第21話 狼族(ライカン)

文字数 1,521文字





 牙と爪で怒涛(どとう)のごとく襲いかかる狼族(ライカン)

 初撃から力のすべてを出し切りアイリ・ライハラは長剣(ロングソード)を振り回した。刹那(せつな)五匹の顔を(たた)()り少女は倒れる前の狼男の(ひざ)に駆け上がり肩を乗り越えるとその後ろに連なる四匹に()りつけた。その少女の腕を身体を頭を切り裂こうと狼男らは腕を振り回した。

 狼族(ライカン)は魔物の中でも手強いと闘いながらアイリは思った。

 数で圧倒されているからではない。個々の力が並外れているからだ。

 少女は狼男の顔を蹴りつけその頭頂部に(ブレード)を突き立て斜め後ろの怪物の両肩に飛び乗りその左右の狼男の顔を()り裂いた。

 怪物らの肩や頭を次々に飛び移る人間の小娘をとらえきれず狼族(ライカン)はきりきり舞いし右往左往した。

「12! あと27!」

 怪物らの間にアイリは飛び下り雷撃のように(ブレード)を振り抜き一気に五匹の胴体を両断した。

 息を抑え上下左右に身体を(ひね)り駆け立ち止まる少女を狼族(ライカン)のどれもが噛みつくどころか、爪にかけることもできず手足どころか胴や首を()られ倒れた。

 この殺戮(さつりく)に意味はあるのか!?

 アイリ・ライハラは血飛沫(ちしぶき)吹き出し(ひざ)を落とす魔物らに情を挟んだ。

 貴様らが人を食い物にする理由は貴様らにあるのだろう────。

 だが、おまえらが人を支配し(にえ)にすることをわたしは受け入れられない。

 叫び声を上げ少女騎士はさらに加速し狼男どもを血祭に上げ始めた。

 その光景に狼族(ライカン)として人の名を持つ
統括官(とうかつかん)ヴィヒトリ・ラウタヴァは暴れまわる人の小娘を喰い殺そうと一気に詰め寄った。



 背筋に凄まじい怒気を感じたアイリ・ライハラは急激にステップ踏み換え青髪を(きら)めきさせ振り向いて(ブレード)でその白狼(はくろう)の大きな爪を受けとめた。



 衝撃に壁にまで飛ばされた少女は床に滑り落ちた。

「つよ────い──嫌になるくらい────に」

 口角の端から流れる青い血を左手の甲で(ぬぐ)ったアイリが顔を上げると狼男の群れが足を踏みだしてきた。

 その(あい)を押し分け白狼(はくろう)が出てくるとアイリの顔の横の壁に片腕の爪を食い込ませ大きく陥没させた。

「最後の願いを聞いてやる。どこから喰われたい」

 そう狼族(ライカン)の長老に問われ少女は鼻で笑った。

「どこを剥製(はくせい)にされたい!?」

 怒りに打ち振るえ統括官(とうかつかん)は劣勢をまるで理解してないのか、恐れから開き直っている小娘を噛み殺そうと踏みだした。


 寸秒、狼族(ライカン)(おさ)の頭頂部に激突した(ブレード)が甲高い音を放ち激しく打ち震えた。


「な、なんだぁお前の頭の硬さは!?」


 狼族(ライカン)(おさ)と変わらぬ背丈のヘルカ・ホスティラが長剣(ロングソード)(ブレード)をヴィヒトリ・ラウタヴァの頭に打ちつけ腕震わせ固まっていた。

 その女騎士と眼が合いアイリ・ライハラは鼻筋に(しわ)を刻んだ。

 その大柄の女騎士ですら狼族(ライカン)の振り回した腕の一撃で部屋の反対側まで飛ばされた。

 ヴィヒトリ・ラウタヴァが顔を振り戻し顔を(こわ)ばらせた。



 立ち上がった少女が青髪を揺すり長剣(ロングソード)血糊(ちのり)を振り切った。



「お前らの相手は俺だろうがぁ」

 そう言い放つアイリ・ライハラに狼族(ライカン)(おさ)は激しい息づかいで両腕を交互に振るった。その大爪を少女は(ブレード)の連打で打ち返すと三撃目が狼の鼻面を(かす)統括官(とうかつかん)は身を反らした。

 その大型の獣に見合わぬ身の動きにアイリはさらに踏み込みふと気づいた。

 他の狼男どもが襲ってこない!?

 踏みだした少女に誘われるように数匹の獣が前に出ようとして狼族(ライカン)(おさ)(うな)り声に足を止めた。

 そうか──アイリ・ライハラは眼を座らせ魔物の統括官(とうかつかん)(にら)み据えた。

 長剣(ロングソード)(ブレード)を弧を描き振り下ろす。

 この魔物は間合いに踏み込みながら斜めに振り上げると爪を弾き逸らし顔を縦に両断できることを少女は前にたおした統括官(とうかつかん)でわかっていた。



 (うな)り声を発し踏み込んでくる身の丈で三倍近い狼男へアイリ・ライハラは稲妻の(ごと)き速さで踏み込んだ。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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