第6話 大鎌(サイズ)

文字数 1,920文字

 魔女の住処(すみか)ある島へ上陸しさらなる攻撃を退(しりぞ)けたイルミ・ランタサル一行は(ふもと)(きり)(かす)んだ髑髏(しゃれこうべ)に見える高台の白い氷の大きな(かたまり)目指した。

王妃(おうひ)様、上へ着いたらあの髑髏(しゃれこうべ)には入らず(われ)とテレーゼ、アイリだけで攻め入らせて頂きます」

「駄目です。(わたくし)が入らずして誰が指揮するのですか、ヘルカ?」

「そ、それは──(わたくし)めが────」

「全員殺すつもりですか!?」

 王妃(おうひ)のその言い方に女騎士は絶句して眼を白黒させた。その面もちを眼にしながらイルミ・ランタサルは銀眼の魔女の(ねら)いに困惑していた。

 さきほどは(わたくし)やアイリでなくノッチを殺しにきた。

 だがあれは()り落としたヘルカ・ホスティラの片腕が再生することやノッチの首が繋がることを知らずに勝ち名乗りを上げていた。

 ヘルカの腕繋がったのを目の当たりにしたあれは次に襲い来る時にノッチが生きていることも知り、普通の神経なら大いに困惑することになる。

 今まで斬殺(ざんさつ)してきた人々と違い我々は死の(ふち)からも戻ってきて何度もあれの脅威となりうるのだ

 殺せないとわかったら次に何をするか?

 簡単明瞭(かんたんめいりょう)────自害するように(おとし)めてくるか互いに殺し合うように差し向けてくる。

 問題はそれを(わたくし)が見抜き(みな)を正しい方向へ導けるかだとイルミ王妃(おうひ)は考えた。


 懐に入れた秘伝の薬役立つかもしれない。





 1人静かに姿見をみつめながら珍しく笑みを殺した。

 腕切り落としたはずの女剣士の右腕が何事もないように繋がり(ソード)を振り回していた。

 5百数十年そのようなものを見かけていない。

 手足を()り落とせば多くの血を失い(ほとん)どが死に絶えた。たとえ生きていても手足無くし不自由な身になった。

 (われ)の島に上がって無事なものは少ない。

 生きて本土に帰ったのはまぐれをつかんだものだけだ。

 あ奴らは道──踏み外したものらだと銀盤の魔女は5人組のパーティーを思いだし紫の紅をさした唇で笑みを浮かべ思った。

 まだあ奴らは困惑しているだけで、真の恐怖を味わってない。極限の辛酸(しんさん)を浴びせるのだ。

 ルースクース・パイトニサムは冷たい椅子から立ち上がり部屋の隅に立てかけているそれへと歩くと()をつかみ床から浮かした。昔、農家を皆殺しにして回った時の戦利品だった。

 これを振り回されると、どんな騎士でも勇者でも(おび)後退(あとず)さった。

 (われ)を死神ていどに思われるのも心外だが、余興にはこのような小道具も必要だ。

 それを抱きしめ両足を交差させ急激に回り銀眼の魔女は腕を伸ばした。


 振り回された大鎌(サイズ)の湾曲した(やいば)に軽く触れた氷のテーブルの足が砕け散って傾いて氷の床に角から突っ込んだテーブルが砕け散った。


王妃(おうひ)様、銀眼の魔女がどのような色からでも出入りするとなるとどうして空から出てこないのですか?」

 テレーゼ・マカイが実直に尋ねていた。

「それでは落ちて死んでしまうわ。あれが何もない(くう)から出てこないのは呼吸に必要な空気に色がないからです」

 そうイルミが(さと)すと、アイリが唇をねじ曲げた後に(たず)ねた。

「それじゃあ、俺っちやノッチの髪からもあいつは出て来れるのか? よくヒップが引っかからないな」

 茶化して言うアイリ・ライハラの意見にイルミはそれなりの答えを見つけていた。

「あれは出入りする色の面を広げるみたいです。ですから極端なことを言うと瞳の色彩からも出入りできるでしょう」

「ひえぇ、眼の内側に出られたら即死じゃないですか!?」

 ヘルカ・ホスティラが声を裏返させた。確かにそうだとイルミは思った。だがなぜか銀眼の魔女はその様な手段に出てこない。

 (ブレード)ぶつけ合うためにあれは現れる。まるで玩具の楽しさを味わうごとくだ。

 その困難な敵に4人の剣士はよく堪えていた。


 剣技(けんぎ)でも能力でもルースクース・パイトニサムは我々を上回り、回を重ねるごとにこちらの被害が大きくなっていた。


 あれはまるで猫がネズミを殺す前に(もてあそ)ぶように我々を襲っていた。

 イルミら一行は獣道のような山道を登りきり骸骨(がいこつ)に見えた巨大な氷の(かたまり)にたどり着いた。その氷の壁に沿って右回りに出入り口を探し歩いた。

「出入り口どころか小さな穴1つない氷の壁が続いています」

 先頭を行くテレーゼ・マカイがそう言うと2番手のヘルカが悪態ついた。

「あのラモ族の(おさ)、適当なことを言って今ごろ笑い声を上げてませんでしょうか?」

 歩きながら半身振り向いて王妃(おうひ)に言う女騎士の眼の前────イルミ・ランタサルとの間に突如(とつじょ)、大きな得物(えもの)手にした白髪を(なび)かせ銀眼の女が壁に刃口(きっさき)を引き()りながら多量の氷片をばら()き壁を滑り下りてきた。



「やあ、王妃(おうひ)様────ぁ。辛酸(しんさん)を渡しにきた」



 イルミ・ランタサル王妃(おうひ)は唇を引き結んでナイフを引き抜き構え思った。

 この狭い道の片側が壁でどうやってその大鎌(サイズ)を振り回す!?





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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