第8話 雛(ひな)
文字数 1,923文字
突然の来訪にアグネス・ヨーク王妃 は愕 いたが、喜んで出迎えた。
「ようこそイモルキ共和国へ」
「アグネス、こんにちは────」
まるで隣近所に来る体 でイルミ・ランタサルは話を切りだした。イルミはついこのあいだデアチに帰ったばかりなのだ。
「──よってあなたの国は、アグネス聞いているの!?」
「あっ! はい。ちょっと気がそれて」
イルミが一瞬苦笑いするともう一度繰り返した。
「あなたの国をイルベ連合が狙っていて対抗策をとる必要からアイリ達に調査を────」
「行きました」
「はぁ!? 行った?」
「アイリ、ヘルカ、それとノッチさんはイルベ連合に調査に出ているんです」
それを聞きイルミ・ランタサルの眼が座った。
「あなたの国を護るためにデアチの兵を派遣することに決めました。もう用意をすませデアチを出ているころです」
急な展開にアグネスは息を呑んだ。
「我が軍の兵士たちにもそれを命じました。ノーブルは大丈夫なのですか? 我々が狙 われる同じ理由であなたの祖国も危ないのでは?」
その気遣いにイルミは微笑んだ。
「お心遣いありがとう。ノーブルは数度に渡り大国との戦 に勝って敵を追い返していますのでそれほど心配しておりません。むしろその攻略の容易さにいつも後回しにされます」
そう。確かに要衝にあるノーブル国は三方の大国に加え南のイルベ連合に長年攻められながら一歩も引かなかった。
「イルミさん、アイリはどうやってあなたがイルベが動くのを知ったか不思議がっていました。どのように知ったのですか」
イルミは一瞬眼を寄せて、アグネスを手招き片耳に顔を寄せた。
「勘 よ────」
「えぇぇぇぇ!?」
アグネスは両腕振り上げ驚いた。
こ、この人は勘 で大金を注ぎ込むのかと肝 を冷やした。デアチとて台所事情は厳しいときく。それを他国のために根拠の浅い勘 一つで派兵するなんて。
「あのう──派兵費用を半額持ちましょうか」
それを聞いてイルミ・ランタサルは片手のひらを振ってみせた。
「いいのよ。血の気の多い連中だから発散させないと」
血の気が多い──やっぱりデアチは武国なのだ。
「アグネス、貴女 の国は防衛の兵を出すの?」
「はい、今朝指示を出しました」
このまま防衛が空振りすればいいのだがとアグネスは思ったが、もし砂漠を越えてイルベ連合が来たなら大戦へと化けるだろう。
「戦争にならなければいいのに」
そうアグネスが呟 くとイルミが頷 いた。
砂嵐がおさまるまで半時 砂丘の裾で堪 えぬいた。
「大丈夫かアイリ!?」
ヘルカに問われ馬の陰で荒れ狂う砂に堪 えていた少女は応えた。
「大丈夫。お前はどうだ!?」
「馬が心配だが問題ない!」
いきなり砂丘を乗り越えそれ が転がり落ちてアイリの馬にぶつかって馬を驚かせた。枯れ草の塊 にも見える毛糸玉のような馬の長さほどもある大きな何かだった。
アイリとヘルカが見守っているともう1玉砂丘を乗り越えて転がり落ちてきた。
「何でしょうか!?」
ヘルカが塊 から眼を離さずにアイリに尋 ねた。
「ポイカネンじゃないのか?鶏 の雛 だ」
「何十羽もの集まりですか?」
「いや、1塊 が1羽──」
そうアイリが告げると塊 が羽根を広げ脚を下ろし首を上げヘルカ・ホスティラは跳び退 いて喚 いた。
「鶏 の子はこんなに大きくない────」
思わずヘルカは逃げ腰になってしまった。自分より頭3つ高く、横幅など馬の尻の倍以上もある。
「狭い籠 育ちはここまで大きくならないけれど天然のポイカネンは馬よりでかくなるんだ。魔物の一種さ」
「鶏 の雛 じゃないですよ!」
ヘルカがアイリの後ろに逃げ込むとアイリは「とぅととととと──」と言いながら2羽のポイカネンを呼び寄せた。2羽の巨大な雛 は砂嵐をものともせずにビヨビヨと鳴きながらアイリに近づいたのでアイリは革袋に入れた水を滴らせ飲ませた。
「こいつら義理堅いから世話するとすぐになつくんだ。そうだヘルカこいつらに乗っていこう。馬よりも荒れ地に強いぞ」
「こ、このシャベルより、で、でかい口した魔物に、の、乗るんですかぁ!? ぐふぇ、あがぁ」
大口開いて喚 いたヘルカは多量の砂を吸い込んで咳きこんだ。
「口じゃなく嘴 な。こうするんだよ」
そう言ってアイリが手を叩 くとポイカネンの一羽 が短い尻尾を向けしゃがんだ。アイリはその一羽 の羽根をなでてポイカネンの背に跳び乗り羽根の付け根に脚を下ろした。
「羽根の付け根に脚掛けて乗ったら操り方は馬と同じでいいよ」
そう言ってアイリはポイカネンの首の右側の羽根を引っ張ると大きな雛 は右を向いた。
女騎士がアイリを真似て手を叩 くと魔物の雛 が振り向いた。砂埃の中、城門の格子扉を破壊できそうな三角の嘴 でポイカネンはヘルカ・ホスティラを連打し始めた。
「ようこそイモルキ共和国へ」
「アグネス、こんにちは────」
まるで隣近所に来る
「──よってあなたの国は、アグネス聞いているの!?」
「あっ! はい。ちょっと気がそれて」
イルミが一瞬苦笑いするともう一度繰り返した。
「あなたの国をイルベ連合が狙っていて対抗策をとる必要からアイリ達に調査を────」
「行きました」
「はぁ!? 行った?」
「アイリ、ヘルカ、それとノッチさんはイルベ連合に調査に出ているんです」
それを聞きイルミ・ランタサルの眼が座った。
「あなたの国を護るためにデアチの兵を派遣することに決めました。もう用意をすませデアチを出ているころです」
急な展開にアグネスは息を呑んだ。
「我が軍の兵士たちにもそれを命じました。ノーブルは大丈夫なのですか? 我々が
その気遣いにイルミは微笑んだ。
「お心遣いありがとう。ノーブルは数度に渡り大国との
そう。確かに要衝にあるノーブル国は三方の大国に加え南のイルベ連合に長年攻められながら一歩も引かなかった。
「イルミさん、アイリはどうやってあなたがイルベが動くのを知ったか不思議がっていました。どのように知ったのですか」
イルミは一瞬眼を寄せて、アグネスを手招き片耳に顔を寄せた。
「
「えぇぇぇぇ!?」
アグネスは両腕振り上げ驚いた。
こ、この人は
「あのう──派兵費用を半額持ちましょうか」
それを聞いてイルミ・ランタサルは片手のひらを振ってみせた。
「いいのよ。血の気の多い連中だから発散させないと」
血の気が多い──やっぱりデアチは武国なのだ。
「アグネス、
「はい、今朝指示を出しました」
このまま防衛が空振りすればいいのだがとアグネスは思ったが、もし砂漠を越えてイルベ連合が来たなら大戦へと化けるだろう。
「戦争にならなければいいのに」
そうアグネスが
砂嵐がおさまるまで
「大丈夫かアイリ!?」
ヘルカに問われ馬の陰で荒れ狂う砂に
「大丈夫。お前はどうだ!?」
「馬が心配だが問題ない!」
いきなり砂丘を乗り越え
アイリとヘルカが見守っているともう1玉砂丘を乗り越えて転がり落ちてきた。
「何でしょうか!?」
ヘルカが
「ポイカネンじゃないのか?
「何十羽もの集まりですか?」
「いや、1
そうアイリが告げると
「
思わずヘルカは逃げ腰になってしまった。自分より頭3つ高く、横幅など馬の尻の倍以上もある。
「狭い
「
ヘルカがアイリの後ろに逃げ込むとアイリは「とぅととととと──」と言いながら2羽のポイカネンを呼び寄せた。2羽の巨大な
「こいつら義理堅いから世話するとすぐになつくんだ。そうだヘルカこいつらに乗っていこう。馬よりも荒れ地に強いぞ」
「こ、このシャベルより、で、でかい口した魔物に、の、乗るんですかぁ!? ぐふぇ、あがぁ」
大口開いて
「口じゃなく
そう言ってアイリが手を
「羽根の付け根に脚掛けて乗ったら操り方は馬と同じでいいよ」
そう言ってアイリはポイカネンの首の右側の羽根を引っ張ると大きな
女騎士がアイリを真似て手を