第15話 糸口

文字数 1,741文字


 置き書きを手に動転したその侍女(じじょ)エルサは呪いの紙をつかんだまま部屋を飛びだした。

 まさかレニタ奥様が魔女の真似事を!

 紙を握りしめた手でスカートつかみ上げ侍女(じじょ)は騎士団長の元へともすれば絡み転けそうな勢いで駆けた。

 その戻ってくるエルサの有り様を眼にしたアイリ・ライハラはただならぬものを感じて身構えた。

「騎士団長様ぁあああ」

「どうした!? 侍女(じじょ)長レニタに見つかってしまったのか!?」

「いえ、侍女(じじょ)長はいませんでした。この置き書きがぁ」

 紙を受け取ったアイリは書いてある文章に眼を丸くした。


 字がぁ、字が汚すぎて読めねぇ!


「エルサ、お前、これを読めたのか?」

「はい! 呪いの言葉がびっしりと」

 びっしりとだぁ!? 確かに字が重なるようにぎゅうぎゅうに書いてあるが読めねぇのはそのせいばかりじゃねぇ。

「エルサ、悪いが読んでくれ」

「嫌です! 呪われますもの」

 いやぁ読んだ時点でアウトだよとアイリは置き書きを侍女(じじょ)に押しつけるのをあきらめて、ノッチに渡し部屋の有り様をエルサに尋ねた。

「で、部屋は汚されて──散らかっていたか? 争った跡とか」

「いえ、綺麗にされていました」

 じゃあ銀眼の魔女とは争わなかったのか。でもなぜこんな置き書きを────。

 バタリと倒れる音を耳にしてアイリは振り向くとノッチが青ざめて地面に倒れていた。

「おいノッチ! どうしたぁ!? 大丈夫かぁ?」

 アイリがしゃがみこんでノッチの肩に手をかけ座らせると彼がぼそぼそと少女に告げた。

「書いてある──言葉に──眼が回りまして────」

 うっ、お前に読めて、俺っちに読めねぇのかよ。とアイリは眉根しかめた。

「なんて書いてあるんだぁ?」

「言えぬ────呪われてしまう」

「いや、もうそれはいいから。内容がわからねぇと先に進めないから」

 そうアイリ・ライハラはつとめて言い方を選んでノッチに告げると彼が自分で読めと置き書きを少女に返した。

 いや、だから読めねぇんだよ! とアイリ・ライハラは唇を(ひず)ませ紙をひったくった。

「あのよろしければ逆に読みます」

 エルサの申し出にアイリは眼が点になった。それでもレニタ侍女(じじょ)長の書いたものの意味はつかめると了承した。

「た、頼む」

「くづつていおになのシルキ・キッリエミでますとおちのいがうおくこスマルウ、かるれわなしうちのいのてべすさくみたはいろののこ。くゆりましでばはのめつがわたしわまにびくのうおこくスマルウ──」

「待ったぁ! もうこの時点でてんでわからんから! エルサお前さん器用過ぎる。意味を要約して教えてくれ」とアイリは侍女(じじょ)の両腕に手をかけ揺すり訴えた。

「すべての国民に告げます。手を(とげ)で切るように、(みな)を呪う。この国の人すべて私の名と通り名を口にしたら死ぬし、ウルマス国王(こくおう)(くび)()(つめ)の幅で()まる。(のろ)いは国民すべてが命落とすか、ウルマス国王(こくおう)命落(いのちお)とすまで○●○●の名において(つづ)きます──です」

 終わりまで聞いてアイリはやっと意味をつかんだ。こんな文章一つで国民すべてに呪いかけられるとは思わなかったが、実際にウルマス国王は首にチョーカーしていたし呪いの話を殿下から聞いたので間違いないとアイリ・ライハラは思った。だけどどうやってこれを────。

「なに?」

「あのう────この呪いの話、印刷して街中でおふれですって(みな)に配られていました」

 アイリは眼を寄せた。それじゃん! 読んで疑り深いやつが何人か試して死んだんだ。

 段々と読めてきた。

「でも、侍女(じじょ)長レニタが多くの人に渡す印刷物作るには難があるし」

「どうして印刷というものをするのに難があるのだ?」

 そう立ち上がったノッチがアイリに尋ねた。

「印刷ってとても新しい技術でまだまだお金かかるらしいんだ。沢山()ると一財産飛んじゃうだろうし」

侍女(じじょ)長が金出したわけじゃないだろう」

 そうノッチが告げるとアイリは(そば)でじっと成り行きをみているイラ・ヤルヴァに尋ねた。

「イラ、金出したパトロン誰だか知ってるか?」

────ホンラッド公爵(こうしゃく)ですよ。

 あぁ! すぐにアイリはそいつの馬鹿息子を思いだした。金に糸目をつけずアイリやイルミ・ランタサルに言い寄っていた馬鹿息子の親父だ。



 俺かくるんくるんに恨みを抱いたんだ。



 繋がったとアイリ・ライハラは()に落ちた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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