第22話 呪詛(じゅそ)

文字数 1,711文字


 いきなり見えた天使にクラウス・ライハラは肝をつぶし椅子から滑り落ちた。

「お、お前ぇ、どうして天使と親しげに話せるんだ!?」


「ああ、こいつ?」

 アイリは腕振り上げ天使を指さした。

「イラ・ヤルヴァ──マブダチだよ」

 父は娘が天使に暴言吐いて天罰が下ると恐れたが、イラ・ヤルヴァはクラウスに両腕広げ微笑んだ。


 いきなりアイリ・ライハラは作りかけの(シールド)をイラ・ヤルヴァに向け投げつけそれが天使を素通りした。


「くそう、立場を笠に着やがって。いつかぎゃふんと言わせてやるぞ────」

────やってご覧なさい。天罰でやり返すから。

「やってみろよ。神に堕天使だと言いつけてやるから。で、銀眼の魔女の呪いを解く方法は?」

────神頼み。

「おう、ちょっと下りてこいや。殴ってやろか」

 クラウスは娘の暴言にあたふたして椅子にしがみついて止めに入った。

「国民の呪いとは何だ!?」

「え、知らんの? 魔女の名──ミエリッキ・キルシか、通り名──銀眼の魔女と言うだけでぽっくり()くんだ」

 クラウスは驚いて娘をじっと見つめた。

「あいつを1度倒してるからなんともないんだ。でも呪いじゃなくただの暗示だとイラは言ってるので魔女を公開処刑にできれば呪いも解けるのに」

 悔しがるアイリに父親がたしなめた。

「アイリ、たとえ魔女であっても処刑されるいわれはないよ」

「いや、魔女によりけりだったよ。妹のミルヤミ・キルシは根がいいやつだったけど姉は最悪だった。嬉々(きき)として人を殺しにくる」

────御師匠さま、なぜあなたが呪われないかわかります?

 アイリは振り向いて半堕天使を(にら)みあげた。

「あん? 倒したからに決まってんだろうが」

────違うのです。あなたがミエリッキ・キルシを乗り越えたからです。表の魔女のエネルギーに打ち勝ったからです。

 その違いがわからんとアイリは鼻筋に(しわ)を刻み唇をねじ曲げた。

────呪われるか呪われないかは力のやり取りで勝てないか勝てるかなんですよ。

 ちょっとわかりかけたとアイリはぽかんとイラ・ヤルヴァを見つめた。

────生命力の競い合いだけでなく、呪われるものが呪うものを知ってしまうと呪い自体をうまくかけられなくなります。

「そうだ! 自分はあの魔女と真剣勝負したから誰よりもあれのことを知ってしまったのだ。名前も通り名も知ってしまい呪われなくなったのだ。ただの噂話(うわさばなし)をするのと違う!」

 興味本位であれ(・・)の話をしたやつを銀眼の魔女は標的にして殺すことで恐怖を広めようとしたんだとアイリは()に落ちた。

────そうです。銀眼の魔女は恐怖を広めたいんです。その呪いを打ち払うにはあの女のことを本当に知る必要があるんです。

 イルミや、ヘルカ・ホスティラ、それにテレーゼ・マカイが呪い殺されなかったのは(みな)あの魔女を()の当たりにして乗り越えようとしたからに他ならない。

「呪いは掛ける側と掛けられる側の生命力のぶつけ合いだ。掛けられる側が掛ける側を知らないといいように手足をねじ上げられてしまうだろアイリ」

 クラウス・ライハラに言われるアイリは完全に理解した。なんだかあと少しで国民(みな)の呪いが解けそうな気がしてきた。

 ふとアイリは以前から思っていた疑念が()き上がったので父に(たず)ねた。

「おい、親父(おやじ)、二刀流の剣士でありながら魔導師(ウォーロック)というのは本当かぁ?」

「さあ────しらん──うおっ!」

 アイリが投げつけた蹄鉄(ていてつ)親父(おやじ)(かわ)し背後の壁に命中し大きな音を立てた。

 魔導師(ウォーロック)なら呪いにも詳しいかもしれないと思ったのが間違いだったが、身のこなしは尋常(じんじょう)じゃなかった。

 アイリは壁に立て掛けてある(ソード)の並びにゆき1番長い(ソード)(つか)みあげ親父へと振り向いた。クラウスの(そば)には鍛冶道具ばかりで防具も武器もない。

 少女は軽くステップ刻み父親へと(やいば)振り上げ迫った。

 寸止めなんてするつもりはなかった。

 親父(おやじ)はきっと(かわ)す。そう確信した瞬間、アイリ・ライハラは父親へ(ソード)を振り切った。

 ギャンと金属が響きその振動にアイリは(ソード)を落としそうになった。



 クラウス・ライハラは娘の(ブレード)(やっとこ)1つで挟み受けとめた。



 アイリ・ライハラは(ソード)投げ捨て怒鳴った。

「てめぇ! やっぱり二刀流の魔導師(ウォーロック)って本当だったんだな!!!」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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