第28話 直談判
文字数 2,323文字
眼が覚めて窓を見るとカーテンの隙間から陽の明かりが差し込んでいた。
今、どれくらいの刻だろうかとアイリ・ライハラは毛布を引き上げ顔を隠した。
「うぅ! 寝てられん!」
いきなり寝具を蹴り飛ばしベッドから足を下ろした。
いつもなら「起きなさい! いつまで寝てるんですか!」とイルミ王女が無情にも睡眠を削りに来るのだが今日は来ない。やっと寝ずの番を命じたのが自分だと自覚したのだろうか。
少女は頭を掻きながら、ぬぼ──とした表情で浴室に行くと洗面器に水差しで水を満たした。ちょっと指を入れてみる。冷たい。もうすぐ雪の時期がやってくる。覚悟して両手を差し入れ顔を洗う。それだけで完全に目覚めた。
親父と暮らしていた自分家だと、顔洗いや湯浴みは外に行かなければならない。だけど自分があてがわれた部屋には別室の煉瓦敷きの浴室がある。今年の冬は楽だぞと思いながらアイリは口をゆすぎ残り水を排水の床溝に流した。
寝室に戻り脱ぎ散らかした近衛兵の装備を着込む。
寒くなると服の上からでもチェインメイルは冷たい。だけど近衛兵ともなるといつでも呼ばれた暴徒に対処しなくてはならないとライモ近衛兵長から耳が腐りそうほど聞かされた。
足布を履いて
わかった。わかった。もう完全に起きてるから拷問のような冷たい攻撃は止めておくれ──。
少女はぬぼ──っと部屋を出ると廊下をとぼとぼ食堂に向かう。イルミ王女みたく部屋に
いきなりドアが開き、少女は片足を上げたまま固まり開いた出入口へ瞳だけを振り向けた。起きがけにイルミ・ランタサルに絡まれたくない。
だがイルミ王女の部屋から出てきたのは騎士長リクハルド・ラハナトスと女騎士ヘルカ・ホスティラだった。
「おぉ、アイリか。今、起きたか。毎夜寝ずの番ご苦労だな」
そうリクハルドは声をかけてきたが、ヘルカはプイと顔を逸らしドアを閉じようとした。
「アイリ! ────アイリ・ライハラ!」
部屋から王女が呼ぶ声が聞こえ、少女が顔をひきつらせると2人の騎士はドアを半開きのまま歩き去った。うぅ──朝ご飯まだなのに、と少女は仕方なく開いた隙間から部屋を
ソファでなく、物書き用の小机に向かい椅子に座るイルミ王女が顔を向けニコニコしていた。
「アイリ、これからお忍びで街へ出ます。平服で護衛をお願いね」
「いや、いや、私まだ朝ご飯も食べてないから。他の兵にさせて」
「心配しないの! 街で食べさせてあげますから。着替えてらっしゃいな」
ドアの隙間から顔を引き抜き「言いだしたら聞かねぇ奴だ──」とブツブツ
跳ね橋が下ろされ街へイルミ・ランタサルがスタスタ歩いてゆく。アイリはその後ろを
しっかし、イルミは王女のくせに
「え!? 何!? アイリ横を歩きなさい。
「へぇへぇ」
普通の服着た女の子が
「もと
「北の大国デアチの元老院
いきなりメイド服のイルミ王女が立ち止まり少女が振り向くと彼女が眼をぱちくりとさせ見つめ返していた。
「あなたどうして知ってるの? さっき
深夜、イラ・ヤルヴァに拷問を
「虫の知らせ──だぁ」
「あなた意味を取り違えています。まぁいいですわ。今日はその北の大国デアチ──そのサロモン・ラリ・サルコマーに会いに行くのに奇抜な手土産をと探しに行くんです」
そう言いながら王女は歩きだすと、少女が横に並ばないので振り向いた。
「どうしたのです。陽は短いですよ」
「イルミ、あんた自分の命狙わせた奴になんで会いに行くんだぁ!? 殺して下さいって首さしだすようなもんだぞ!」
イルミ・ランタサルは肩をすくめると微笑んだ。
「大丈夫です! あなたが一緒に行ってくれるから」
少女は勢いよく顔を横に振った。
「いかねぇ! ぜってーにいかねぇぞ。向こうの騎士や兵士と乱闘になるのが眼に見えてる! イルミお前1人で行って死んでこい!」
「民をも巻き込む大
アイリ・ライハラは微笑んでとんでもないことを言い切った王女の本質に気がつき顔を強ばらせた。
この眼の前の王女は言いだしたら他人の意見なんて聞く気はない! こいつ