第6話 最上階層

文字数 1,847文字

 洞窟(どうくつ)に入るにあたり若い騎士らが率先して落ちてる枝を拾い集め松明(たいまつ)作りに励み出したのをアイリ・ライハラは止めに入った。

松明(たいまつ)はいらないよ。発光石があるから」

「はっこうせき? 何ですかそれは?」

 数人の騎士が騎士団長に(たず)ねた。

 アイリが腰袋から発光石を取り出すと陽で照らすよりも明るい光が広がった。

「光放つこの石を数人に渡すからこれで洞窟(どうくつ)内を照らし出しなさい」

 ポイポイと騎士らに発光石を投げ渡しアイリ・ライハラは数人の若手騎士を指名した。

「────から中堅騎士の順に入んなさい。それでは探索開始」

 騎士らが洞窟(どうくつ)へ入って行くと女参謀長ヘルカ・ホスティラがアイリに尋ねた。

「アイリ、私らだけ止めとく?」

「さすがにそれはないでしょ」

 真顔で応えたアイリにヘルカは笑顔を浮かべた。

「だよな」

 歩きだしたヘルカに続いてアイリも迷宮に入り26人全員が探索に踏みだした。

 入り口の明かりが届かぬ奥にアイリとヘルカが入ると先頭が騒ぎ始めた。

「どうしたぁ? 大丈夫かぁ?」

「き、騎士団長ぉ! 顔に兜蟹(かぶとがに)みたいなものがぁ! 顔に張り付きましたぁ!」

「大丈夫だぁ。そいつは寄生甲虫といって動物の顔に飛びついて卵を産みつけるんだ。半日もすると頭を食い破ってコイツの幼虫がわらわらと────」

 アイリの説明を聞いて誰かが悲鳴をあげたのでヘルカ・ホスティラが(あわ)てて訂正した。

「大丈夫だぞ。騎士団長の冗談だ。そいつは乾燥虫といって生き物の水気の多いところに飛びつき水分を奪うだけだ。卵を産みつけたりしないぞ。口を布で覆ったら襲われない。でないとその虫に取り()かれると生臭い匂いがなかなか口周りから消えないからな」

「だけど水気が多いのなら、ピチピチしてる騎士団長殿のと参謀長殿が1番危険なのでは」

 2人の近くにいる中堅騎士がそう言いながら振り向くとアイリ・ライハラに10匹の乾燥虫がたかっていた。だがヘルカ・ホスティラには1匹も寄りつかない。

「げほげほげぇぇぇえ」

 アイリは咳き込みながら引き()がしては投げ引き()がしては壁に投げつけた。ヘルカはそれを拾っては自分に押しつけるのだが、さわさわと乾燥虫が逃げてゆく。

「おんどりゃぁ!!!」

 頭にきてヘルカ・ホスティラは剣を引き抜き乾燥虫を叩き潰し始めた。

 きつい匂いとぬらぬらした感触にげぇげぇ吐きかかるアイリの周りでヘルカは(ほとん)どの乾燥虫を叩き潰した。

 26名の騎士らが乾燥虫の被害を逃れると先頭の1人が暗闇に引き()り込まれた。

 その音に発光石を振り向けたが暗闇側に引き()り消える鉄靴(サバトン)が見えただけだった。

 (あわ)ててそれを追いかけ騎士らは走った。

 踊る明かりに距離が狭まると人よりも背の高い何ものかがその連れ去られた騎士を引っ張ってるのが見えた。

「マンティドだぁ!」

 事前にアイリらに教えられていた騎士らの数人がその大カマキリの後ろ姿に名前を(さけ)んだ。

 逃げ切れぬと(さと)ったマンティドはいきなり立ち止まり振り向くなり大きな(かま)を構え上げた。そこへ追いついた騎士らと1匹の大カマキリは剣と(かま)で打ち合いになった。3つの(かま)で追いつかなくなったマンティドは捉えていた騎士を放し4つ腕で()りあい捕まっていた騎士は周囲の騎士の方へ逃げ延びた。

 追いついたアイリとヘルカは押している騎士らの後方で長剣(ロングソード)を引き抜いた。

 だが圧倒的な数の差に大カマキリは次々に(かま)を切り落とされ胴や首を斬られ(くず)れ落ちた。

 倒れ込んだ魔物の(からだ)(くず)れ赤く耀(かがや)く魔石を騎士の1人が拾い上げアイリの元に行き手渡そうとした。

「魔石は倒したものが持っていろ。後で街で換金できるので報奨金とする」

 油断した騎士らの後方から赤い2対の目が近づいていた。

「お客さんだぞ──お前ら」

 その2対が発光石の明かりの下に姿現すと、疲れ知らぬとばかりに振り向いた騎士らが(ソード)を構えた。

 現れた魔物は2体のマンティドだった。

 (かま)が8つあっても対する(ソード)は26振り。

 1度目にイルミ・ランタサルらと来た時は騎士も少なく魔物に押されたが、今回は26人。余裕だとアイリ・ライハラは高を(くく)ると天井を伝って別な魔物が近づいていた。

 洞窟(どうくつ)の天井に沿って広がる無数の糸の中央にイルミ王女の乗る馬車(キャリッジ)ほどもの大きさをした胴体の手足の長い蜘蛛(くも)がいた──いいや、もうそれは蜘蛛(くも)とは呼べない別な生き物だった。

 躯は黒と汚い黄色の縞模様でその模様が手足まで広がっており、躯の表面に人の指ほどもある硬毛が(まば)らに生えている。

 その尻先から出された糸がアイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラに(から)まった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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