第7話 隠し技と奥儀(おうぎ)

文字数 1,716文字

 湾曲した氷の壁を(かま)(やいば)でひっかき滑り降りてきた銀眼の魔女は女騎士ヘルカ・ホスティラとイルミ・ランタサル王妃(おうひ)の間に立つとイルミに言い捨てた。

「やあ、王妃(おうひ)様────ぁ。辛酸(しんさん)を渡しにきた」

 それを腕の際から見ていたアイリ・ライハラは魔女が次の行動にでる前に王妃(おうひ)の左腕つかみ引いて自分の後ろに回し込んだ。

 寸秒、銀眼の魔女は大鎌(おおがま)を抱きしめるように引き寄せ両足を交差させるなりすさまじい勢いでスピンしてヘルカ・ホスティラが(ソード)を振り上げきるまえに腕を振り出して大鎌(おおがま)を振り出してきた。

 受けるに間に合わず、退(しりぞ)くに遅すぎた。

 あまりにの近さに銀眼の魔女は振り回す大鎌(おおがま)()を短く持っていた。その余った部分をアイリ・ライハラは凄まじい速さで回し蹴りをして、ヘルカ・ホスティラの胸へ大鎌(サイズ/おおがま)(やいば)喰い込む寸前に魔女は大鎌(サイズ/おおがま)を振り上げてしまった。

 ヘルカ・ホスティラはチャンスとばかりに魔女の顔めがけ(ソード)を爆速で振り下ろした。

 その(ブレード)を白髪振り上げ銀眼の魔女は大鎌(おおがま)()で受け止め弾くと両腕で()を回転させ頭上の氷の壁に刃口(きっさき)を打ち込んだ。

 アイリら(みな)は唖然となってしまった。



 銀眼の魔女は壁に打ち込んだ大鎌(おおがま)()を一気に引き寄せ上へ跳び上がるとあろうことか壁に立ってしまった。








 その立ち場にアイリとヘルカは同時に(ソード)を振り上げた。

 その2振り(ふたふり)(ブレード)を魔女は下への大鎌(おおがま)の一振りで弾き返した。

 分の悪いことにアイリらは跳び上がっても一瞬だが、銀眼の魔女は近づこうが離れようが、さらに誰を襲おうが自由なのだ。

 その光景を見てイルミ・ランタサルは叫んだ。

「ヘルカ! 片膝(かたひざ)をつきなさい!」

 イルミ・ランタサルに言われてすぐに女騎士は地面に片膝(かたひざ)ついて理解した。アイリが駆け込んで来ると立てた(ひざ)に駆け上り女騎士の肩を蹴って飛び上がり魔女の真横で(ソード)を振り抜いた。

 ヘルカ・ホスティラは踏み台にされたことに顔を引き()らせたが、アイリが地面に下りるなりさらに後ろからヘルカの肩にテレーゼ・マカイが跳び上がりそこからジャンプして魔女へ1撃を放った。

 そうして代わるがわる魔女へ(いど)むが、アイリらの攻撃1に対し銀眼の魔女は5振りも攻撃を浴びせられた。

「アイリ! 超絶(スーパーソニック)斬撃(ライトニング)!!!」

 王妃(おうひ)に命じられ少女はテレーゼ・マカイに頼んだ。

「テレーゼ! 時間を稼げ!!」

 半身振り向いたアイリ・ライハラがイルミ・ランタサルに肩越しに(うなづ)きテレーゼに命じて肩幅に脚を開き(ソード)を振り回し始めた。

 テレーゼが2度飛び上がり(ブレード)浴びせる(かたわ)ら、少女の青光りする帯が振り回すリボンのように周囲に踊り始めるとそれを目にした銀眼の魔女は氷の壁を上へと後退(あとず)さり距離をおこうとした。

 そんな数十歩下がったとてアイリの剣技(けんぎ)を防げるものですか!

 そう見上げるイルミ・ランタサルは勝利を確信した。

 少女の一続きの雷光に見える帯が収束し取り囲むリングに見えた刹那(せつな)、アイリ・ライハラは(ソード)を振り上げた。

 光りの帯が沢を上る魚のように飛び上がり銀眼の魔女に迫った刹那(せつな)、魔女の下で氷の壁が厚いまま立ち上がりそこへ雷光がぶつかると氷の壁を粉々に打ち砕いた。

「そうか──青よ────お前の(わざ)は速さと雷撃なのだな────」

 そう言い捨てた寸秒、無傷の銀眼の魔女は姿消しイルミ・ランタサルの背後に現れると大鎌(サイズ)振り抜いて(やいば)王妃(おうひ)の背に打ち込んだのと同時にノッチが魔女の背後から青い長剣(ロングソード)を振り抜いて白髪の首を()ね落とした。

 振り向いたアイリ・ライハラに驚きの面もちがかすみ暗く消え去りイルミ・ランタサルが(くず)れ落ちるのと魔女が消えてしまうのが同時だった。

「イルミ! 待ってろ!! 今、すぐに!!!」

 そう言い切りアイリ・ライハラは(おのれ)の首に長剣(ロングソード)(ブレード)押し当て一気に引き()った。

 それから半時、アイリ・ライハラとイルミ・ランタサルの遺体が風に吹かれ(くず)れゆく灰のように消え去ると待っていたヘルカ・ホスティラらの場所にイルミ・ランタサルの手を引いてアイリ・ライハラが氷の壁を回り込んで戻ってきた。

「良かった! 王妃(おうひ)様!!」

 立ち上がってイルミ・ランタサルにヘルカ・ホスティラが駆け寄ると王妃(おうひ)が浮かぬ顔を上げ力なく微笑んだ。


 イルミ・ランタサルは黄泉(よみ)へ落ちたことに憔悴(しょうすい)仕切っていた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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