第18話 どんぐりの背比べ

文字数 1,764文字

 真名を言い放ち、エステル・ナルヒの姿(くず)さぬ邪悪打ちつけた2口(ふたふり)(ソード)を左手1振りの青の(ブレード)が受け止めた瞬時、空気波打たせ爆轟が走りアイリ・ライハラとその闇の化身の石床が大きく陥没し数え切れない(ひび)が広がった。

「ノッチス・ルッチス・ベネトスだと!? (わら)わすな!」

 そう言い捨てエステル・ナルヒは陥没した大理石の外に跳び退(しりぞ)いた。

「あの雷龍は、天の大戦で命堕とした! 聖剣は砕け散ったのだ!」


 アイリ・ライハラは鼻を鳴らした。


「じゃあ、この俺は──何だぁ!?」


 問われエステル・ナルヒは顔を(ひず)めた。

「し、知るか!」

「じゃあ、この青く(かがや)く2振りの長剣(ロングソード)は、な────んだぁ!?」

 そう問いながらアイリ・ライハラは歩き出し大きくすり(ばち)状になった大理石をバリバリと踏みつけて来る。


「ただの────ケバい(ソード)だ!」


 それを聞いて瓦礫(がれき)を登って来るアイリ・ライハラが右手に持つ長剣(ロングソード)を回転させて逆手に握るなり(ひび)割れた大理石に勢いよく突き立てた。

 空気が破裂し砕けている石床を太い稲妻が駆け抜け、エステル・ナルヒが跳び退(しりぞ)いた場所で爆発した。

 暗がりに着地した第6騎士(もど)きにアイリ・ライハラはさらに言葉の追い討ちをかけた。


「そのケバい(・・・)(ソード)から逃げ続けているあんたはなんだぁ!?」


 耳にしたエステル・ナルヒの表情が醜く豹変し大理石を蹴り姿がかき消え、寸秒割れた大理石のすり(ばち)から出てきたアイリ・ライハラが両手の(ブレード)をクロスさせ受け止めその中央に重なった2口(ふたふり)の黒い(ブレード)がぶつかって振り下ろしたエステル・ナルヒが片足を踏み出していた。

(おび)え逃げるのは貴様だ!」

 そう言い放ちエステル・ナルヒの姿するものが一歩踏み出し押し切ろうとした。



 ひょい、と身を(かわ)したアイリ・ライハラの前を勢い込んで踏み出した唖然となった邪悪の権化が陥没した大理石を派手に転がり堕ちた。



 黒い(ソード)を割れた大理石について(からだ)起こしかかるその第6騎士(もど)きの背にアイリ・ライハラが馬鹿にした言い方を浴びせた。

「だぁ──れが逃げるかぁ! 正面きって(ガルト)競り合いするのが面倒くせぇ!」

 がばっと振り向いたエステル・ナルヒの姿借りるものが高い所で(ソード)握る(こぶし)を腰に当て偉そうに見下ろすアイリ・ライハラへ黒い(ブレード)刃口(ポイント)を振り向け怒鳴った。

「やい貴様ぁ! 邪悪な俺様より悪人だぁろう!」

 その魔物へアイリ・ライハラは割れた大理石を次々に蹴り落とし始め否定した。

「いやぁ──そんなことねぇ────よ。目くそ鼻くそじゃん」

 いや、目くそ鼻くその使い方が違うぞと思った寸秒、転がり落ちぶつかってくる石の(かたまり)に黒い(ソード)握る腕で顔を(かば)いエステル・ナルヒは顔を(ゆが)め腕の陰で(つぶや)いた。

「あ、あいつ、ノッチス・ルッチス・ベネトスなんかじゃねぇ! 根性腐ったただの人間だぁ!」

 急に石が落ちてこなくなり第6騎士の(まが)い物が腕から目を上げ(のぞ)き黒(ソード)2口(ふたふり)振り上げ顔を引き()らせた。



 床に青い(ソード)突き立てたアイリ・ライハラが、ぶつかればただでは済まない大きさの大理石の(かたまり)を頭上に振り上げ両腕震わせている。



 エステル・ナルヒ(もど)きは(あわ)てて(ねら)われている場所から跳び退()いた。その逃げた先に急激に影が大きくなり地鳴り響かせ大理石の大きな(かたまり)が食い込んだ。

 瓦礫(がれき)に食い込んだ大理石の(かたわ)らに転がり避けた闇の化身が青い顔で(あえ)いでいた。いきなり我に返ったそのエステル・ナルヒ(もど)きは黒い(ソード)をアイリ・ライハラへ振り上げ怒鳴った。

「やい貴様ぁ────! 今、ズルしただろう! いいや、絶対した! コントロールできない振りして、最初から(ねら)っただろうが! だいたいあの大きさの大理石をどこから────────あ!?」

 瓦礫(がれき)のすり(ばち)の縁際にいるアイリ・ライハラが(そば)の床に両手握る青く(かがや)(ソード)2振りをぶんまわし床を()ると豆腐の様な形した馬車(キャリッジ)よりも大きい大理石の(かたまり)を1振りの(ソード)で突き刺したこ焼きを楊枝で刺す様に楽々と持ち上げた。


 腕震えてねぇじゃないか!


 エステル・ナルヒ(もど)きが焦って穴の逆側を駆け上り始めた先へ大理石のブロックが激突し、下敷きにならずに済んだと闇の化身は顔(ゆる)ませた。

 その表情が見る間に引き()った。

 ゆっ────くりと巨石がせり上がってくる!




 どがぁどがぁと転がり落ちてきた巨石に巻き込まれすり(ばち)の底へ一緒に落ちミンチになった人間(もど)きの、静まった大理石の下から出した手が動かなくなった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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