牙と爪で
怒涛のごとく襲いかかる
狼族。
初撃から力のすべてを出し切りアイリ・ライハラは
長剣を振り回した。
刹那五匹の顔を
叩き
斬り少女は倒れる前の狼男の
膝に駆け上がり肩を乗り越えるとその後ろに連なる四匹に
斬りつけた。その少女の腕を身体を頭を切り裂こうと狼男らは腕を振り回した。
狼族は魔物の中でも手強いと闘いながらアイリは思った。
数で圧倒されているからではない。個々の力が並外れているからだ。
少女は狼男の顔を蹴りつけその頭頂部に
刃を突き立て斜め後ろの怪物の両肩に飛び乗りその左右の狼男の顔を
斬り裂いた。
怪物らの肩や頭を次々に飛び移る人間の小娘をとらえきれず
狼族はきりきり舞いし右往左往した。
「12! あと27!」
怪物らの間にアイリは飛び下り雷撃のように
刃を振り抜き一気に五匹の胴体を両断した。
息を抑え上下左右に身体を
捻り駆け立ち止まる少女を
狼族のどれもが噛みつくどころか、爪にかけることもできず手足どころか胴や首を
斬られ倒れた。
この
殺戮に意味はあるのか!?
アイリ・ライハラは
血飛沫吹き出し
膝を落とす魔物らに情を挟んだ。
貴様らが人を食い物にする理由は貴様らにあるのだろう────。
だが、おまえらが人を支配し
贄にすることをわたしは受け入れられない。
叫び声を上げ少女騎士はさらに加速し狼男どもを血祭に上げ始めた。
その光景に
狼族として人の名を持つ
統括官ヴィヒトリ・ラウタヴァは暴れまわる人の小娘を喰い殺そうと一気に詰め寄った。
背筋に凄まじい怒気を感じたアイリ・ライハラは急激にステップ踏み換え青髪を
煌めきさせ振り向いて
刃でその
白狼の大きな爪を受けとめた。
衝撃に壁にまで飛ばされた少女は床に滑り落ちた。
「つよ────い──嫌になるくらい────に」
口角の端から流れる青い血を左手の甲で
拭ったアイリが顔を上げると狼男の群れが足を踏みだしてきた。
その
間を押し分け
白狼が出てくるとアイリの顔の横の壁に片腕の爪を食い込ませ大きく陥没させた。
「最後の願いを聞いてやる。どこから喰われたい」
そう
狼族の長老に問われ少女は鼻で笑った。
「どこを
剥製にされたい!?」
怒りに打ち振るえ
統括官は劣勢をまるで理解してないのか、恐れから開き直っている小娘を噛み殺そうと踏みだした。
寸秒、
狼族の
長の頭頂部に激突した
刃が甲高い音を放ち激しく打ち震えた。
「な、なんだぁお前の頭の硬さは!?」
狼族の
長と変わらぬ背丈のヘルカ・ホスティラが
長剣の
刃をヴィヒトリ・ラウタヴァの頭に打ちつけ腕震わせ固まっていた。
その女騎士と眼が合いアイリ・ライハラは鼻筋に
皺を刻んだ。
その大柄の女騎士ですら
狼族の振り回した腕の一撃で部屋の反対側まで飛ばされた。
ヴィヒトリ・ラウタヴァが顔を振り戻し顔を
強ばらせた。
立ち上がった少女が青髪を揺すり
長剣の
血糊を振り切った。
「お前らの相手は俺だろうがぁ」
そう言い放つアイリ・ライハラに
狼族の
長は激しい息づかいで両腕を交互に振るった。その大爪を少女は
刃の連打で打ち返すと三撃目が狼の鼻面を
掠り
統括官は身を反らした。
その大型の獣に見合わぬ身の動きにアイリはさらに踏み込みふと気づいた。
他の狼男どもが襲ってこない!?
踏みだした少女に誘われるように数匹の獣が前に出ようとして
狼族の
長の
唸り声に足を止めた。
そうか──アイリ・ライハラは眼を座らせ魔物の
統括官を
睨み据えた。
長剣の
刃を弧を描き振り下ろす。
この魔物は間合いに踏み込みながら斜めに振り上げると爪を弾き逸らし顔を縦に両断できることを少女は前にたおした
統括官でわかっていた。
唸り声を発し踏み込んでくる身の丈で三倍近い狼男へアイリ・ライハラは稲妻の
如き速さで踏み込んだ。