第6話 不毛
文字数 1,838文字
「ふぇぇぇくしょん! ずるずるずるずる」
元異端審問官ヘッレヴィ・キュトラは顔をしかめ抗議した。
「アイリ・ライハラ、貴君、汚い食べ方だな。まるで鼻水を
シチューを
「誰のせいでこうなったと思ってるんだよ?」
「
両手にパン持った女が胸張って答えた。
「いてっ! こらアイリ、スプーンをなぜ投げる!?」
超、むかつくんだけど、この役人落ち。とアイリは別なスプーンに手を伸ばしシチューをまた
「まあ、ヤドヨ教区に入ってしまったものは仕方ない。晩御飯も頂けてるし後は宿に戻ってゆっ────いたぁ! アイリ・ライハラ、貴君、
くそう、スプーンじゃ虫がおさまらねぇ。とアイリは
「
指摘して少女が
「ばぁ、馬鹿者ぉ。たまたまいた荷馬車を選んだだけだ」
それが間違いだと言ってんじゃん! 馬車を目にしたとたんに『あれは東のヴィツキンへ行く行商だ。あれに乗っていこう』って
「あんた、お上りさんじゃん」
少女がぼそりと告げるとヘッレヴィはまくし立てるように弁解し始めた。
「し、失敬なぁ。何度もヴィツキンへは行ったことがある。いつも向こうから迎えのものが来るぐらいだったんだぞ」
それってヘッレヴィが
「まぁ、ヤドヨ教地区なら
「とって付けたように理由並べやがって──間違えたなら間違えたと素直に謝ればいいものを────」
パンを引き千切り役人落ちが
「き、聞こえたぞアイリ! だいたい貴君は細かいことにこだわり過ぎるんだ。もっと不動心を磨くべきだ」
アイリ・ライハラは聞き流し、パンには目もくれず冷えた身体を少しでも温めようとシチューをかけ込むけれど
「ふぇぇぇいくしょん! ずるずるずるずる」
「ほは、ふごふご、ふがふごふごふご。ふごふがふごふご」
(:こら、アイリ、貴君そういう食べ方をするなと言っただろう。食欲が失せてしまう)
何を言ってるかわからん! この役人落ちめ。文句言いながらせっせと千切ったパンをシチューにつけて頬張ってんじゃん。彼女を
まだ寒いけれどお腹くちてくると落ち着き先行きに不安がなくなり刺々しい感覚がなくなってきた。
「なぁ、ヘッレヴィ。どうしてここの連中、よってたかって入信者にしようと
「人は力も命も有限だろう。無限なる力、
そんな風に思ったこともなかった。
教会に行って、祈りを捧げ、神父様の話しに耳傾け、
それが他人を束縛し断罪する考えにどうして
「おかしいな。
「あなた、開かないの? 誰かいるのかしら?」
扉越しに声が聞こえ少女と元異端審問官は腰を上げ顔を見合わせ目配せした。
『家人が帰ってきた! どうしよう!?』
『やべぇ、逃げないと』
アイリ・ライハラは暖炉の前に干している自分の服を引ったくるようにつかみ、おろおろするヘッレヴィ・キュトラの手を握ると2階への階段を駆け上った。