第11話 人ならざるもの
文字数 1,936文字
「なぜゆえにアイリ・ライハラが────魔物と決めつけるのです!?」
「あれらの企 みを耳にしました!」
ソファに仁王立ちの王妃 イルミ・ランタサルが、戸口に立つ臨時女騎士団長のヘルカ・ホスティラへ扉閉じるようにジェスチャーで伝え、彼女が後ろ手に閉じると廊下で振り向き室内のやり取りを聞いていた近衛兵らを閉め出した。
王妃 が女騎士ににんまりと微笑んで手招きしたのでヘルカは王妃 の両手をよく見て妖しく指を蠢 かせていないか気にしながらソファへ近寄った。
「ヘルカ、耳を貸しなさい」
「何ですか王妃 様?」
「アイリの耳は────ロバの耳」
ヘルカ・ホスティラは両腕を振り上げイルミから跳び離れ素っ頓狂 な声を上げた。
「えぇえええ!? ほ、ホントですか、い、イルミ様ぁ!?」
あまりにもの愕 きように王妃 は腰に両手を当て女騎士をからからと一笑した。
「嘘に決まってるでしょ! ヘルカ、あれはアイリ・ライハラ当人です。あの子は訳あって子供の姿でいたのですよ」
「どんな訳なのですか?」
イルミ・ランタサルは顔を背け眼を寄せた。長年仕える騎士の性格を忘れていたと適当な受け答えをしたことを後悔した。
「アイリの強すぎる剣技を危惧した師匠がその強さを弱めるために太古の呪術を用 いて子供にしていたのです」
王妃 の説明に女騎士ヘルカ・ホスティラは背筋が凍りついた。子供のなりでも手に負えないほど強いのだ。成人したあれはどれほどの強さなのだ。
王妃 はしつこい女騎士の唖然とする表情を見てこれならいけると他のものにも同じように話すことに決めた。
「では王妃 様、アイリのことを皆に────いいえ、それよりもアイリ・ライハラとエステル・ナルヒが人ならざるもの を復活させようと企 んでいます。早急になんとかせねば」
訴 えるホスティラの顔を見つめイルミ・ランタサルは思った。早とちり思い込みの激しいこの騎士がまた何か勘違いして話持ち込んできてるのだ。騒ぎが大きくなればそれをおさめる方が難しくなる。
「わかりました。ヘルカ・ホスティラ、至急2人を私 の元へ」
頷 いた女騎士は鉄靴 をガチャガチャ言わせ扉を壊さんばかりに出て行くとイルミは考え込んだ。
人ならざるもの ──とは何なの? デアチ国に遠征してきた際にアイリは友のイラ・ヤルヴァをこの国の騎士に殺され気が触れたようになり、イラの天使姿の幻想につきまとわれた。天使様がいるとすればきっと人ならざるもの になるだろうし、原野や迷宮に徘徊する魔物も人ならざるもの だわと王妃 は思った。
アイリから聞いたテレーゼ・マカイ復活の経緯 は、あの子が自 ら冥府に落ちて引っ張り出したという信じられないようなことなのだが、天上人 や魔物が冥府落ちするなんて思えない。
では人外 のエルフや獣人らなのだろうか?
冥府の様子はアイリの説明では取り立ててこの世とはかけ離れていないからそれならあり得るかもとイルミは考えた。
ふと王妃 は思いついた。
死んでも自力で戻って来れるのは、ある意味────不死身と同じではないか。人ならざるもの 復活よりも多くのものにあの子が不死身であると知られたら、聖痕 が現れたのと同じぐらいの衝撃があるだろう。
不死身の上に最強。
「むふふゥ」
十字軍率いるに相応しい騎士に祭り上げ諸国を跪 かせることを想像してしまいイルミ・ランタサルがにやついているといきなり扉が開いて出て行って間 もない女騎士ヘルカ・ホスティラが転がり込んできた。
「王妃 様ぁあああ! 大変でごじゃりまする!」
「ヘルカ、あなた舌咬 むわよ」
「2人がぁ、アイリ・ライハラとエステル・ナルヒが城塞より外に────逃げましたでぇすぅ」
聞いていて、あぁ面倒なとイルミはため息をついた。
まだ城や城塞都市にいるなら簡単に呼びつけることもできるが、原野に出て行ったとなると大規模な捜索隊を使わねばならず、余計な金がかかってしまう。ただでさえデアチ国の台所はひっ迫してるのだ。そんな兵を出すわけにはゆかなかった。
「ヘルカ・ホスティラ、折り入って頼みがあります」
「はい? 何でしょう王妃 様?」
「貴女 、ちょっと2人を追いかけて何を企 んでいるか確かめてらっしゃい」
「え? 何人ほど連れてですか?」
「貴女 1人よ──密偵 だから1人!」
女騎士が泣きっ面になって喚 いた。
「無理ですってば! この国の原野がどれだけ広いかご存知でしょう!」
抗議しながらにヘルカ・ホスティラは王妃 が言いだしたら、引っ込めないことを思い出しすがるようなうるうるの眼差しを向けた。
「宮廷魔術師でも、呪術師でも、シャーマンでも何でも使っていいけれど、追いかけるのは貴女 1人────よ!」
そう告げイルミ・ランタサルが、さっと出入り口へ片腕を振り上げ指さし女騎士が顎 を落とした。
「あれらの
ソファに仁王立ちの
「ヘルカ、耳を貸しなさい」
「何ですか
「アイリの耳は────ロバの耳」
ヘルカ・ホスティラは両腕を振り上げイルミから跳び離れ
「えぇえええ!? ほ、ホントですか、い、イルミ様ぁ!?」
あまりにもの
「嘘に決まってるでしょ! ヘルカ、あれはアイリ・ライハラ当人です。あの子は訳あって子供の姿でいたのですよ」
「どんな訳なのですか?」
イルミ・ランタサルは顔を背け眼を寄せた。長年仕える騎士の性格を忘れていたと適当な受け答えをしたことを後悔した。
「アイリの強すぎる剣技を危惧した師匠がその強さを弱めるために太古の呪術を
「では
「わかりました。ヘルカ・ホスティラ、至急2人を
アイリから聞いたテレーゼ・マカイ復活の
では
冥府の様子はアイリの説明では取り立ててこの世とはかけ離れていないからそれならあり得るかもとイルミは考えた。
ふと
死んでも自力で戻って来れるのは、ある意味────不死身と同じではないか。
不死身の上に最強。
「むふふゥ」
十字軍率いるに相応しい騎士に祭り上げ諸国を
「
「ヘルカ、あなた舌
「2人がぁ、アイリ・ライハラとエステル・ナルヒが城塞より外に────逃げましたでぇすぅ」
聞いていて、あぁ面倒なとイルミはため息をついた。
まだ城や城塞都市にいるなら簡単に呼びつけることもできるが、原野に出て行ったとなると大規模な捜索隊を使わねばならず、余計な金がかかってしまう。ただでさえデアチ国の台所はひっ迫してるのだ。そんな兵を出すわけにはゆかなかった。
「ヘルカ・ホスティラ、折り入って頼みがあります」
「はい? 何でしょう
「
「え? 何人ほど連れてですか?」
「
女騎士が泣きっ面になって
「無理ですってば! この国の原野がどれだけ広いかご存知でしょう!」
抗議しながらにヘルカ・ホスティラは
「宮廷魔術師でも、呪術師でも、シャーマンでも何でも使っていいけれど、追いかけるのは
そう告げイルミ・ランタサルが、さっと出入り口へ片腕を振り上げ指さし女騎士が