第12話 理非曲直

文字数 1,645文字

「殺すな! すぐに生き返る! 気絶させるんだ!!」

 アイリの前にいるカローン2人にヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイが()り込んでアイリが助言するとそこに他のカローンら6人が(むら)がった。

 仕方なくアイリは女騎士とテレーゼに(むら)がる苦悩の河(アケローン)河守(かわもり)の後頭部を(ソード)(フラー)(向かい合った(やいば)の中央平らな部分)でぶった(たた)いた。

 カローンの頭は岩のように(かた)(たた)いた3人の(ソード)(ブレード)がぶよんぶよん震えてハンドル握る両手が(しび)れまくったが1人卒倒させる都度に斬り合いにも見える殴り合いは段だんとアイリらが優勢になった。

 6人倒しそれでもアイリらの前に立ちはだかるカローンの意地は煉獄(れんごく)河守(かわもり)矜持(きょうじ)だった。

 アイリ・ライハラはあることが(ひらめ)き残ったどちらか片方のカローンを説得にかかった。

「カローン、よく聞け! 今、現世では銀眼の魔女という奴がいて、死地へ向かうはずの多くのものを奴隷にして王国を築こうとしてるんだ! 見逃せないよな!?」

 2人のカローンが上げた(こぶし)をさげ、アイリに詰め寄った。

「その話、詳しく──聞こうじゃないか!」

 食いついた! アイリ・ライハラは笑いそうになるのを懸命にこらえた。





 長い白髪を踊らせて振り込む2振り(ふたふり)の氷の(やいば)へノッチはまず大剣(クレイモア)(ブレード)として研がれていないクロスガード付近の付け根のリカッソで最初の1撃を受けクロスガードで滑り止め、ノッチは手首(ひね)刃口(きっさき)近くの(ブレード)で次の一振り合わせ受けた。

 剣戟(けんげき)素人(しろうと)のイルミ・ランタサルにはただ一撃で魔女の2振り(ふたふり)の氷の(ソード)を受けたようにしか見えない瞬撃だった。

 銀眼の魔女は食い止められた氷の(ソード)を引き()がし(からだ)スピンさせ今度は逆の太刀筋(たちすじ)2振り(ふたふり)をノッチに浴びせた。

 何度太刀筋(たちすじ)を変えようが2振り(ふたふり)を別々な軌道で浴びせようが天上界で剣王のノッチは遊びに等しかった。

 だが今、ここでルースクース・パイトニサム──銀眼の魔女を()ち取るわけにはゆかない。

 魔女に捕らわれの身となった同族を解放する手だてを吐かせる必要があったからだ。

 アイリ・ライハラの亭主の活躍にイルミ・ランタサルは胸を躍らせたが、決定打を出せないでいるのに(ソード)の手なみが立ち並ぶからだと思い込んだ。

 きっと落とし穴に捕らわれたアイリらの身を心配して全力出せないでいると考えた。

 王妃(おうひ)は氷の廊下に開いた落とし穴へ身を乗り出し大声で呼びかけた。

「アイリ! ヘルカ! テレーゼ!」

 声がで木霊(こだま)が幾重にも響くばかりで返事なくイルミ・ランタサルは底がかなり深いことだけは理解したが、それが王妃(おうひ)を不安にさせた。

 きっと深さは城の斜塔ほどの高さかもしれず、3人が無事でいるはずがなかった。

 何とか助け出したいが魔女の無限回廊の部屋にはシーツすらない。あったとしても引き裂いて結び(つな)いでも到底(とうてい)届きそうになかった。



 ノッチは落とし穴の底へ向けて叫ぶ王妃(おうひ)の声が耳に届いていた。

 魔女の落とし穴が並みの深さでないことを王妃(おうひ)はすでに気づいているはずだ。

 底に(たた)きつけられすでにアイリら3人は死んでしまったはずだが、アイリは冥界の苦悩の河(アケローン)さえ渡らなければ(われ)との結びつきの恩恵(おんけい)で現世に戻れるはずだった。

 だが王妃(おうひ)の呼びかけに返事ないところをみるとまだ引き返してない可能性があった。

 仮に戻れても飛ぶ力を持たぬアイリは穴底から出る術がなかった。

 魔女を追い払いさえすれば(われ)が飛んで助けることもできるのだがとノッチは氷の(ソード)振り回してくる銀盤の魔女に辟易(へきえき)していた。





 この青髪の男はなんなのだ!?

 長剣(ロングソード)の倍近くある大剣(クレイモア)をナイフのように軽々と扱う。

 同じ青髪の小娘も異様な速さを見せたが、この青髪の男は速さだけでなく剣技(けんぎ)にも恐ろしく(ひい)でている。

 勇者クラスの冒険者らと何度も渡り合ったがこれほどの手合いはこれまでにいなかった。

 自然界のあらゆる力の(ことわり)(とら)われぬ(われ)に対等に(ソード)を振り回してくる。



 銀眼の魔女ミエリッキ・キルシは気持ち高鳴るのを抑えきれずにいた。



 こ(やつ)になら天使2柱を捕らえることに使った奥義を見せるに足るのかもしれぬと銀眼の魔女は決意した。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み