第11話 前門の虎、とら、トラに狼が一匹
文字数 1,723文字
勝手知ったる庭のようなものだった。
半時 もかからずイルミ・ランタサルは迷いの森からヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイを見つけだした。
「なあアイリ、王妃 様はご無事だろうか?」
深刻そうな顔で女騎士がアイリに尋 ねた。
「無事じゃなきゃ、今頃この森で俺たちの名を呼んでうろうろしてるさ。それにノッチがいるから心配ないだろう」
「アイリ・ライハラ──お前の亭主そんなに強いのか?」
こんどはテレーゼが問うた。
「まああれでも眷属 なんだし──」
「眷属 ってどこかの国の騎士団に所属してるのか!?」
テレーゼが声を裏返しそうな勢いで尋 ねた。だがアイリはまだノッチの正体をあからさまにすべきでないと思った。
「わりぃ──実のところよく知らないんだ。海の向こうの大陸出身みたいだし」
「アイリ・ライハラ! お前教会に半旗ひるがえさせるつもりなのか!!?」
騎士道まっしぐらのヘルカが驚いて問いただした。
ムリもなかった。海の果てには大陸どころか巨大な滝があって近づく船をみな落としてしまうというのが教会の推奨 する世界観であり他の有り様を公言するのは異教徒と断罪される可能性があった。
「まぁあ、出身地不詳 ということでいいじゃん」
そう言ってアイリ・ライハラは冷や汗を浮かべ話題をそらした。
「早く戻ろう! イルミとノッチが心配だ」
そう言って踵 返したアイリ一行の目前の古びた木の幹 の陰から粗末な1枚布の大ざっぱな布を身にまとい鼻下から顎 を被 う白髪混じりの髭面 の年食った男が姿現した。
「やはり貴様かぁ! 死者の数がずっと合わぬと調べ回って正体をつかんだぞ!」
苦悩の河 の渡し主 ────カローンだった。
やべぇ! 急ぐ時に限ってこうだ! とアイリ・ライハラは鼻筋 に皺 を刻んだ。テレーゼはカローンを知っていたがヘルカ・ホスティラは見るのが初めてだった。
「なんだこのクソ爺 は!? 通せ! さもなくば斬 るぞ」
そう言って女騎士は腰のものに手をかけた。
「そんなステーキ・ナイフでどうするつもりだ!?」
剣 をステーキ・ナイフ呼ばりされヘルカ・ホスティラは顔を紅くし剣 を引き抜いた。
「ほう、近ごろの小便臭い小娘は礼節 すら知らぬとは──嘆 かわしい」
アイリを躱 し醜老 に挑まんとヘルカ・ホスティラが進み出ようとするのをアイリ・ライハラが片腕上げて止めた。
「止めておけヘルカ。こいつはカローンと言ってこの辺りの主 だ。いいようにあしらわれるぞ。だが俺たち3人なら────なんとかなるさ」
そう言い捨てアイリ・ライハラも剣 を引き抜きテレーゼも抜刀 した。
「ほう!? 数の理論というやつだな。だがな自分らが有利だと世の中都合良すぎだ」
「────都合良すぎだ」
「──都合良すぎだ」
「都合──良すぎだ」
他の木の幹の陰から次々に同じ容姿の老獪 が姿を見せカローンが4人になった。
「さあ、これでお前さんらの数の理論は劣勢になったぞ」
「劣勢になったぞ」
「劣勢に──なったぞ」
「劣勢に────なったぞ」
「劣勢に────なった──ぞ」
さらに4人のカローンが様々な木の陰から現れ8人がアイリらを取り囲んだ。
アイリ、ヘルカ、テレーゼは背を向けあってカローンの出方を待った。
狙いは殺し合いではない。ここで死んでもすぐに生き返る。カローンはここへ来るものらを非武装化して苦悩の河を越させ追いやることしか念頭にない。
それに取り囲む複数のカローンは素手だった。
「捕まれば渡し舟に乗せられて2度と元いた世界に戻れなくなるぞ」
「アイリ、貴殿はどこまで行ったのだ?」
ヘルカ・ホスティラが頼みの綱 に問いかけた。
「河の途中。流れが速くて泳ぎ戻るのも大変だぞ」
「強行突破だな」
そうテレーゼがアイリの傍 らで意気込みを語った。
「用心しろよ。カローンの見てくれは爺 だがすごい力持ちだぞ。それに散りぢりになったら諦めるしかないからな」
そうアイリが警告するとヘルカが尋ねた。
「どっちへ向かう!?」
「俺とテレーゼの間をデアチ国の城下町ほど行ったところに現世への門がある」
「アイリ、我 とテレーゼで斬 り崩 す。2人で後を追うから先に門まで行くがよい」
そうヘルカ・ホスティラが告げた寸秒女騎士とテレーゼがアイリの正面にいるカローンに斬 りかかった。
「なあアイリ、
深刻そうな顔で女騎士がアイリに
「無事じゃなきゃ、今頃この森で俺たちの名を呼んでうろうろしてるさ。それにノッチがいるから心配ないだろう」
「アイリ・ライハラ──お前の亭主そんなに強いのか?」
こんどはテレーゼが問うた。
「まああれでも
「
テレーゼが声を裏返しそうな勢いで
「わりぃ──実のところよく知らないんだ。海の向こうの大陸出身みたいだし」
「アイリ・ライハラ! お前教会に半旗ひるがえさせるつもりなのか!!?」
騎士道まっしぐらのヘルカが驚いて問いただした。
ムリもなかった。海の果てには大陸どころか巨大な滝があって近づく船をみな落としてしまうというのが教会の
「まぁあ、出身地
そう言ってアイリ・ライハラは冷や汗を浮かべ話題をそらした。
「早く戻ろう! イルミとノッチが心配だ」
そう言って
「やはり貴様かぁ! 死者の数がずっと合わぬと調べ回って正体をつかんだぞ!」
やべぇ! 急ぐ時に限ってこうだ! とアイリ・ライハラは
「なんだこのクソ
そう言って女騎士は腰のものに手をかけた。
「そんなステーキ・ナイフでどうするつもりだ!?」
「ほう、近ごろの小便臭い小娘は
アイリを
「止めておけヘルカ。こいつはカローンと言ってこの辺りの
そう言い捨てアイリ・ライハラも
「ほう!? 数の理論というやつだな。だがな自分らが有利だと世の中都合良すぎだ」
「────都合良すぎだ」
「──都合良すぎだ」
「都合──良すぎだ」
他の木の幹の陰から次々に同じ容姿の
「さあ、これでお前さんらの数の理論は劣勢になったぞ」
「劣勢になったぞ」
「劣勢に──なったぞ」
「劣勢に────なったぞ」
「劣勢に────なった──ぞ」
さらに4人のカローンが様々な木の陰から現れ8人がアイリらを取り囲んだ。
アイリ、ヘルカ、テレーゼは背を向けあってカローンの出方を待った。
狙いは殺し合いではない。ここで死んでもすぐに生き返る。カローンはここへ来るものらを非武装化して苦悩の河を越させ追いやることしか念頭にない。
それに取り囲む複数のカローンは素手だった。
「捕まれば渡し舟に乗せられて2度と元いた世界に戻れなくなるぞ」
「アイリ、貴殿はどこまで行ったのだ?」
ヘルカ・ホスティラが頼みの
「河の途中。流れが速くて泳ぎ戻るのも大変だぞ」
「強行突破だな」
そうテレーゼがアイリの
「用心しろよ。カローンの見てくれは
そうアイリが警告するとヘルカが尋ねた。
「どっちへ向かう!?」
「俺とテレーゼの間をデアチ国の城下町ほど行ったところに現世への門がある」
「アイリ、
そうヘルカ・ホスティラが告げた寸秒女騎士とテレーゼがアイリの正面にいるカローンに