第12話 鍋(なべ)や薬缶(やかん)

文字数 1,309文字

 やけになって振り回した長剣(ロングソード)が砂を舞い上げアイリ・ライハラを中心に竜巻が起きると周囲にいるもの達がパニックになった。

 女騎士ヘルカ・ホスティラと女剣士テレーゼ・マカイが押さえ込もうとして弾き飛ばされた。他の騎士や兵士が束になり押さえ込もうとしたがこれも飛ばされた。

「くそう────敵が大挙して向かって来てるというのに──」

 ヘルカが立ち上がりながら吐き捨てた。

「あいつを止めないと我々はイルブイの蛮族の餌食だぞ」

 テレーゼ・マカイが(ソード)(スキャバード)を地面に突いて立ち上がった。

 プッツンこいたアイリ・ライハラはぶんぶんと(ソード)を振り回し続けそれでも止めに入ろうとする兵士を飛ばし続け、離れたところで簀巻(すま)きのアーウェルサ・パイトニサム()の魔女のキルシは芋虫(いもむし)のようにしゃくって逃げようとしていた。


「お前らはどいつもこいつも! くそったれなぁ、身勝手でぇ!」


 (わめ)きながら暴れるのをやめない騎士団長に誰も近づけられmんないでいるとヘルカ・ホスティラが落ちている(ランス)を拾い上げ(わき)に抱きかかえ構え言い切った。

「仕方ない」

「え?」

 女剣士テレーゼ・マカイが眼を点にした矢先、筋力にもの言わせ(ランス)を振り回しながら女騎士はアイリ・ライハラに詰め寄った。

 ガキン、と騎士団長が振り回す長剣(ロングソード)がヘルカ・ホスティラの胸当(ブレスト・プレート)に命中すると女騎士は顔真っ赤にして怒鳴った。

「き、貴様ぁ!? (われ)の胸に、豊満な胸に、八つ当たりするかぁ!?」

 カス、と女騎士が振り回した(ランス)がアイリ・ライハラの胸当(ブレスト・プレート)(かす)った。

「くっ! わざと胸当(ブレスト・プレート)()ったなぁ! 胸が劣ると()ったなぁ!」

 アイリ・ライハラは怒りにまかせヘルカの方へぶんぶんと長剣(ロングソード)を振り回した。

 ドン、と飛んできた(ブレード)胸当(ブレスト・プレート)に引っかかった。

「き、貴様ぁ! そんなに我が胸に嫉妬(しっと)するかぁ!」

 ぐるんぐるんに振り回した女騎士の(ランス)がまたちょんとアイリ・ライハラの胸当(ブレスト・プレート)(かす)った。

「だぁ! そんなに俺が貧乳だと言いたいんだな!」

 呆れ果てたテレーゼ・マカイが止めに近づくと2人の(ソード)(ランス)が同時に胸当(ブレスト・プレート)に当たり女剣士は尻餅をついてしまった。

「き、貴様らぁ! 当てこすりかぁ! 胸の大きさで負けるとぉ──!」

 怒鳴りつける女剣士を無視してアイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラは互いに向かって競い合うように長剣(ロングソード)(ランス)を振り回し続けた。

(われ)の方が大きい────うげっ!」

 立ち上がって主張するテレーゼ・マカイの胸に長剣(ロングソード)(ランス)刃口(ポイント/きっさき)が同時にぶつかり女剣士はまた尻餅をついた。

「俺はなぁ、俺はなぁ、この大人になった体格で何が気に入らないと言うとなぁ────」

 ふん、と女騎士と女剣士が鼻で笑った寸秒、アイリ・ライハラは眉間に青筋を浮かべ唇をひん曲げ呪いを吐き捨てた。

「ゆ、ゆるさん! 2人とも切り刻んでぽろりとさせるぅ!」


 3人の呪い合戦に他の騎士や兵士らがもう止めるに失したと高みの見物を始めた。


 唖然と見つめるイルブイ国の魔導師の元へ(なわ)ぐるぐる巻きの()の魔女のキルシがたどり着き懇願(こんがん)した。

「す、すみません。ほどいてくれたら手助けいたします」



 そのどうしようもない有り様を眼にしてアイリ・ライハラの父クラウスは呆れ果て(つぶや)いた。


「こ──こいつら────くだらない」





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み