第19話 狂戦士
文字数 2,490文字
城下の町や城壁都市の外からディルシアクト城には毎日多くのものが運び込まれる。その多くは食料と飲み物である場合が多いが、城で働くものも朝城へとのぼる。
鎖 で吊 された城扉を兼ねる大きな跳ね橋が下ろされ、早朝に収穫された野菜が積まれた荷車をラバが曳 き渡ろうとした時に、城門の上の突き出した小部屋 から見ていた門兵が、荷車の後ろから一緒に歩き渡ろうとするマントに身を包みフードで顔を隠したものを呼び止めた。
「おい! お前! 顔を見せろ!」
だがフードを被ったものは顔も上げず、歩みも止めずに跳ね橋に足をかけようとそのまま進んだ。
「おい! お前! 止まらんか!」
それでも足を止めないその怪しいものに門兵は即座に角笛を吹き下の兵に錘 を落とせと報せると、巻き上げてあった鎖 の先の錘 が落とされ一気に跳ね橋が引き上げられた。
納品業者は荷車ごと橋に押し切られ城門内へ滑り落ちたが、フードを被った怪しいものは跳ね橋から姿を消していた。
城門へ剣 を腰に下げた兵ら3人が駆けつけ上げられた跳ね橋を見上げると先に膝 が乗りだしフードを被ったそのものが身を乗り越えると滑り下りてきた。
石畳に飛び下りて平然としているそのものを3人の兵は取り囲み、押さえ込もうと腕を伸ばしつかみかかった。
一瞬だった。マントを振り回しそのものが3人の兵に脚払 いをかけ転ばすと、真っ先に起き上がりかかり剣 を抜こうとした兵の顔面を殴りつけた。その重い音に他2人が一瞬躊躇 したが剣 を引き抜いた。
そのものは二振りの刃 を次々に殴りつけた。瞬間、刃 は途中で砕け折れると、マントのものは2人の兵士らの首を両手でつかんだ。首を抑えられた兵はフードの奥に眼を向け顔をひきつらせた。
フードの中から赤く光る双眼が睨 み据えていた。
その騒ぎに5人の兵が新たに駆けつけると、そのものらに首をつかんでいたマントのものは握りしめた2人の兵を軽々と投げつけた。駆けつけたうちの2人がまともにぶつかり倒れると、残る3人が剣 を構えそのマントのものを取り囲んだ。
大きくなりかけた騒ぎに、その城門前へさらに4人の兵が加勢に駆けつけてきて、マント姿にフードで顔を隠した何ものかが重要な区画がある奥へと向かおうとするのを地面に片膝 をつき楯 を構え、立ちふさがった。
だがマント姿のものは立ちふさがる兵士らを無視するように迫り平然と城の奥に向け歩き出し、取り囲んでいたうちの2人が同時に肩の後ろに引いた剣 を振り下ろした。
硬質の音が響きその2枚の刃 をマントのものは振り上げた両前腕で平然と受けとめた。直後その腕を振り回し取り囲んだ3人を殴りつけ倒すと、兵士らは決して近くない石塀まで飛ばされあるものは腕の骨を折り、あるものは血を吐き戻し気を失ってしまった。
その力強さに、楯 で足止めしようとしていた兵士らは動揺し恐れおののいた。1人の兵士が他のものに騎士と近衛兵に報せろと怒鳴ると、一番若い兵士が後ろに突きだされ血相を変えて城の奥へと駆けだし、残った3人の兵士らは揃 って楯 でマント姿のものへぶつかり押し返そうとそれぞれが脚と腕、背に力を込めた。
刹那 、マント姿のものは2枚の楯 の上部をつかみ地面を蹴った一瞬逆さまになり3人の兵士らを飛び越え後ろに着地すると悠々 と奥へ向かいだした。その片足に1人の兵士が楯 を投げ捨てしがみつくと、他の2人は逆の脚にしがみついた。だがそれは無駄なあがきだった。
兵士らを引き摺 りマント姿のものがまったく乱れずに歩き行くさまを城の他のものらは唖然として見つめていた。
コロシアムに駆け込んできた若い兵士が皆 に大声で叫んだ。
「大変だ! 正門通りに狂戦士みたいな奴が暴れてる!」
振り向いた近衛兵の半数が1人の若い女を中心に地面に膝 をついたり、尻餅をついて座り込んでいた。
「狂戦士だぁ!? 体格は大きいのか!?」
近衛兵長のライモが大声で尋ねると、叫んだその兵士は仁王立ちで鞘 に収まった剣 をつかんでいるイラ・ヤルヴァを振り上げた右手で指差し、彼女は片眉を上げ驚いた。
「イラ!? あんた何やらかした!?」
ライモの横にいるアイリ・ライハラが尋ねると、女暗殺者 は首をぶんぶん振って否定した。それを見て少女は苦笑いしイラにやり込まれへこんでいる近衛兵達に活を入れた。
「お前ら! 狂戦士を仕留めた奴にはイラ・ヤルヴァがベッドサービスするぞ!」
その瞬間、ヘロヘロの近衛兵達が一斉にコロシアムの門へ駆けだした。その後に頭を掻きながらイラがついて行くと歩き出したライモはアイリへ尋ねた。
「どうしてお前じゃないんだ?」
「えぇ!? わたし、まだお子さまだぞ」
歩きながらライモが振り向くと立ち止まったアイリが自身を指差していて、近衛兵長は大声で笑いその後でとんでもないことを約束した。
「アイリ、お前、狂戦士倒してこい。手柄の褒美は1日俺を自由にしていいぞ」
直後、少女には極端に長すぎるランス──ヴァンプレイト(:大きな笠状の鍔 )がついた細長い円錐の形の槍 のハンドル・エンドを地面について上目遣 いでライモに尋ねた。
「何してもいいの?」
少女の問いに近衛兵長は苦笑いし頷 いた。その瞬間、アイリ・ライハラはライモ近衛兵長に長い槍 を放り出し彼がそれを慌てて受け止めると、すでに少女は群青の髪を靡 かせ、砂煙を軽く巻き起こし己の細身の反った剣 を後ろ手に握りしめコロシアムの出入り口まで駆け去ろうとしていた。
「さぁて、あいつの暴れぶりを楽しみに行くかな」
そうライモは呟 きニヤツくと大柄な身体に似つかわないダッシュした。
城内の大広間手前の中央路にイラ・ヤルヴァが軽い足取りでたどり着き光景を眼にし即座に剣 を半身引き抜いた。
先に駆けつけた近衛兵の半数以上がすでに倒されていた。その中心に立つフードを被りマントで身体を隠すそのものが、女暗殺者 へと顔を振り向けると、風でフードが後ろへずれ落ちた。
まるで岩を彫り込んで作られたような妖女ゴーゴンの顔と赤く光る双眼に、イラ・ヤルヴァは殺意以上の悪意を感じて、赤い唇を捻ると軽くステップを回しながら急激にその怪物へ加速し迫った。
「おい! お前! 顔を見せろ!」
だがフードを被ったものは顔も上げず、歩みも止めずに跳ね橋に足をかけようとそのまま進んだ。
「おい! お前! 止まらんか!」
それでも足を止めないその怪しいものに門兵は即座に角笛を吹き下の兵に
納品業者は荷車ごと橋に押し切られ城門内へ滑り落ちたが、フードを被った怪しいものは跳ね橋から姿を消していた。
城門へ
石畳に飛び下りて平然としているそのものを3人の兵は取り囲み、押さえ込もうと腕を伸ばしつかみかかった。
一瞬だった。マントを振り回しそのものが3人の兵に
そのものは二振りの
フードの中から赤く光る双眼が
その騒ぎに5人の兵が新たに駆けつけると、そのものらに首をつかんでいたマントのものは握りしめた2人の兵を軽々と投げつけた。駆けつけたうちの2人がまともにぶつかり倒れると、残る3人が
大きくなりかけた騒ぎに、その城門前へさらに4人の兵が加勢に駆けつけてきて、マント姿にフードで顔を隠した何ものかが重要な区画がある奥へと向かおうとするのを地面に
だがマント姿のものは立ちふさがる兵士らを無視するように迫り平然と城の奥に向け歩き出し、取り囲んでいたうちの2人が同時に肩の後ろに引いた
硬質の音が響きその2枚の
その力強さに、
兵士らを引き
コロシアムに駆け込んできた若い兵士が
「大変だ! 正門通りに狂戦士みたいな奴が暴れてる!」
振り向いた近衛兵の半数が1人の若い女を中心に地面に
「狂戦士だぁ!? 体格は大きいのか!?」
近衛兵長のライモが大声で尋ねると、叫んだその兵士は仁王立ちで
「イラ!? あんた何やらかした!?」
ライモの横にいるアイリ・ライハラが尋ねると、女
「お前ら! 狂戦士を仕留めた奴にはイラ・ヤルヴァがベッドサービスするぞ!」
その瞬間、ヘロヘロの近衛兵達が一斉にコロシアムの門へ駆けだした。その後に頭を掻きながらイラがついて行くと歩き出したライモはアイリへ尋ねた。
「どうしてお前じゃないんだ?」
「えぇ!? わたし、まだお子さまだぞ」
歩きながらライモが振り向くと立ち止まったアイリが自身を指差していて、近衛兵長は大声で笑いその後でとんでもないことを約束した。
「アイリ、お前、狂戦士倒してこい。手柄の褒美は1日俺を自由にしていいぞ」
直後、少女には極端に長すぎるランス──ヴァンプレイト(:大きな笠状の
「何してもいいの?」
少女の問いに近衛兵長は苦笑いし
「さぁて、あいつの暴れぶりを楽しみに行くかな」
そうライモは
城内の大広間手前の中央路にイラ・ヤルヴァが軽い足取りでたどり着き光景を眼にし即座に
先に駆けつけた近衛兵の半数以上がすでに倒されていた。その中心に立つフードを被りマントで身体を隠すそのものが、女
まるで岩を彫り込んで作られたような妖女ゴーゴンの顔と赤く光る双眼に、イラ・ヤルヴァは殺意以上の悪意を感じて、赤い唇を捻ると軽くステップを回しながら急激にその怪物へ加速し迫った。