第2話 ありんす
文字数 2,681文字
呪いより怖い────。
アイリ・ライハラは変人じみたデアチ国の元騎士団長マティアス・サンカラにとてもこれ以上関わりたくないと、後を追わなかった。
北の大国は謎めいて恐ろしいばかりだと少女が感じ始めていると、案内していたデアチ国の中位騎士の1人が話を切りだした。
「ライハラ殿、実はあの近寄りがたい元騎士団長よりも騎士の鏡のようなものが1人おります。ぜひ剣竜騎士団を知り得る上でお目通しを願いたいのですが、いかがでしょう?」
近寄り────がたい? 指1本触れられなかったのを近寄りがたいと言うあんたの神経どうかしてんじゃん、とアイリは唇をへの字に曲げてしまった。
「アイリ殿────貴公、騎士団長 の役目として団員すべてを網羅して把握する必要を尽力 しなければ」
女騎士ヘルカ・ホスティラに言われ少女は振り向いて睨 みつけた。騎士団長 を毎回噛んで言う奴に偉そうに指南されたくない!
それにデアチ国の騎士はとんでもない奇人が多いのかとアイリは疑り深くなっていた。どうせその騎士の鏡という奴も大きな鏡をいつも持ち歩いているとか、奇人だぞ!
少女は話を持ちかけた騎士が期待するような眼で見つめていることに気づいた。
あぁ────くそ!
「変人だったらお前の尻に剣先をねじ込むぞ」
「そんなことは露 ほどにも心配いたしません」
胸を張りその騎士が言い切るとアイリは頷 いた。
騎士居館 から出て案内するそのデアチ国の騎士らに従いアイリ達ノーブル国の騎士らの1人女騎士ヘルカ・ホスティラは見回しそれにしてもデアチ国は何もかも規模が大きいと感じていた。
ノーブル国では騎士や近衛兵の居館 はあるがそれはあくまでも城の中の1つの家屋 に過ぎないが、デアチ国では騎士と近衛兵の1つの城として巨大な城の中の小城になっていた。
その兵城ともいえる小城の中に位に応じて居館 が別れている。
だがそれも厳格ではないらしい。格下げになった剣竜騎士団長マティアス・サンカラは下位騎士らの居館 で寝っ転がっていた。
幾つかの渡り廊下を抜け案内するデアチ国の中位騎士らが入って行く居館 は他のものと見分けがつかずその騎士の鏡とやらの順位 は皆目、予想ができなかったが──女騎士ヘルカ・ホスティラは密かに期待した。
騎士の鏡────騎士道の真骨頂 。
期待せずにおられるか!
問答を投げかけノーブル国騎士団の方がより優れていると証明したい!
だがデアチ国の中位騎士について行くアイリ・ライハラが肩を落としとぼとぼと歩く姿に、総勢300名の騎士頂点に立つ騎士団長 がそんなことでどうするかと少し苛 ついた。
居館 の1室の扉の前で案内役の騎士がドア・ノッカーを叩き大きな声で要件と入室の許諾 を申し出た。
「エステル・ナルヒ殿はおられるか! 新騎士団長アイリ・ライハラ殿がお目通しをされたいとの事でご案内して参った!」
名から女騎士だとヘルカ・ホスティラは競争心が高ぶった。
『お入りなんし』
お入りなんし !? な・ん・し、だぁ!?
ヘルカが驚いていると出入り口で少女が呟 いた言葉が聞こえた。
「こいつも────だぁ」
案内役によって開かれた出入り口に立ち尽くし一向に入ろうとしないアイリ・ライハラにヘルカ・ホスティラはイライラした。思わず剣 鞘 の先を振り向け少女を押そうと思うが、それは教会より預かりし武具の使い方として騎士道に反するとぐっと我慢する。
「どうしんした ? 早く入りなんし」
どうしんした !? どこの出身なんだと気になるヘルカ・ホスティラは上背が1番ありながら前に立つ元騎士団長リクハルド・ラハナトスが邪魔になり見ようと左右にうろうろとした。
やっと少女やリクハルドが入室し室内が見えた女騎士ヘルカ・ホスティラはソファに寝そべっているそいつを眼にして足を止めてしまった。
な、なんだ!? このフル装備の女は!?
別段、甲冑 を着込んで両腰に長剣 を携えソファに横になってるわけではない。
まるで甲冑 の装飾を顔に施 した如 き模様の入った顔! け、化粧じゃない! 顔中に蔓 が這い回り顔の側面へ葉が広がり所々に葡萄の房 が下がっている。
ヘルカ・ホスティラはメイクアップなのかと思ったが見つめると刺青 だと気づいた。
こいつ葡萄農家──いいや、ワイン屋の1人娘とかなのか?
だがその服装が問題だった。
ソファに横へ脚を上げ気怠 げなエステル・ナルヒは、胸元が大きくはだけ撓 わな乳房の半分が見えている男をその気にさせる娼館 の女が着るような赤いドレスを身につけて、細身の長いパイプで煙りを燻 らせている。
「主 さん、ヴォルフ・ツヴァイクを倒し剣竜騎士団の長 におなりでやんすね」
その騎士の鏡だという女騎士がアイリ・ライハラに話しかけていた。ヘルカ・ホスティラは、案内してきたデアチ国の騎士らがこいつをなぜ騎士の鏡だと言うのかまったく理解できなかった。
ふとヘルカ・ホスティラは出入り口を塞ぐように立っていることに気づき、後輩のクスター・マケラとヨーナス・オヤラが後ろで辛抱強く待っているのだと慌 てて室内に入ると少女が話しを切りだした。
「エステル・ナルヒ、わたしが新しい騎士団長の──」
「やま さん、存じてまし。アイリ・ライハラでござりんす。主 様、武左 なく強いお方と耳にしていんす。どうぞよろしゅう」
アイリがノーブル国で1番の古株騎士リクハルドへ振り向いて聞いた。
「わかる、リクハルド?」
「いえ、流石 に聞いたことのない言葉。少ししか意味が見えませんが丁寧 にも聞こえます」
少女がソファに横に脚を伸ばしたままのエステルへ振り向いて尋ねた。
「騎士団長としてエステル──あんたの強さを知らなきゃならない。でないと合戦で使えないから」
エステルが微 かに顔をしかめ答えた。
「わっちは弱いでありんすから、戦にお声掛けは勘弁してくんなまし」
アイリと元騎士団長の間後ろから成り行きを聞いているヘルカ・ホスティラはそのとても騎士には見えぬ娼館 の女みたいなデアチ国の騎士が弱いから戦 に出さないでくれと言うのも納得できた。
確かに少しも強そうに見えない。
だが剣竜騎士団の団長位を投げだしたあの腹の出た騎士の例もある。とんでもない食わせ物かもしれない。260人中の2桁クラス──いいや3桁クラスだろうか?
それを察 したようにアイリが問うた。
「エステル、じゃあ剣竜騎士団で第何位を預かっているんだ?」
「わっちは6位でありんす。でありんすが煙管 より重いものは苦手でありんす」
6位! あの双子姉妹騎士と殆 ど同位! ノーブル国の騎士達が顔を強ばらせる中、アイリが己 の長剣 に手をかけた。
アイリ・ライハラは変人じみたデアチ国の元騎士団長マティアス・サンカラにとてもこれ以上関わりたくないと、後を追わなかった。
北の大国は謎めいて恐ろしいばかりだと少女が感じ始めていると、案内していたデアチ国の中位騎士の1人が話を切りだした。
「ライハラ殿、実はあの近寄りがたい元騎士団長よりも騎士の鏡のようなものが1人おります。ぜひ剣竜騎士団を知り得る上でお目通しを願いたいのですが、いかがでしょう?」
近寄り────がたい? 指1本触れられなかったのを近寄りがたいと言うあんたの神経どうかしてんじゃん、とアイリは唇をへの字に曲げてしまった。
「アイリ殿────貴公、騎士団
女騎士ヘルカ・ホスティラに言われ少女は振り向いて
それにデアチ国の騎士はとんでもない奇人が多いのかとアイリは疑り深くなっていた。どうせその騎士の鏡という奴も大きな鏡をいつも持ち歩いているとか、奇人だぞ!
少女は話を持ちかけた騎士が期待するような眼で見つめていることに気づいた。
あぁ────くそ!
「変人だったらお前の尻に剣先をねじ込むぞ」
「そんなことは
胸を張りその騎士が言い切るとアイリは
騎士
ノーブル国では騎士や近衛兵の
その兵城ともいえる小城の中に位に応じて
だがそれも厳格ではないらしい。格下げになった剣竜騎士団長マティアス・サンカラは下位騎士らの
幾つかの渡り廊下を抜け案内するデアチ国の中位騎士らが入って行く
騎士の鏡────騎士道の
期待せずにおられるか!
問答を投げかけノーブル国騎士団の方がより優れていると証明したい!
だがデアチ国の中位騎士について行くアイリ・ライハラが肩を落としとぼとぼと歩く姿に、総勢300名の騎士頂点に立つ騎士団
「エステル・ナルヒ殿はおられるか! 新騎士団長アイリ・ライハラ殿がお目通しをされたいとの事でご案内して参った!」
名から女騎士だとヘルカ・ホスティラは競争心が高ぶった。
『お入りなんし』
お入り
ヘルカが驚いていると出入り口で少女が
「こいつも────だぁ」
案内役によって開かれた出入り口に立ち尽くし一向に入ろうとしないアイリ・ライハラにヘルカ・ホスティラはイライラした。思わず
「どうしんした ? 早く入りなんし」
やっと少女やリクハルドが入室し室内が見えた女騎士ヘルカ・ホスティラはソファに寝そべっているそいつを眼にして足を止めてしまった。
な、なんだ!? このフル装備の女は!?
別段、
まるで
ヘルカ・ホスティラはメイクアップなのかと思ったが見つめると
こいつ葡萄農家──いいや、ワイン屋の1人娘とかなのか?
だがその服装が問題だった。
ソファに横へ脚を上げ
「
その騎士の鏡だという女騎士がアイリ・ライハラに話しかけていた。ヘルカ・ホスティラは、案内してきたデアチ国の騎士らがこいつをなぜ騎士の鏡だと言うのかまったく理解できなかった。
ふとヘルカ・ホスティラは出入り口を塞ぐように立っていることに気づき、後輩のクスター・マケラとヨーナス・オヤラが後ろで辛抱強く待っているのだと
「エステル・ナルヒ、わたしが新しい騎士団長の──」
「
アイリがノーブル国で1番の古株騎士リクハルドへ振り向いて聞いた。
「わかる、リクハルド?」
「いえ、
少女がソファに横に脚を伸ばしたままのエステルへ振り向いて尋ねた。
「騎士団長としてエステル──あんたの強さを知らなきゃならない。でないと合戦で使えないから」
エステルが
「わっちは弱いでありんすから、戦にお声掛けは勘弁してくんなまし」
アイリと元騎士団長の間後ろから成り行きを聞いているヘルカ・ホスティラはそのとても騎士には見えぬ
確かに少しも強そうに見えない。
だが剣竜騎士団の団長位を投げだしたあの腹の出た騎士の例もある。とんでもない食わせ物かもしれない。260人中の2桁クラス──いいや3桁クラスだろうか?
それを
「エステル、じゃあ剣竜騎士団で第何位を預かっているんだ?」
「わっちは6位でありんす。でありんすが
6位! あの双子姉妹騎士と