第12話 しおれ華
文字数 1,776文字
イルブイ国の城塞都市で剣竜騎士団39騎の英気を養ったアイリ・ライハラらは翌朝、街を後にして魔女キルシが潜伏する西の連峰を目ざした。
朝から体調のすぐれないアイリは顎 を突き出して胡乱な眼で馬任せに鞍 に揺られていた。
風邪でもひいたか? もしかして食中 りか? いいや女の子の日か? 手足の感覚がおかしいから、やっぱり風邪かもとあれこれ考えるも思い当たるふしがなくこの行軍が嫌でたまらなかった。
「アイリ殿────」
力なく名を呼ぶのが斜め後ろをついて来る女剣士ウルスラ・ヴァルティアでめんどくさいとアイリは振り向かずにテレーゼ・マカイへ口先だけで返事をした。
「なんだよ──ウルスラ?」
「ちょっと休まないか?」
珍しい、とアイリは思った。頑強 なテレーゼが休憩したがっている。だが休みたいのは山々だが、城塞都市で1日無駄にしたのでアイリはこれ以上キルシ討伐 の日程を先延ばしにしたくなかった。
「もう少し我慢しろよ。街で羽伸ばしたからいいだろ」
それを聞いていたテレーゼに並ぶイルブイの女大将ヒルダ・ヌルメラが口を差し挟んだ。
「アイリ殿──ぉ、我も休みが欲しいのですよ」
自分から討伐隊 に加わりながらなになにを勝手なことを言ってるのだとアイリは眉根をしかめた。
そうして他の騎士らはどうなのだと、アイリはぎこちなく振り向いた。
ヒルダの後ろには相変わらず器用に腹の出たおっさん騎士のマティアス・サンカラが鞍 の上に寝そべって大いびきを掻いているが、その後ろの38騎の誰もがしゃんとしている。ダレてるのは上位騎士ばっかじゃんとアイリは恨めしそうな面もちで前へ顔を戻した。
ふと頭上の影に気がつきアイリは重たい顔を上げ頭上を半眼 で見つめた。
大きな翼の禿鷲 が3羽円を描くようについてきている。このまま馬から落ちたりしたらすぐにでも下りてきてつつかれそうだとアイリはげんなりした顔を下ろした。
「ちょっと──休むかぁ」
そう力なく告げていきなりアイリは馬を止め鞍 から下りた。そこへヒルダの馬が慌 てて止まるといびきをかきながらマティアスの馬が突っ込んだ。驚いて飛び起きた腹の出たおっさんは左右へ顔を振り向け慌 てて馬上で剣を引き抜いた。
「落ち着けマティアス。休憩だぁ」
鞍 から下りながら女剣士ウルスラに言われ我に返ったマティアスはやっと剣を下ろした。
こんなんで魔女キルシを倒せるのかとアイリは苦笑いを浮かべた。
近くの低い木の枝に手綱 をひっかけてアイリは木の幹に背を預け腰を下ろした。まるで数ヶ月馬に揺られていたみたく酷く疲れていた。
昨夜はたっぷり寝たのになぁとアイリは気分がすぐれなかった。
同じ木にウルスラとヒルダも寄ってきて背を預け座り込んだ。
「そんなに暑くもないのに脂汗が止まらないんですよ」
そうイルブイの総大将が力なくもらした。
そういや自分もそうだとアイリは思った。今朝は起きた時から嫌な汗をかきどおしだった。
「思うように手足に力が入らないです」
今度はテレーゼがそう呟 いた。
そうそう自分もダルいんだとアイリは思った。
ふとアイリはなんで3人だけが酷く疲れているんだと思って休む他の騎士を見まわした。軽口を言い合って和気あいあいとしてる。やっぱり疲弊 しているのは自分とテレーゼとヒルダだけだとアイリは思うと不穏な曲が聞こえてきた。
ふがふがふがふがと調子崩 れのメロディーが幻聴ぎみに聞こえてくる。
変────だ。
ふとアイリは眉根を寄せたまま横のテレーゼに問いかけた。
「あのぉウルスラ、朝からダルくて力が入り辛くないか?」
少し間 があり女剣士が不安げに応えた。
「お前もなのかアイリ──」
やっぱりそうか! アイリは体力自慢のヒルダにも声をかけた。
「おいぃヒルダ、お前朝から元気がでずに力が入んないんじゃないか?」
いきなりイルブイの女大将が立ち上がり吼 えた。
「アイリ殿! この我を病人扱いするのですかぁああ!?」
拳 振り上げてみたものの空元気 でヒルダが座り込んだ。
やっぱりそうだ! とアイリは腑 に落ちた。
「俺たち3人一服盛られたぞ!」
他の2人に言い切ったアイリ・ライハラだったがそれで一気に元気が底をついた。寸秒、他の騎士らがざわめき始めてアイリは重い頭を騎士らの視線の方へ振り向けた。
魔女キルシのいる西の連峰の方から妖しい暗い雲が押し寄せてきていた。
朝から体調のすぐれないアイリは
風邪でもひいたか? もしかして
「アイリ殿────」
力なく名を呼ぶのが斜め後ろをついて来る女剣士ウルスラ・ヴァルティアでめんどくさいとアイリは振り向かずにテレーゼ・マカイへ口先だけで返事をした。
「なんだよ──ウルスラ?」
「ちょっと休まないか?」
珍しい、とアイリは思った。
「もう少し我慢しろよ。街で羽伸ばしたからいいだろ」
それを聞いていたテレーゼに並ぶイルブイの女大将ヒルダ・ヌルメラが口を差し挟んだ。
「アイリ殿──ぉ、我も休みが欲しいのですよ」
自分から
そうして他の騎士らはどうなのだと、アイリはぎこちなく振り向いた。
ヒルダの後ろには相変わらず器用に腹の出たおっさん騎士のマティアス・サンカラが
ふと頭上の影に気がつきアイリは重たい顔を上げ頭上を
大きな翼の
「ちょっと──休むかぁ」
そう力なく告げていきなりアイリは馬を止め
「落ち着けマティアス。休憩だぁ」
こんなんで魔女キルシを倒せるのかとアイリは苦笑いを浮かべた。
近くの低い木の枝に
昨夜はたっぷり寝たのになぁとアイリは気分がすぐれなかった。
同じ木にウルスラとヒルダも寄ってきて背を預け座り込んだ。
「そんなに暑くもないのに脂汗が止まらないんですよ」
そうイルブイの総大将が力なくもらした。
そういや自分もそうだとアイリは思った。今朝は起きた時から嫌な汗をかきどおしだった。
「思うように手足に力が入らないです」
今度はテレーゼがそう
そうそう自分もダルいんだとアイリは思った。
ふとアイリはなんで3人だけが酷く疲れているんだと思って休む他の騎士を見まわした。軽口を言い合って和気あいあいとしてる。やっぱり
ふがふがふがふがと調子
変────だ。
ふとアイリは眉根を寄せたまま横のテレーゼに問いかけた。
「あのぉウルスラ、朝からダルくて力が入り辛くないか?」
少し
「お前もなのかアイリ──」
やっぱりそうか! アイリは体力自慢のヒルダにも声をかけた。
「おいぃヒルダ、お前朝から元気がでずに力が入んないんじゃないか?」
いきなりイルブイの女大将が立ち上がり
「アイリ殿! この我を病人扱いするのですかぁああ!?」
やっぱりそうだ! とアイリは
「俺たち3人一服盛られたぞ!」
他の2人に言い切ったアイリ・ライハラだったがそれで一気に元気が底をついた。寸秒、他の騎士らがざわめき始めてアイリは重い頭を騎士らの視線の方へ振り向けた。
魔女キルシのいる西の連峰の方から妖しい暗い雲が押し寄せてきていた。