第19話 恋の鞘(さや)放り出し

文字数 2,202文字


 夜に(やかた)から追い出すのも可哀想だとホンラッド公爵の息子アフレッド・ホンラッド追放は明朝にした。

 首を()ねられた公爵を敷地の墓地に埋葬するのも夜が明けてからとなった。騎士は交代でアフレッドを見張ることになりアイリ・ライハラは甲冑(アーマー)を脱いで持ってきた軽装で居間でくつろごうとして落ち着かなくなった。

 1年前にくるんくるんや自分に言い寄っていた男の扱いとしては酷だと思いヘルカ・ホスティラの付き合う相手探しを思いだした。

「騎士団長、呪いは解けるのでしょうか?」

 反対のソファに座るユハナが(たず)ねるとアイリは困り顔になった。

「うん、無理だろうな。ウルマス国王のチョーカーは外せることができても国民全員の暗示は解きようがないじゃん。御布令(おふれ)でも出して魔女のことを禁句にするぐらいかな? ところでなぁ────」

「はい、なんでしょう」

「ヘルカ・ホスティラは男の眼で見てどう思う?」

「はぁ? ヘルカをですか────」

 ユハナが困った表情で考え込んだ。

「お前、つまるなよ。大事なことだよ」

 頭後ろをかきながらユハナが応えた。

「騎士団長、怒らないでください。女として見たことがないです」

 何か言いかけてアイリが口を(つぐ)んだのでユハナはまずいことを言ったのかと(あせ)った。

「ヘルカがどうかしたのですか」

 アイリが答えずに腕組みして眼を寄せたのでユハナはやっぱりまずいことを言ったと気が動転した。

「いやな、あいつに男とつき合わせたらもっと物腰がやわらなくなるかと────」

「嫌です。(われ)はつき合いたくありません」

 キッパリと断られアイリは困り顔になった。

「誰か──いないかな?」

 そんな物好きがいるわけないじゃないかと第2騎士は思った。誰かを言えばそいつから(うら)まれる。

 ヘルカは決して魅力がないわけでなく、何かというと騎士道を持ちだしてくる頭のかたさが困るのだ。それに上背があり騎士団の中では1番背が高い。おまけに腕力自慢ときたら誰が好んでつきあうものかとユハナは思った。

「よ、ヨーナス・オヤラなどいかがと。彼ならリディリィ・リオガ王立騎士団にも日が浅く、ヘルカ・ホスティラによけいな思い入れもないかと」

 ヨーナス・オヤラはアイリはよく知っていた。北国デアチへ初めて攻め入った時には若いながらよく活躍して────そこまで思いだしたアイリは震えが走った。

 ヘルカ・ホスティラが国王の首を()ねたときに彼は肩に(ソード)突き刺さったヘルカ・ホスティラが平気な顔でいたのを見ている。

 さすがにヨーナスでは無理が────とアイリが思った矢先にユハナ・マルカマキがしきりに(すす)めだした。

「彼ならヘルカ・ホスティラが姉さん女房(にょうぼ)となりよく面倒みてくれるでしょう──」

「ユハナ、お前、自分じゃなきゃあ誰でもいいんじゃないのか」

 続けて何か言おうとした第2騎士がアイリに図星をさされて眼を点にして口をすぼめた。

「ヨーナスは第23位だったよな。したっぱ団員だから確かにヘルカ・ホスティラと親交も浅いし。おいトゥーレ、ヨーナスが討伐(とうばつ)隊の一員で一緒に来てたよな。呼んできてくれ」

 離れた椅子に腰掛け成り行きを聞いていた第7騎士のトゥーレが腰を上げて部屋を後にした。

 しばらくしてがちゃがちゃと鉄靴(サバトン)をうるさく言わせて誰かが走ってくるとノックもなく居間の扉を開いた。

 呼びつけたヨーナス・オヤラだった。

「嫌です! お断りします!」

 アイリは唖然となり何も言えずにいるとユハナ・マルカマキが代弁した。

「ヨーナス、まあここに来て話を聞け。ことはそれからだ」

 第23位騎士がユハナのそばに来て突っ立った。

「まあ、俺の横に座れ。騎士団長から直々にお話になられる。すべてを聞いてから意見を述べよ」

 ヨーナスが腰を下ろすとアイリが口を開いた。

「ヨーナス、お前第23位だったよな。今年で幾つだ?」

(くらい)は関係ありません。18歳です」

 ヘルカ・ホスティラは今年21になったばかりだ。3歳違いならいけるかとアイリは思った。

「ヘルカ・ホスティラが年頃(としごろ)なので付き合う相手探しをしている。お前も知っての通りヘルカは臨時のリディリィ・リオガ王立騎士団とデアチの剣竜騎士団の臨時騎士団長も勤めた。その功績に応えるため良き交際相手をだな────」

 ヨーナスが落ち着きなさげにもじもじしてるのでアイリは(たず)ねた。

「トイレか?」

「違います。つき合ってる人がいるんです。侍女(じじょ)のユーリアと交際してます。二股(ふたまた)は教会の教えに反します」

 あぁ、交際中かとアイリは肩を落とした。それに意思も堅そうなので別なことを頼むことにした。

「ヨーナス、それじゃあお前、恋のキューピットやれ。ユハナ・マルカマキが付き合いたいとヘルカ・ホスティラに伝えろ」


「ちょっと待ったぁああ! 嫌ですと言いましたよね」


 ユハナ・マルカマキが(かたく)なに拒むのでアイリは懐柔(かいじゅう)に出た。

「ユハナ、お前は運がいいぞ。直接申し入れて肩すかしを食らい恥をかかなくてすむんだ。それに騎士団長直々のたのみだ────お前、拒むのか?」

 青ざめた第2騎士に決まりだとアイリ・ライハラは一安心した。





 デアチ国のファントマ城で王妃(おうひ)の警固につくヘルカ・ホスティラは今夜はやけにくしゃみが出ると鼻をすすった。

 銀眼の魔女を討伐(とうばつ)するにあたり氷の城に長居し過ぎたとヘルカは思った。

 しかしなぜに南に背を向けると寒気がするんだ。

 よもや国王の身になにかあったのかと見当違いな心配をする女21歳だった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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