第1話 生還

文字数 1,898文字


 怖い話だった。

 銀眼の魔女は架空の産物で────影響を与える空想で、生み出しているのは夜空にある星の1つが落ちてきて悪さをしている。

 気を失ったイルミ・ランタサルを座らせアイリ・ライハラは背後に回り込み王妃(おうひ)の背に片膝(かたひざ)あて気付けを行うとすんなりと意識を取り戻した。

 荒い呼吸を続けているイルミ王妃(おうひ)にアイリが気づかった。

「大丈夫か、くるんくるん」

「ええ、心配はいらないわ。頭を押さえつけられた気がするのよ」

「流れ星に操られてたんだ」

 ため息をついてイルミ王妃(おうひ)は手のひらを額にあて眼を閉じた。

「この感覚、気持ち悪いなんてものじゃないわ」

 王妃(おうひ)(みな)が気づかっている間にヘルカ・ホスティラがアイリに声をかけた。

「それじゃあアイリ、我々を襲ってきた銀眼の魔女は空想だと? だがあの剣戟(けんげき)本物だったぞ」

 くるんくるんの説明がどこからその落っこちてきた星のせいかわからなかった。

「今はそれをおいとけ。くるんくるんが落ち着いてから話し合おう」

 そうは言ったもののアイリ・ライハラは(さら)われたのも縛りあげられたのも空想だとは思っていなかった。(しば)られた痕が手首に残っていた。

 それに7人の魔女は(そば)にいていつでも触れることができるのだ。

 ここにいるヘルカ、テレーゼ、カローン、自分やイルミの誰が操られているか!?

「くそう、頭、痛てぇ」


「お前も取り()かれたか!?」


 食いつきそうな勢いでヘルカ・ホスティラが(ソード)を抜こうとしてカローンに止められた。

「まるでその流れ星の狙いが────疑心暗鬼にありそうだわ──────」

 くるんくるんの言うとおりだった。警戒したり、疑ってかかったりが敵の思うつぼだということだ。

 イルミ・ランタサルが眼を開き地面に座ったまま(みな)を見上げ告げた。

「人を操り、殺すことに特化した人形使いの思い通りにしては駄目だわ。(みんな)手を貸して」

 だがカローンが水をさした。


「人間にどうにかできるなんて思う方がおかしいだろう。そいつサタンより始末がわるいぞ」


 すぐにヘルカ・ホスティラが胸はって言い返した。

「サタンならもう倒した」

「えぇぇぇぇっ!!?」

 とたんに河守(かわもり)カローンが両腕振り上げ驚いた。

「何で冥府(めいふ)の王が人間風情(ふぜい)に倒される!? ありえん!!!」

「デアチのファントマ城に幽閉されてる」

 アイリがぼそりと言うとカローンは眼を点にして後退(あとず)さり思った。

 サタンを幽閉だぁ!? この2人──そのなんてろの流れ星よりも始末悪いぞ!

「その流れ星、壊して方々に悪影響でるぐらいなら魔法で封印してデアチのファントマ城の斜塔にでも幽閉すりゃあいいじゃん」

 少女がめんどくさそうに言い切るとイルミ・ランタサルが口を開いた。


(さく)ですが、その流星を見つけ出し銀眼の魔女から奪いアイリの言うとおり高等魔法で封印しファントマ城の斜塔に幽閉しましょう」


 その(さく)にカローンがケチをつけた。

(さく)なんかではないだろ。ただの方針だぁ」

 それを聞いてテレーゼが(みな)に問うた。

「その流れ星、銀眼の魔女が持ち歩いているのか?」

 それに王妃(おうひ)が応えた。

(うり)ほどの大きさですよ。邪魔になるでしょう」


「わかんねぇぞ。銀眼の魔女にとって大切な流れ星なら胸に埋めこんでいるかもしれねぇぜ」


 そうアイリがかき回すと他のもの達が落胆した。ただでさえ銀眼の魔女は剣技(けんぎ)が上手いうえにずば抜けて速く、その胸元を見るなんて出来ないとそれぞれが思った。

「銀眼の魔女は我々があの凍てつく世界から戻って来るとは思ってないでしょう。ですからとりあえず銀眼の魔女の部屋をみつけそこを探しましょう」

 そうイルミ・ランタサルが言い腰を上げた。





 冥府(めいふ)から生き返ると髑髏(しゃれこうべ)の城の外だった。

 壁づたいに回って行くと最初に入ったヘルカが開いた穴がそのまま残っていた。

 そこからアイリを先頭にテレーゼ、イルミ・ランタサル、カローン、そしてヘルカ・ホスティラが入ると銀眼の魔女ら7人が最後に中へ入った。

 氷床(ひょうしょう)の通路もそのままで前に入り込んだ部屋への穴も残っており(みな)で砕いた氷づけの標本の破片もそのまま散らばっていた。

「通路は無限ループの回廊です。(みな)で手分けして氷の壁の薄い場所を見つけなさい」

 そうイルミ・ランタサルに命じられ散りぢりに壁の薄い場所を探し始めるとほどなくしてテレーゼとカローンが壁の薄い場所を見つけたのでアイリとヘルカがそれぞれの壁を穿(うが)った。

 アイリの方の穴はまた氷づけの標本が並べおかれた部屋だったが、テレーゼの開けた穴の先に生活調度品の置かれた部屋があった。

「きっとこの部屋が魔女ミエリッキ・キルシの部屋ですわ」

 そうイルミ・ランタサルが決めつけると先にアイリ・ライハラが中へ足を踏み入れた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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