホは柵を乗り越えそっと
まるで5人の大男からシャベルで殴られてる様に