第4話 少数精鋭
文字数 1,833文字
「戦意を鼓舞 したのに何が気にくわないの!?」
いつになく緊 い剣幕でイルミ・ランタサルが問うた。
「あれでは戦 馬鹿が有頂天になるだけじゃん」
珍しく王妃 が人払いをして騎士団長の部屋に尋ねてきてすぐに言い合いになった。
「俺がやりたいのは意趣返しであって大戦ではないのに!」
「どちらでも同じことじゃない! 十万に届く兵がぶつかり合ってみろ! 死人の山になるんだぞ!」
険しい表情のイルミ・ランタサルが唇を真一文字に結びツンとすまし顔になると少女を見もせずに言い切った。
「死人の山を作りたがったのはアイリ・ライハラ、貴女 なのですよ」
アイリは眼の前が真っ暗になりそうだった。思惑が手から離れ一人歩きしていると感じた。それをくるんくるんから叩きつけられ右往左往しそうだった。
「違う、ちがう────ちが、う!」
突撃する我が軍の足音が脳裏に響いた。地鳴りだ。人の思いなど踏みにじる雷鳴の響きだ。強健派を願ったが少数精鋭で敵を叩く特殊な兵達を望んだのに。
私の──わたしの────この小さな手では────。
「あぁもういい。俺とノッチだけでいく」
そう告げアイリは柱を一殴りした。
「待ちなさい! もう正規軍8万6千余りへ伝令が出ているのよ」
「知らん────好きに踊っていろ」
もう話し合いの時間は終わっていると擦り切れる希望にアイリ・ライハラはノッチへ半身振り向いた。
「遠出するよ。ついておいで」
アイリとイルミ・ランタサルの間に決して割って入ろうとしない天上 の付き人は操り人形のように立ち上がると青ざめる王妃 の顔を見つめた。
「心配するなイルミ・ランタサル。武人は音頭取らぬとすぐに言の葉を散らす類 だ。まれにしか戦 に発展しない」
くやし涙を浮かべた王妃 が頷 くとノッチも部屋を後にした。
部屋を出て武器庫へ向かうアイリ・ライハラは何も喧嘩するつもりはなかったと後悔した。円卓会議こそしたものの総意での戦 でなくイルミ・ランタサルが命じたものになっているのだろ。
くるんくるんの場合、人命だけでなく国の資金や経済など方面を考えなくてはならない。それだけ縛 られている女なんだ。
「不自由──だ────よな」
ぼそりとアイリが言うとノッチがぼそりと返した。
「神でさえ信者に雁字搦 めだ」
そうノッチが言い切るとアイリが続けた。
「親子でさえ互いにがんじがらめだよ」
「夫婦も」
そうノッチが思いの丈を吐くとアイリは笑いだした。
武器庫でとりあえず遠征用の道具類をそろえ2人とも髪色を隠すフードを羽織った。
「テレーゼも来てくれるって」
「誘いましょう」
アイリはノッチと顔を見合わせた。
「さすがに3人は少ないよな」
アイリが弱音を吐くとノッチが提案した。
「ヘルカ・ホスティラを筆頭にノーブルのものを5人ほどどうでしょう」
アイリが頷 くと2人は武器庫を後にした。
まず近い部屋から当たることにした。
リディリィ・リオガ王立騎士団第8位のイェッセ・レフテラの部屋をたずねた。
扉をノックして中から返事があるとアイリがドアを開いた。
「ああ、これは騎士団長、いかがなされた?」
アイリは事情を話すとイェッセは両膝 を叩いて賛同してくれるた。
イェッセを準備に出させその間 に2人は次にテレーゼ・マカイの部屋を訪ねると彼女はすでに用意を済ませ姉と談笑していた。
そうやって次々に声を掛けてぞろぞろと最後にヘルカ・ホスティラの部屋を訪ねると彼女が困った顔をした。
「賛同したいが、遠征軍の副隊長にされてしまってな」
アイリがうるうるとした瞳で見つめるとヘルカは苦笑いして了承した。
「わかったからアイリその顔はやめろ遠征軍作戦参謀に置き手紙してゆくから」
そうやって9人は目立たぬようばらばらに礼拝堂に行くと牧師様 に洗礼を受け馬屋へと向かった。
馬具を用意する前にアイリ・ライハラは男5人女3人を集め言い渡した。
「よく聞いて欲しい。これはわたしの意趣返しで報奨もなければ、栄誉もない。終わって戻ると反逆者の汚名を着せられるかもしれない。そして難しい作戦になるのでここで辞退しても構わない」
「何を仰 る騎士団長、我ら王立騎士団の精鋭。お声掛け頂いただけで光栄ですぞ」
リディリィ・リオガ王立騎士団第4位のミカエル・プリンシラがそう音頭をとった。
「目標は我が父クラウス・ライハラに冤罪 の汚名を被せ訴追したイモルキ国家老ヘルマンニ・パールマと配下の家臣 7人それに賛同した騎士11人の命だ。乗馬!」
腕に自信持つ騎士らが一斉に騎乗した。
いつになく
「あれでは
珍しく
「俺がやりたいのは意趣返しであって大戦ではないのに!」
「どちらでも同じことじゃない! 十万に届く兵がぶつかり合ってみろ! 死人の山になるんだぞ!」
険しい表情のイルミ・ランタサルが唇を真一文字に結びツンとすまし顔になると少女を見もせずに言い切った。
「死人の山を作りたがったのはアイリ・ライハラ、
アイリは眼の前が真っ暗になりそうだった。思惑が手から離れ一人歩きしていると感じた。それをくるんくるんから叩きつけられ右往左往しそうだった。
「違う、ちがう────ちが、う!」
突撃する我が軍の足音が脳裏に響いた。地鳴りだ。人の思いなど踏みにじる雷鳴の響きだ。強健派を願ったが少数精鋭で敵を叩く特殊な兵達を望んだのに。
私の──わたしの────この小さな手では────。
「あぁもういい。俺とノッチだけでいく」
そう告げアイリは柱を一殴りした。
「待ちなさい! もう正規軍8万6千余りへ伝令が出ているのよ」
「知らん────好きに踊っていろ」
もう話し合いの時間は終わっていると擦り切れる希望にアイリ・ライハラはノッチへ半身振り向いた。
「遠出するよ。ついておいで」
アイリとイルミ・ランタサルの間に決して割って入ろうとしない
「心配するなイルミ・ランタサル。武人は音頭取らぬとすぐに言の葉を散らす
くやし涙を浮かべた
部屋を出て武器庫へ向かうアイリ・ライハラは何も喧嘩するつもりはなかったと後悔した。円卓会議こそしたものの総意での
くるんくるんの場合、人命だけでなく国の資金や経済など方面を考えなくてはならない。それだけ
「不自由──だ────よな」
ぼそりとアイリが言うとノッチがぼそりと返した。
「神でさえ信者に
そうノッチが言い切るとアイリが続けた。
「親子でさえ互いにがんじがらめだよ」
「夫婦も」
そうノッチが思いの丈を吐くとアイリは笑いだした。
武器庫でとりあえず遠征用の道具類をそろえ2人とも髪色を隠すフードを羽織った。
「テレーゼも来てくれるって」
「誘いましょう」
アイリはノッチと顔を見合わせた。
「さすがに3人は少ないよな」
アイリが弱音を吐くとノッチが提案した。
「ヘルカ・ホスティラを筆頭にノーブルのものを5人ほどどうでしょう」
アイリが
まず近い部屋から当たることにした。
リディリィ・リオガ王立騎士団第8位のイェッセ・レフテラの部屋をたずねた。
扉をノックして中から返事があるとアイリがドアを開いた。
「ああ、これは騎士団長、いかがなされた?」
アイリは事情を話すとイェッセは
イェッセを準備に出させその
そうやって次々に声を掛けてぞろぞろと最後にヘルカ・ホスティラの部屋を訪ねると彼女が困った顔をした。
「賛同したいが、遠征軍の副隊長にされてしまってな」
アイリがうるうるとした瞳で見つめるとヘルカは苦笑いして了承した。
「わかったからアイリその顔はやめろ遠征軍作戦参謀に置き手紙してゆくから」
そうやって9人は目立たぬようばらばらに礼拝堂に行くと
馬具を用意する前にアイリ・ライハラは男5人女3人を集め言い渡した。
「よく聞いて欲しい。これはわたしの意趣返しで報奨もなければ、栄誉もない。終わって戻ると反逆者の汚名を着せられるかもしれない。そして難しい作戦になるのでここで辞退しても構わない」
「何を
リディリィ・リオガ王立騎士団第4位のミカエル・プリンシラがそう音頭をとった。
「目標は我が父クラウス・ライハラに
腕に自信持つ騎士らが一斉に騎乗した。