第17話 終焉(しゅうえん)の音
文字数 2,197文字
そんなぁ!?
見る間に首が繋 がってゆく。
元異端審問官ヘッレヴィ・キュトラは少女の一撃で眼の前の魔物が倒れるとばかり思ったのに早合点だったと唖然となった。
馬が後足で立ったような身の丈のある妖魔を倒せはしないと役人落ちはうろたえた。
その怪物がヘッレヴィに目もくれず素早く振り向き猫らに取りか囲まれ立つアイリ・ライハラを睨 み下ろし言い放った。
「ぼ、ぼくをひどい目にあわせたねぇ」
少女が鼻を鳴らし後退 さるも、それほど部屋が広くなく背が壁に突き当たった。
「に、逃がさないんだよぉ」
そう言うなり魔物の上半身が揺れ霞 むとアイリが立っている壁が木屑 を舞い上げ大穴が開いて猫らが血相を変え走って逃げだした。
ヘッレヴィが少女は潰 されたと顔を引き攣 らせ見つめると少女は部屋隅に立っていて舌打ちし唇を歪 めた。怪物も素速いが、どうやって少女が部屋の奥へ移動したのか元異端審問官にはまったく見えなかった。
「あん? 人にしては、きみ、速いんだね──でも──」
「でも、何だよ!?」
言い返した少女の顔を魔物の鉤爪 が引き裂いた。
裂けたのはアイリの残像だった。
その直後の怪物の有り様に役人落ちは眼を丸くした。
妖魔が躯 の向きそのままに首を真後ろに回してヘッレヴィの方へ向け耳近くまで口を開き長い舌で舐めずった。
「よく動く娘だねぇ。だけど、その人は普通にしか──」
言いながらいきなり怪物は筋肉だらけの長い腕を横様に振ってヘッレヴィの顔を引き裂いた。
切り裂き崩 れるのは残像で、魔物の横手の部屋隅に元異端審問官は立っていおり表情にありったけの困惑を浮かべ魔物を横から見ていた。
ど、どうなっているの!? いきなり部屋がもの凄い勢いで回ったように見えたら怪物の横手の部屋角に立ってる場所が変わっていたとヘッレヴィは眼を游 がせた。
「くそう、くそう! ちょこまかと鬱陶 しいぃ娘だねぇ」
魔物がそう悔しがり地団駄を踏むようにヘッレヴィの方へ迫って来た。部屋の猫らが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。だが元異端審問官は傍 に少女が居ないのにどうして魔物がアイリのことを語りこちらに来るのだと部屋を見回した。
妖魔の真後ろは見えないが、先にアイリは残像を残して消え失せてから1度も姿を見せていなかった。
「眼を回すなよ」
そう耳元で囁 かれた寸秒、ヘッレヴィ・キュトラは風の唸 りを耳にいきなり部屋が猛速度で回転し遅れて怪物が手を広げるのが辛 うじて見えた。
今度は妖魔の後ろの部屋隅に来て役人落ちは眼を丸くした。
ああ、これを少女がやっている。アイリ・ライハラが姿消したまま逃がしてくれてるとヘッレヴィは思った。
刹那 、魔物は窓のある壁へ駆け込み大振りに両腕を振り回し木屑 を舞い上げ壁を粉砕し大穴を開いた。
「口先ばっかで、お前────遅いじゃん」
少女の言い捨てる声だけが聞こえ、怪物が呻 り闇雲に両腕を振り回し突き出し動き回った。
魔物にも少女が見えていない! 幻術で姿消したまま巨体の妖魔を玩 んでいる!
いきなり天井を蹴る音が響き、ヘッレヴィが顔を上げると逆さまになったアイリ・ライハラが高天井に片膝 ついて怪物を見下ろしていた。
だが上背のある魔物が振り上げた腕が伸び鉤爪 が少女に迫ると何もいなくなった天板を抉 り砕けた板が降ってきた。
床に舞い落ちる木屑 に遅れて怪物の片腕が音を立て落ち大きな音を立て元異端審問官はびっくりした。
「くそう、くそう、ぼくの腕を──」
吼 えるように愚痴 りながら魔物が背を曲げ残った腕で斬 れ落ちた腕を拾おうとした矢先にその伸ばした腕が肩から離れ床に転がった。
瞬間、ヘッレヴィ・キュトラの前に残像が重なるように青髪を揺らして少女が実体化した。
「やっぱ、完全に離れると再生できねぇんだ」
そうアイリが言い放つと魔物が顔を振り上げた。
「そんなことない。そんなことないもん」
ヘッレヴィが怪物を見ると何もなくなった妖魔の両肩の切り口が泡立ち腕の形に伸び始めた。
「お前の弱点なんだよな」
弱点!? 何がとヘッレヴィが見つめる後ろ姿の少女が怪物にそう告げ、身体正面に横8の字でソードブレイカーを揺り動かしだした。
「再生中は身動きできねぇ────トゥエンティ・スリー・ステップ──ライトニング・テンペスト!」
宣言した一閃 、少女の揺り動かしていた腕と短剣が掻き消え部屋の空気が甲高く音を響かせヘッレヴィ・キュトラは堪 えきれず両耳を手で塞 いだ。
寸秒、部屋の空気が濁流 の水のように渦巻き重なり合う幾筋もの眼に見える流れに豹変し元異端審問官は生まれてこのかた経験したことのない爆轟の振動に包まれ、直後、部屋半分を残し何もかもがバラバラになり街並みの連なる屋根越しに上空へ吹き飛んだ。
腕を止めソードブレイカー構える青髪の少女の後ろ姿を見つめヘッレヴィ・キュトラは確信した。
この子は魔女なんて安っぽいものじゃない。魔族の長 !?
「────とか思ってるよなぁ?」
「いえ! 考えてません」
振り向いたアイリ・ライハラに言われ元異端審問官は引き攣 った顔で苦笑いを浮かべ否定するしかなかった。
直後、家々の間からわらわらと出てくる人影が騒ぎ聞きつけた街人 だと思ってヘッレヴィ・キュトラはまずいと感じた。
だが壊れた屋敷を取り囲んだものらが間近に見え元異端審問官はもっとまずい状況になってると感じた。
剣 と盾 構える十字軍の重兵達だった。
見る間に首が
元異端審問官ヘッレヴィ・キュトラは少女の一撃で眼の前の魔物が倒れるとばかり思ったのに早合点だったと唖然となった。
馬が後足で立ったような身の丈のある妖魔を倒せはしないと役人落ちはうろたえた。
その怪物がヘッレヴィに目もくれず素早く振り向き猫らに取りか囲まれ立つアイリ・ライハラを
「ぼ、ぼくをひどい目にあわせたねぇ」
少女が鼻を鳴らし
「に、逃がさないんだよぉ」
そう言うなり魔物の上半身が揺れ
ヘッレヴィが少女は
「あん? 人にしては、きみ、速いんだね──でも──」
「でも、何だよ!?」
言い返した少女の顔を魔物の
裂けたのはアイリの残像だった。
その直後の怪物の有り様に役人落ちは眼を丸くした。
妖魔が
「よく動く娘だねぇ。だけど、その人は普通にしか──」
言いながらいきなり怪物は筋肉だらけの長い腕を横様に振ってヘッレヴィの顔を引き裂いた。
切り裂き
ど、どうなっているの!? いきなり部屋がもの凄い勢いで回ったように見えたら怪物の横手の部屋角に立ってる場所が変わっていたとヘッレヴィは眼を
「くそう、くそう! ちょこまかと
魔物がそう悔しがり地団駄を踏むようにヘッレヴィの方へ迫って来た。部屋の猫らが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。だが元異端審問官は
妖魔の真後ろは見えないが、先にアイリは残像を残して消え失せてから1度も姿を見せていなかった。
「眼を回すなよ」
そう耳元で
今度は妖魔の後ろの部屋隅に来て役人落ちは眼を丸くした。
ああ、これを少女がやっている。アイリ・ライハラが姿消したまま逃がしてくれてるとヘッレヴィは思った。
「口先ばっかで、お前────遅いじゃん」
少女の言い捨てる声だけが聞こえ、怪物が
魔物にも少女が見えていない! 幻術で姿消したまま巨体の妖魔を
いきなり天井を蹴る音が響き、ヘッレヴィが顔を上げると逆さまになったアイリ・ライハラが高天井に
だが上背のある魔物が振り上げた腕が伸び
床に舞い落ちる
「くそう、くそう、ぼくの腕を──」
瞬間、ヘッレヴィ・キュトラの前に残像が重なるように青髪を揺らして少女が実体化した。
「やっぱ、完全に離れると再生できねぇんだ」
そうアイリが言い放つと魔物が顔を振り上げた。
「そんなことない。そんなことないもん」
ヘッレヴィが怪物を見ると何もなくなった妖魔の両肩の切り口が泡立ち腕の形に伸び始めた。
「お前の弱点なんだよな」
弱点!? 何がとヘッレヴィが見つめる後ろ姿の少女が怪物にそう告げ、身体正面に横8の字でソードブレイカーを揺り動かしだした。
「再生中は身動きできねぇ────トゥエンティ・スリー・ステップ──ライトニング・テンペスト!」
宣言した
寸秒、部屋の空気が
腕を止めソードブレイカー構える青髪の少女の後ろ姿を見つめヘッレヴィ・キュトラは確信した。
この子は魔女なんて安っぽいものじゃない。魔族の
「────とか思ってるよなぁ?」
「いえ! 考えてません」
振り向いたアイリ・ライハラに言われ元異端審問官は引き
直後、家々の間からわらわらと出てくる人影が騒ぎ聞きつけた
だが壊れた屋敷を取り囲んだものらが間近に見え元異端審問官はもっとまずい状況になってると感じた。