第6話 見えぬ影
文字数 1,776文字
ヘルカ・ホスティラの大声に部屋へ駆け込んだアイリ・ライハラが最初に眼にしたのは、大柄 の女騎士の長剣 持つ右腕が肘 と手首の中間で斬 れ刎 ね上がった様 だった。
だが敵の姿を少女は眼にしていなかった。
ヘルカ・ホスティラが両膝 を板床に落とし横様に倒れる寸秒、アイリが眼にしたのは壁際に敷いたマットで寝ていたテレーゼ・マカイが跳び起き同時に細身の長剣 を振り抜いた太刀筋 だった。
テレーゼが何を狙ったのかアイリは眼にすることができず、女剣士が何かを躱 し大きく仰 け反 った姿にアイリ・ライハラは何が起きてるのだと顔を引き攣 らせ青色の長剣 を引き抜いた。
見えない敵ではない!
ヘルカとテレーゼには見えているのだ!?
ベッドの上で上半身起こした王妃 イルミ・ランタサルが壁際へ身を逃がし装飾の施されたミセリコルデ(:トドメをさす短剣)を引き抜いて胸の前に構えていた。
イルミにも見えている!
どうして俺に見えないとアイリは眼を游 がせた。
その刹那 、床近くで上半身を横に捻 ったテレーゼ・マカイが叫び部屋反対の壁に亀裂が走り木屑 が舞い上がった。
その埃 が衝立 の前で一瞬人の形に見えアイリは早口で言い切った。
「トゥエンティ・ステップ!」
身体の青白い残像を残し爆速で衝立 に到達したアイリ・ライハラは稲妻のような刃 を振り抜いた。
上下2枚に斜めに斬 れ飛んだ衝立 が壁に当たり床に落ちた。
その残骸 を見下ろしそこに死体がないことにアイリは戸惑い部屋を見回した。
イルミとヘルカ、それにテレーゼの気配以外に感じ取れずアイリは用心深く倒れた女騎士へと下がり傍 に片膝 着いて視線を下ろし顔を強ばらせた。
ヘルカ・ホスティラの右肘 から僅 か先が切れ落ちており、その傷口から燃えた灰が飛び離れるように腕が急激に霧消しかかっていた。
どうなっているんだ!?
唖然となるアイリへ出入り口からノッチが怒鳴った。
「死なせろ!穢 れに魂が喰らいつくされるぞ!!」
意味を理解したアイリ・ライハラは横様に倒れた女騎士を片膝 で押さえ込み「すまぬ!」と謝りわき腹から心臓を一突きにした。叫び声を上げ身体を仰 け反 らせたヘルカ・ホスティラはゆっくりとその硬直した筋肉を解き息を引き取った。
直後アイリ・ライハラは黄泉から盟友を連れ戻すため己 の刃 を首に当て引き下ろした。
気がつくと霧 の広がる痩せた木々が散見する林に立っていた。
お花畑だったり、寒々とした霧に包まれた林だったりと黄泉の道はいつも同じとは限らない。
黄泉に来るのは何度目だとアイリ・ライハラは耳をすまして辺りの気配を探った。
霧 に方向感覚は鈍くとも河の流れの音に苦悩の河 が近いことをアイリは知った。
黄泉の河守りカローンに見つかると厄介 だったが、霧 に視界は悪くアイリは友の名を呼んだ。
「ヒルダ! ヒルダ・ヌルメラ! 返事しろ!」
林を彷徨 いながらしばらく名を呼び続けると女騎士の声が聞こえた。
その方へ少女が行くと、ヒルダは痩せた木の元に座り込んで無事な右腕をさすっていた。
それを眼にしてアイリは安堵 した。
「良かった見つかって。さあ、帰ろう」
頷 き立ち上がったヒルダがまだ右腕をさすっているのでアイリは尋 ねた。
「斬 り落とされた右腕が痛むのか?」
「いや、斬 られた感覚は何度もあるのでそう気にならない。だけど今回は斬 られた部分から急激に腐 り落ちてゆく感触がしてとても気持ち悪いのがまだ続いている」
だが裂けた服の袖 から見える腕は繋がっておりアイリはそう心配しなかった。
「わかった。ひとまず戻ろう。皆 の元へ帰ったら暖めるといい」
そう言いヘルカの不安を和らげさせアイリは帰路の門を探すために女騎士を連れて歩きだし襲ってきたもののことを尋 ねた。
「ヘルカ、襲った奴を見たのか?」
「ああ、ランプの灯りは暗くはっきりとでないが白髪の長い髪をした奴だった。アイリ、歩哨 で居眠りしたのか?」
「いや、一時 も寝てない。小屋の扉はノッチが出てきた時以外1度も開いてはいない」
アイリが思案顔になった。
「だったらあの白髪の暗殺者 みたいな身の動きの素早い奴はどうやって室内に入ったのだ!?」
驚きを隠さずヘルカがアイリに問い詰めた。
「戻れば侵入経路もわかると思う。とにかく急いで戻ろう。イルミを護っているのはウルスラだけだからな」
半時も歩き回り2人は現世に繋がる門をくぐり抜けた。
だが敵の姿を少女は眼にしていなかった。
ヘルカ・ホスティラが
テレーゼが何を狙ったのかアイリは眼にすることができず、女剣士が何かを
見えない敵ではない!
ヘルカとテレーゼには見えているのだ!?
ベッドの上で上半身起こした
イルミにも見えている!
どうして俺に見えないとアイリは眼を
その
その
「トゥエンティ・ステップ!」
身体の青白い残像を残し爆速で
上下2枚に斜めに
その
イルミとヘルカ、それにテレーゼの気配以外に感じ取れずアイリは用心深く倒れた女騎士へと下がり
ヘルカ・ホスティラの
どうなっているんだ!?
唖然となるアイリへ出入り口からノッチが怒鳴った。
「死なせろ!
意味を理解したアイリ・ライハラは横様に倒れた女騎士を
直後アイリ・ライハラは黄泉から盟友を連れ戻すため
気がつくと
お花畑だったり、寒々とした霧に包まれた林だったりと黄泉の道はいつも同じとは限らない。
黄泉に来るのは何度目だとアイリ・ライハラは耳をすまして辺りの気配を探った。
黄泉の河守りカローンに見つかると
「ヒルダ! ヒルダ・ヌルメラ! 返事しろ!」
林を
その方へ少女が行くと、ヒルダは痩せた木の元に座り込んで無事な右腕をさすっていた。
それを眼にしてアイリは
「良かった見つかって。さあ、帰ろう」
「
「いや、
だが裂けた服の
「わかった。ひとまず戻ろう。
そう言いヘルカの不安を和らげさせアイリは帰路の門を探すために女騎士を連れて歩きだし襲ってきたもののことを
「ヘルカ、襲った奴を見たのか?」
「ああ、ランプの灯りは暗くはっきりとでないが白髪の長い髪をした奴だった。アイリ、
「いや、
アイリが思案顔になった。
「だったらあの白髪の
驚きを隠さずヘルカがアイリに問い詰めた。
「戻れば侵入経路もわかると思う。とにかく急いで戻ろう。イルミを護っているのはウルスラだけだからな」
半時も歩き回り2人は現世に繋がる門をくぐり抜けた。