第２４話　懇願（こんがん）

　二階で無双状態のヘルカ・ホスティラが圧されたら加勢するつもりでアイリとテレーゼは階段に控えていた。

　突然、ヘルカが退(しりぞ)いてきたのでアイリらは階段から廊下を覗(のぞ)き込んだ。

　三十人あまりの騎士が倒れる中、そいつらが立っていた。

　見た瞬間、アイリは眼を細め唇を歪(ゆが)めテレーゼは顎(あご)を落とした。


　二体のアイリ・ライハラが倒された騎士らを踏みつけ立っていた。


「アイリさん、あいつらあなたに生き写しですよ」

　そうテレーゼが声をひそめて言うとアイリが囁(ささや)いた。

「なんだよありゃ──いまさらなんだけどよ──なんで粘土細工なんだよ」

　それを聞いて下段のヘルカがぼやいた。

「ありゃ粘土なんかじゃねぇぞ。アイリお前、いつ型とらせた！？」

「うにゃ(いいや)、知らん」

　そっけなく答えながらアイリは最下段で一階から押し寄せる騎士らを倒すミカエル・プリンシラらの活躍ぶりを眺めていた。

「とりあえず三人でかかりましょう」

「うっ、俺を倒すのかお前ら！？」

「アイリ殿、あなたじゃなく粘土細工をですよ」

　それを聞いてアイリは上段に顔を向けた。自分擬(もど)きが階段へ来ないことから操っている魔法使いが二階の奥にいるんだと思った。銀眼かとも思ったが、あれは細工ものを氷でつくることを思いだした。

「やるか」

　そう二人に告げてアイリは二階へと上がりヘルカとテレーゼもそれに続いた。

　姿を現すとガウレムらは動き始めた。

　やっぱり俺とわかってこいつら動いている。

「アイリ殿、こいつらガウレムみたく動きが鈍いのでしょうか？」

　そうテレーゼが尋(たず)ねアイリの意識にノーブル国のディルシアクト城に現れたガウレムのことがあった。巨像は恐ろしく素速かった。

　こいつらは石ではなく。粘土細工に見える。柔軟に素速いとアイリは踏んだ。

　擬(もど)きはそろって帯刀を引き抜いてアイリ・ライハラのようにステップ踏んで三人に駆け込んでくる。

「テレーゼとヘルカ！　左の一体を倒せ。俺は右だ！」

　その命令にマカイのシーデと長身の女騎士は脚を急激に踏み出しアイリ・ライハラは残像をおいて爆走した。刹那(せつな)アイリ・ライハラそっくりの二体のガウレムも薄れ消える残像をおいて三人に疾風迅雷のごとく駆けだした。

　最初に刃(ブレード)ぶつけたのはアイリだった。弾き返された剣(ソード)を瞬時に引き戻し今度は横へと振り抜く逆側からアイリ擬(もど)きが刃(やいば)を横様に振り抜いてきた。その擬(もど)き握る剣(つるぎ)のハンドルを蹴り上げアイリは粘土細工の腹を両断した。

　倒されたアイリ擬(もど)きの上半身と下半身から触手が伸び絡めると斬(き)れ落ちた互いが引き寄せくっつき立ち上がった。

「ひでぇ、そんな能力俺にねぇぞ！」

　その寸秒、ヘルカらが打ち合っていたアイリ擬(もど)きの首が刎(は)ねられやはり同じように元通りにくっつくと立ち上がった。

　その立ち上がりかけたアイリ擬(もど)きにテレーゼは呪いの叫びを浴びせ胸に大穴が開きアイリ擬(もど)きは両膝(りょうひざ)を床に落とした。

　そのまま動かない粘土細工に剣(ソード)構えていたテレーゼは打ち合うアイリに怒鳴った。

「アイリ殿！　胸に弱点が！」

　それを聞いたアイリは音速で自分擬(もど)きに剣先(けんさき)を突き立て刃(ブレード)が背中から突き出た。途端に粘土細工は両脚で躯(からだ)を支えていられぬとばかりにアイリの剣(ソード)を引き摺(ず)って倒れた。

「ここを守っていたということは、奥に大事な奴がいるということだ」

　そう告げアイリが歩き出すとテレーゼとヘルカも付き従い階段から上がってきた他の騎士らも床に倒れた粘土細工のアイリを見て息を呑み三人についていった。

　奥の部屋を守っていた兵士六人を倒すとヘルカ・ホスティラが扉を押し開けた。

　大部屋の中には金糸を編み込んだローブ着た歳嵩(としかさ)の男らがいた。

　ヘルカの脇(わき)へと姿見せたアイリ・ライハラが誰何(すいか)した。

「お前ら何者だ！？」

「私(わたくし)達は城に仕える小間使いでして────」

　それを聞いてアイリは胡散臭(うさんくさ)いと思って鎌(かま)かけた。

「名を名乗れ！　現政権の家臣(かしん)なら助ける。クラウス・ライハラを知っていれば申せ。それなりの待遇で迎える」

　男らを割って後ろにいた高齢の男が名乗り出た。

「我(われ)はクリフトン・フロスト。家臣頭(かしんかしら)を務めるもの。クラウスの名はここにいる半数が知っておる。前政権の王女逃亡に加担した魔導師」

「クラウスを捜すよう働いたものとそうでないものとに別れよ」

　家臣(かしん)らが半数に別れ八名がフロスト側についた。


「我(われ)の名はアイリ・ライハラ────魔導師クラウス・ライハラの一人娘────きさまらアグネス・ヨークを知っているだろう」


　押し殺した声で告げられるそれを聞いた家臣(かしん)ら九人が青ざめ口々に命乞いを始めた。