第5話 大人の話

文字数 2,028文字

「でありますからにして、東の大国イモルキとの3日戦争の後、講和を申し出たイモルキが譲歩し差し出した領地へイモルキ側が兵を差し向ける事4度あり国境警備兵1000、騎士70騎常駐は『必定(ひつじょう)』でぇえぇ! ────」

 説明を()んでしまった国防大臣は目の前に倒れている2人の家臣(かしん)が頭や顔から血をぴゅーぴゅーと噴き出しているのを盗み見、気づかれぬよう王妃(おうひ)が手にする王笏(おうしゃく)へ視線を向け思った。

 どこの世界に星球武器(モーニングスター)(:棒の先に金属の棘が多数突き出た打撃武器)をレガリア(:君主の手にする装飾された象徴)として手にする君主がおろうか!

 小娘の細腕で振り回してもあんなものが当たったら無事では済まず、倒された家臣(かしん)2人は軽く当たった程度に見えただけなのに血を()きながら吹っ飛んだ。

「────すみませぬ。言葉間違い申した。『不可避』です」

 弁解と訂正をした寸秒、新たなる大君(たいくん)が右手に握った星球武器(モーニングスター)を左手のひらの上で弾ませ国防大臣は見下してくる視線を()(うつむ)いた直後、王妃(おうひ)から言い捨てられた。



(おろ)か者」



 耳の上から血を噴き出しながら国防大臣は横へ吹っ飛び玉座へ敷かれた赤いカーペットの外へ倒れ転がった。

 それを目にした他の家臣(かしん)らが一斉に後退(あとず)さった。


 圧制だ! 恐怖支配だ! 倒された王──ヴェルネリ・トゥオメラ・ヴィルタネン3世も荒々しかったが、新たなる王妃(おうひ)────若すぎるイルミ・ランタサルのスタイルは(まさ)に暴力! まるで血に飢えた狼の(ごと)く、身近なものにさえ強権を誇示(こじ)し首に噛みつく。

「どいつもこいつも国力が無尽蔵(むじんぞう)ぐらいに軽く思っている」

 イルミ・ランタサル王妃(おうひ)に言われ、そんな事はないと怯えきった家臣(かしん)らは幾つもの理由を思い浮かべそれに(すが)った。

「いいですか! 国政とは『入るを(はか)りて()ずるを制する』事です! あなたらのやっているのは『()ずるに合わせて入りを(たよ)る』に他ならない!」

 当たり前だ。兵を維持するのに足らぬ国費はよその国から奪い取るしかなく、取り上げるために兵が必要なのだ、と多くの家臣(かしん)が腹の中で思った。

 それのどこがいかんのだ!?

「しかし王妃(おうひ)様、この国の1年の内5ヵ月近くは雪と氷に覆われ収穫物も工業品も外に出せるものは少なく、国を(まかな)うには他の国から奪うしか────」

 必死で弁明するその老齢にはまだほど遠い家臣(かしん)の方へ玉座の段から無言でイルミ・ランタサルが膨らんだスカートを引き()り下りてくると、その男の周囲いた他の家臣(かしん)らが広がり離れ、当の家臣(かしん)は言葉を失い足を後ろに下げた。



「愚か者!」



 言葉を浴びせた瞬間、唇をへの字に曲げ王妃(おうひ)が右手の星球武器(モーニングスター)を振り上げ抗弁していた家臣(かしん)は震え(おのれ)(かば)うように両腕を自分の前に振り上げた。

 ぶん!

 (うな)る風にその男が悲鳴を漏らした一閃(いっせん)両膝(りょうひざ)をカーペットに落とし頭から血をほとばしらせ前に倒れた。

「真に(みの)りある国策を思いつかぬ様なものなぞ、ダニ、ヒル、ノミとみなし駆除(くじょ)する。(おのれ)以上に国家国民の繁栄、平和、幸福を思う心がなければ地獄の責め苦が天のものだと思える様な方法で精魂(たた)き直してくれようぞ!」

 ぶんぶんと星球武器(モーニングスター)を振り回し始めた王妃(おうひ)へ背を向け家臣(かしん)らが逃げだし出入り口に殺到した。





 午後からもデアチ国の騎士数人に案内され上位騎士ら会いに回るアイリ・ライハラらノーブル国の騎士達は思わず立ち止まってしまった。

 交差する廊下をデアチ国の家臣(かしん)らが青ざめた顔を引き()らせ足速に横切っていった。


 様子を見ようとアイリを追い抜きノーブル国元騎士団長のリクハルド・ラハナトスと第3女騎士ヘルカ・ホスティラが歩きだそうとすると家臣(かしん)らの歩いてきた廊下からイルミ・ランタサルが横切ってきて少女が口走った。

「げげぇ」


 王妃(おうひ)が立ち止まり横へ顔を振り向けると腕を振り上げ慌てた様に足を止めたラハナトスとホスティラがアイリの横へ後退(あとず)さった。


「こんなとこで何を油売っているの!?」


 問いただし眉を吊り上げたイルミ・ランタサルが身体をアイリらへ向けると、いきなりのラハナトスとホスティラは少女の肩をつかみ前に押し出した。

 アイリ・ライハラはイルミ・ランタサルが右手にぶら下げ持っているものを眼にして(あご)を落とした。



 血糊(ちのり)たっぷりの打撃武器をぶら下げている。



 少女は家臣(かしん)らが逃げて行った理由を思い浮かべつまらぬ事を口にして後悔した。

 こ、こいつ、俺とやり合う、つ、つもりか!?

「お、俺とぉやる気かぁ、くるんくるん!?」

 イルミ・ランタサル王妃(おうひ)が右手の武器を振り回し打撃球の付け根を左手のひらにぱん(・・)と乗せ言いつけをサボっている少女を細めた眼で(にら)んだ。

 王妃(おうひ)星球武器(モーニングスター)をパンと左手のひらで踊らせると苦笑いを浮かべたアイリが後退(あとず)さろうとした。

 背中を元騎士団長と女騎士に押された少女は青ざめて顔にだらだらと冷や汗を流し始めた。



 ぶん!



 いきなり王妃(おうひ)が打撃武器を振り上げ前床へ叩きつけた。

 どがぁ! 石畳が砕け散りアイリ・ライハラは腕を振り上げ顔を引き()らせ(つぶや)いた。



「ま、マジじゃん────」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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