第9話 前門のなんとか、後門のなんとか
文字数 1,669文字
木の幹に背をつけ身を潜めたアイリ・ライハラは近づく気配に息を殺した。
「姉様、ここらは砂場じゃないので足跡が──」
家2軒ぶんほどしか離れていない。言ってるのは叫び声で斬りつけるマカイのなんてろの双子の1人だと少女は思った。自分が斬 り刻んだものが歩き回りしゃべっているのは気持ち悪いものだった。
追いかけて探し回っているのは、仲良くお話ししましょうなんてとは思えない。
武器さえあれば体格で勝る連中を倒すのは造作もないのに。
「くそう、捕まえて何度も手足を落してやるのに」
聞こえてきた内容にアイリはゾッとした。足跡がどうのと言っていたのとは違う方の双子の片割れだった。完全に怨みを買っている。これではっきりした。手足を斬 り落とすというぐらいだ剣 を携 えいるはずだった。
落ちてる木の枝を振り回しても太刀打ちできない。小石を投げたところで痛がって逆に激高するだけだろう。一瞬、少女は大きな石を双子に投げつけ剣 を奪うことを考えて頭 振った。
ダメだぁ! あいつらの剣 を握ると呪われるんだった!
「臭いは残っているのでここを通ったのは間違いない」
先頭 の声だった。いつの間にか連中に組みしている。まあ、奴の小舟から叩き落としてその舟で岸へ殴り飛ばしたので無理もないか。それでも爺 のくせに鼻がきくのか。油断ならないとアイリは思った。
隠れている木の反対側で足音が遠ざかってゆく。
まだだぁ。すぐに動き出すと見つかってしまぅ。
「子豚が1匹、子豚が2匹、子豚が────」
少女は呟 き500数えたらこの場を離れることにした。
だけどなんで死者の国にきて連中だけ甲冑 着て剣 持ってるんだ!? それに比べ自分は短剣1つない。不公平だろう。
「子豚が31匹、子豚が32匹、子豚が────」
数えながら少女は考えた。マカイの双子が剣 を持ってるならこの地でも行くとこに行けば他の得物 があるかもしれなかった。
考えごとに熱中するあまり少女はどこまで数えたかわからなくなった。
数えるのを止めて耳を澄ますと落ち葉踏みしめる音が聞こえないことに気づいた。
くるっと幹を回り込み足音の遠ざかった方を見つめる。木立の間 にもカローンと双子の姿はなかったのでアイリは反対側へ歩こうと振り向いた。
家十数軒先という中途半端な近さで、黒騎士と闘技場 で始末した元老院長、それにくるんくるんの家臣 だったデアチ国に寝返った奴が顔を合わせた途端に立ち止まった。
アイリ・ライハラは思わず苦笑いして頭を掻いた。
「貴様ぁ! イルミ・ランタサルの騎士!」
「いいえ、懐刀 です」
少女が茶化して言い返した寸秒、元老院長が片腕振り上げ指さし怒鳴った。
「ヴォルフ・ツヴァイク! そやつを斬 り殺せぇ!」
怒鳴り命じる老獪 を回り込み黒騎士が大剣 を引き抜いた。それを眼にしてアイリは反則だと思って顔を引き攣 らせた。
それに怨 みすぎだろぅ!
生者の世界での因果応報がハデスの地で影響するなら、悪逆非道のこいつらの方が死者の集団に襲いかかられるだろう。
なんでのうのうと歩き回ってるんだぁ!?
後退 さる少女は後ろから走ってくる複数の足音を耳にして横顔を向け流し目で確かめると双子の女騎士とカローンが駆け戻って来るところだった。
ピ────ンチ!
女連れの親父が三股かけた女らと村でばったり出くわす級のピンチだとアイリは頬 に冷や汗を浮かべた。そういうときは親父は下手な言い訳はしないと決めていた。
脱兎 のごとく駆け出し逃げるんだ。
卑怯 だが女相手に口上で言い逃れできるとは決して考えない。
少女は前か後かと天秤にかけ、直後、黒騎士へと凄まじい勢いで駆けだした。
大剣 を振りかぶった大柄な騎士が迫りアイリはいきなり尻を落とし黒騎士の広げた足の間へ滑り込んだ。すり抜けたアイリは勢いで跳び上がり元老院長とイルミの家臣 だった男らを跳ね飛ばすと駆け続けた。
敵は6人。だが厄介 なのは3人の騎士らだった。
取りあえず逃げ切る────はずだった。
後ろから双子らが叫ぶとアイリ・ライハラの向かう先の木々がバタバタと倒れ始めて先を塞いだ。
「姉様、ここらは砂場じゃないので足跡が──」
家2軒ぶんほどしか離れていない。言ってるのは叫び声で斬りつけるマカイのなんてろの双子の1人だと少女は思った。自分が
追いかけて探し回っているのは、仲良くお話ししましょうなんてとは思えない。
武器さえあれば体格で勝る連中を倒すのは造作もないのに。
「くそう、捕まえて何度も手足を落してやるのに」
聞こえてきた内容にアイリはゾッとした。足跡がどうのと言っていたのとは違う方の双子の片割れだった。完全に怨みを買っている。これではっきりした。手足を
落ちてる木の枝を振り回しても太刀打ちできない。小石を投げたところで痛がって逆に激高するだけだろう。一瞬、少女は大きな石を双子に投げつけ
ダメだぁ! あいつらの
「臭いは残っているのでここを通ったのは間違いない」
隠れている木の反対側で足音が遠ざかってゆく。
まだだぁ。すぐに動き出すと見つかってしまぅ。
「子豚が1匹、子豚が2匹、子豚が────」
少女は
だけどなんで死者の国にきて連中だけ
「子豚が31匹、子豚が32匹、子豚が────」
数えながら少女は考えた。マカイの双子が
考えごとに熱中するあまり少女はどこまで数えたかわからなくなった。
数えるのを止めて耳を澄ますと落ち葉踏みしめる音が聞こえないことに気づいた。
くるっと幹を回り込み足音の遠ざかった方を見つめる。木立の
家十数軒先という中途半端な近さで、黒騎士と
アイリ・ライハラは思わず苦笑いして頭を掻いた。
「貴様ぁ! イルミ・ランタサルの騎士!」
「いいえ、
少女が茶化して言い返した寸秒、元老院長が片腕振り上げ指さし怒鳴った。
「ヴォルフ・ツヴァイク! そやつを
怒鳴り命じる
それに
生者の世界での因果応報がハデスの地で影響するなら、悪逆非道のこいつらの方が死者の集団に襲いかかられるだろう。
なんでのうのうと歩き回ってるんだぁ!?
ピ────ンチ!
女連れの親父が三股かけた女らと村でばったり出くわす級のピンチだとアイリは
少女は前か後かと天秤にかけ、直後、黒騎士へと凄まじい勢いで駆けだした。
敵は6人。だが
取りあえず逃げ切る────はずだった。
後ろから双子らが叫ぶとアイリ・ライハラの向かう先の木々がバタバタと倒れ始めて先を塞いだ。