第2話 踏んだり踏んだり

文字数 2,177文字

「出してよ」

 アイリ・ライハラが猫なで声でヘルカ・ホスティラに懇願(こんがん)した。

「ならん」

 むげに断られアイリは唇をねじ曲げた。

 騎士団長と謎の女剣士を豪腕で穴に放り込み(あご)がつくまで土を放り込んだ女騎士ヘルカ・ホスティラは腕組みしたままその状況でも抗弁しない女剣士を見下ろした。

「なあ、ヘルカ──ぁ、お前と俺の中じゃん。あんなことやそんなことを────うげぇ!」

 ヘルカはアイリの顔を鉄靴(サバトン)で押さえ込んでなじった。

「勘違いされるようなことをベラベラと。貴君の口は(わざわい)を垂れ流すのか!?」

 騎士団長が参謀長に足蹴(あしげ)にされる姿に取り囲んで見ている兵士らが笑い声を上げ数人の騎士が止めに入れずに苦笑い浮かべその中の年配の1人がヘルカに声をかけた。

「参謀長、それぐらいでご勘弁されては? その──団長の威厳(いげん)が落ちますと戦力にも影響が──」



「あぁ!? 何か言ったか!?」



 押し殺した声を吐き捨て女騎士が横目を振り向け声をかけた年配の騎士と周りの兵士らが後退(あとず)さった。

「こんな子供を騎士団長にされてお前らの尊厳(そんげん)はどこにいった!?」

 ヘルカに詰問(きつもん)され先ほどの男騎士が探り入れるように具申(ぐしん)しかけた。

「ホスティラ殿ぉ、騎士団長は19歳ですよ。立派な大人じゃ────」

 眼の座っている女騎士の(さげす)む視線に気づき年配の騎士が苦笑い浮かべ言葉を切ったところへ女騎士が追い込んだ。



「こいつが大人なら────どいつもこいつも(じじい)(ばばあ)だぁ!」



 そこまで言い切ってヘルカが鉄靴(サバトン)をアイリの顔からずらすと見てくれ19歳の騎士団長がかき込むように息をしながらわめいた。

「ずーはー、ずーはー、俺は、すーはー、すーはー、15だぁ、げほげほげほげほ────うげぇ!」

 また顔に鉄靴(サバトン)を乗せられアイリ・ライハラは黙ってしまった。

「貴君は口を差し挟むな! 話がこじれる! いいかお前ら!」

 ヘルカ・ホスティラは取り囲む騎士や兵士らを見回し怒鳴った。

「攻め入る蛮国イルブイの軍団を倒し手柄(てがら)上げたものに騎士団長の座を譲るぞ!」



「そんな(えさ)であの蛮族に立ち向かえという。だれもが命投げ捨て騎士団長になろうとは────げっ!」



 口を差し挟んだ謎の女剣士がいきなりヘルカからシャベルで殴られ顔を横に倒した。

(えさ)だと!? 名誉ある騎士団長の座を釣り針に刺さった(えさ)だと!?」

 赤竜を一撃で倒したアイリ・ライハラを出し抜き騎士団長にと!? できるわけがない! 先にヘルカへ声かけた年配の騎士が参謀長は何を血迷っているのだと困惑し告げた。

「参謀長、無理ですよ。やはり(みな)をまとめるべきは最強の戦士でなければ。だれもライハラ殿に勝てないですよ」



 いきなり振り向いたヘルカ・ホスティラが地面にシャベルを突き立てその迫力に男らが後退(あとず)さった。



「貴君ら男を止めるか? (また)に下がってるものをこの土木工具で叩き落としてやるぞ」

 それは言い過ぎだと数人が前に踏み出すと女騎士がシャベル引き抜き振り上げ取り囲む全員が青ざめて一気に離れた。

「だから言ったではないか。お前の後ろに隠れる奴らばかりではないか」

 女騎士の先で後退(あとず)さる男らを頭から被せられたスカーフの薄布越しに見つめるテレーゼ・マカイが小声でアイリに告げた。

「そんなことねぇ。そうやって見下していたら勇み足も出せねえじゃん」

 アイリが言い返すとマカイの双子の片割れが鼻を鳴らし(から)んだ。

「だから、お前は青いというのだ。こういう連中は殺すぞと言って尻を蹴らないと戦場(いくさば)には踏みださない」



「何の話だ!? 剣士ヴァルティア!」



 テレーゼ・マカイが顔を上げると前に仁王立ちで横顔を振り向けたヘルカ・ホスティラが冷ややかな視線を向けていた。

「いやぁヘルカ、あれじゃん。兵士らをビビらせたらダメじゃん」

 テレーゼ・マカイの横に埋まるアイリが苦笑い浮かべ言い繕おうとしたのが逆に女騎士の(かん)(さわ)った。

 いきなり鼻先の土にシャベルが食い込んで飛び散った小石にアイリは顔をしかめた。

「お前ら! 何が原因で揉めていた!?」

 ヘルカが押し殺した声で首まで埋まった2人に詰問(きつもん)した。

「ちょっと晩飯のおかずを譲ってくれないかと────うがぁ!」

 言い訳していた顔にヘルカは鉄靴(サバトン)を押し付け言い放った。

「貴君は(われ)を軽くあしらえると勘違いしている。力だけで上位騎士なれるわけではないぞ!」



「脳────筋」



 テレーゼ・マカイに言われヘルカ・ホスティラは唇を曲げ顔を振り向け(にら)んだ。

 アイリの顔から足を下ろしヘルカ・ホスティラは両の口角を吊り上げた。



「こいつらに小便をかけたものは後衛にまわす!」



 兵士らに動揺が広がってゆくのを見てアイリ・ライハラは焦った。

「あぁ!? バカ! そんなことしてみろ! ここから出てちょん切るぞぉ!!! あ!? 待てヘルカ! 取り消せ!」

 アイリ・ライハラが(わめ)き始めるとそこへ騎士が1人駆け込んできて(みな)が振り向いた。



「西よりイルブイ騎兵おおよそ50騎!」



 報告を受けヘルカ・ホスティラが兵士らに告げた。

「後方支援に回りたいもの並べ!」

 それを聞いてアイリは焦り(わめ)いた。

「なっ!? 脳筋! ここから出たらけっちょんけっちょんにするぞ!」



 ヘルカ・ホスティラが騎士団長へと腕を振り延ばし指さし大声で宣言した。



「1番でかいウンチ乗っけた奴は野営地に残ってよし!」



 男らがベルト緩めるのを眼にしてアイリ・ライハラは真っ青になった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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