第10話 第二騎兵偵察小隊

文字数 1,843文字


 その(かん)は何を根拠にしているのかアグネス・ヨークは知りたがった。

「イルミさん、あなたのその(かん)の鋭さは何をもとにしてるのですか?」

「それなりに苦労したからよ」

 アグネスは不満に感じた。自分だって苦労はした。王制を打倒された訳でないイルミ王妃(おうひ)がどんな苦労をしたのか知りたくなった。

「どんな苦労をすれば────」

 イルミが苦笑いした。

家臣(かしん)や騎士に裏切られ命を狙われ、デアチ国の元老院長がそれを仕組んでいて倒すのに命がけだった。でもそれを乗り切れたのはアイリ・ライハラのおかげだったわ」

「イルミ、アイリをわたくしにください」

「へっ!? だめよ」

「いえ、しばらく預けて頂けたらわたくしも(かん)を磨けます」

 イルミ・ランタサルは片唇を吊り上げた。

貴女(あなた)は逆境を乗り越えたじゃない」

「ええ、アイリやヘルカがいてくれたからです」

 アグネスは力説し続けた。

「じゃあもう修練は必要ないわよね」

「いえ、イルベ連合が攻めてくるなんて想定外でした」

 食い下がってくるとイルミは思った。

(わたくし)が来たから問題ないわよね」

「その先読みの力が必要なんです」

 あ──っ、話がぐるぐると一回りしてるとイルミは思った。

「ではアイリを半分貸しましょう」

 アグネスは唇をあんぐりと開いてイルミを見つめた。この人はからかっているのか。

「半分って──人ですよ。半分なんかに────」

 イルミ・ランタサルは右手を振り上げアグネスの眼の前で昆虫の前腕のように複雑に指を折り曲げ伸ばした。


「半分お貸しするわ」





 新入りの兵は色々と(いじ)られる。

「なんだお前その髪は!? 女の気を引くために藍染(あいぞめ)で髪を染めてるのか」

 ノッチは兵士のからかいにムッとした面もちになった。その態度に古参の兵はさらにからかった。

「お前、筋肉あるのか。長剣(ロングソード)どころか普通の(ソード)すら振り回せないんじゃないのか」

 (ソード)に関してプライドを傷つけられたノッチは壁の(ソード)棚へ行き大剣(クレイモア)を引き抜いた。

 寸秒、凄まじい勢いで身長ほどもある(ソード)を振り回してみせると兵らのからかいがなりを潜めた。そうしてノッチは空いている長椅子に腰掛けると第三偵察騎兵連隊長が声をかけた。

「ノッチ・ライハラ。ちょっと来い」

 ノッチが座ったばかりの席を立ち連隊長の(そば)へ行き直立不動の姿勢を取ると連隊長は命じた。

「休んでよろしい。ノッチ、(ソード)の腕に自信ありそうだな」

「負け知らずであります」

 それを聞いて連隊長は笑い声を上げた。

「そうか自信大いに結構。ところでだ、偵察騎兵の役割はわかるな」

「前線よりも敵陣に肉迫しその規模動向を探り、時には威力偵察で敵の能力を探ることにあります」

「よし、お前を今日から第二騎兵偵察小隊に配属する。役割を果たせ」

「了解であります」

「さっそくだが荷をまとめろ。任務だ。所属小隊へ行け」

 ノッチは支給品をまとめると兵舎を出た。そうして厩舎(きゅうしゃ)へ行くと7人の兵が準備をしていた。

「第二騎兵偵察小隊に配属になりました。こちらでよろしいでありますか!?」

「小隊長のエリアス・ラウハラだ」

 名乗りをあげた小隊長は次々に隊員らを紹介しノッチに馬を選びあたえ荷をまとめ出陣の用意を命じた。

「これから北西のイモルキへ向かう。目的はイモルキ軍の動向を探ることだ。索敵は隠密で。接触はなしだ」

 イモルキと聞いてノッチは一瞬驚いた。アイリ・ライハラに関係してくる。

「了解であります」

 そう返事し彼は適当に馬を選び荷を(くら)に縛りつけた。

 兵士らは厩舎(きゅうしゃ)から馬を出すと列を組み命令を待った。

「イモルキ近郊へ向かいイモルキ軍の動向を探る。索敵は隠密で威力偵察ではない。乗馬!」

 一斉に(あぶみ)に足をかけ(くら)に跨がり男らは馬を歩かせ始めた。

 ノッチは殿(しんがり)につき前行く兵士らの背を眺め思った。

 こいつらアイリ・ライハラに(あだ)なすなら血祭りにあげるだけだ。


 第二騎兵偵察小隊のルートにアイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラが走っていた。





「アイリ! もうイルベ連合の街に近い。馬を下りて歩こう」

 そう女騎士が言うと躊躇(ちゅうちょ)せずアイリは馬を止め下りて荷を解くと馬から(くら)手綱(たづな)を外し荒れ地に放った。

 ヘルカ・ホスティラも同じように馬を解放すると2人は荷を背負いイルベ連合の街へと向かい歩き始めた。

「警備兵に誰何(すいか)されたら旅の商人で言い通そう。そのための反物(たんもの)だ」

 そう少女が念押しし(ソード)を投げ捨てるとヘルカは(うなづ)き同じように(ソード)を投げ捨てた。


 いざとなれば得物(えもの)は現地調達すればいい。ナイフだけでも結構なことをやれる。


 彼女たちは一時(いっとき)でイルベ連合の偵察小隊と出くわすことになる。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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