第14話 不運

文字数 1,946文字


 28階層には拍子抜けするような魔物しかいなかったが坑道から29階層に下りるのを(みな)躊躇(ちゅうちょ)していた。

「アイリ・ライハラ今度は何だ?」

「ええ? あれだよ。魔物」

「貴君は殴られたいのか? よく考えて答えなさい」

 アイリ・ライハラに握り(こぶし)を見せるヘルカ・ホスティラだった。

「は────あぁ、グローツラング。目ん玉に宝石入ってる大蛇だけど。顔合わせたら不幸な目に合うんだ」

「えぇ~!」

 数人の騎士が裏返った声で怯えた。

「アイリ、不幸って何だ?」

「ええ? あれだよ()けて顔面を石にぶつけて後頭部に岩が落ちてくる──とか」

「アイリ、貴君がそうなったのか?」

「うんにゃ、うちの親父」

 思わずヘルカ・ホスティラはため息をこぼしアイリに問いかけた。

「──倒したら不幸はなくなるんじゃないのか」

「わからん。倒した事ないから」

「えぇ~~!」

 数人の騎士が裏返った声で怯えた。

「少人数で斬り込んで被害を押さえるか」

 そうヘルカ・ホスティラが言い出すと騎士らは互いを押し合いへし合いし始めた。

「おいお前達、若手、中堅各2名選べ」

 ヘルカ・ホスティラに言われ騎士らは顔を見合わせた。何とか4名選ばれると前に立った。

「いいか、貴君達を捨て石にするつもりはない。被害はなければそれに越した事はないのだ。グローツラングを倒した後、全員で保護して無事に切り抜ける。つまづいても倒させない」

 ヘルカ・ホスティラの饒舌(じょうぜつ)な言い回しにアイリ・ライハラはポカンと口を開いて聞き入った。

「よし! 行ってこい!」

 4名の騎士が送り出されると洞窟(どうくつ)内で威勢の良いかけ声や啖呵(たんか)が聞こえ(ソード)がぶつかる音が聞こえ次々に悲鳴や(うめ)き声に取って代わった。

 静かになったのでヘルカ・ホスティラは坑道から大声で様子を確かめた。

「お──い、大丈夫かぁ?」

「ダメです! 4人ともひっくり返されました!」

「起き上がってまだ戦えないかぁ?」

「む、無理です! 3人は気絶してます!」

 それ見たことかとアイリ・ライハラが振り向いてヘルカ・ホスティラを見つめた。

「おいお前達、若手、中堅各2名選べ」

 騎士は互いに押しだそうと押しくらまんじゅうを始めたが、何とか4名が選ばれるとヘルカ・ホスティラが激励(げきれい)した。

「いいか、貴君達を捨て石にするつもりはない。被害はなければそれに越した事はないのだが4人の内3人が気絶してはグローツラングを倒せない。魔物を倒した後、全員で保護して無事に切り抜ける。つまづいても倒させない。用心してかかれ! 行けぃ!」

 4人の騎士が坑道から洞窟(どうくつ)(おど)り出た。洞窟(どうくつ)内で威勢の良いかけ声や啖呵(たんか)が聞こえ(ソード)がぶつかる音が聞こえ次々に悲鳴や(うめ)き声に取って代わったのでヘルカ・ホスティラが声をかけた。

「お──い、大丈夫かぁ?」

「ダメです! 後援の4人ともひっくり返されました!」

「起き上がってまだ戦えないかぁ?」

「む、無理です! 4人とも気絶してます!」

 それ見たことかとアイリ・ライハラが振り向いてヘルカ・ホスティラを見つめたので彼女は(みな)を激励した。

「仕方ない! (みな)で一斉にかかるぞ!」

 そう告げヘルカ・ホスティラは(ソード)を引き抜いた。他の騎士らも(ソード)を引き抜く中アイリ・ライハラだけが(ソード)に手をかけなかった。

「行け!」

 騎士ら10人が洞窟(どうくつ)に躍り出た。腐っても騎士。我先にと大蛇へ()りかかると次々に足を滑らせて転んだり石に(つまづ)いてひっくり返ると気絶した騎士を踏み越えてヘルカ・ホスティラが()りかかった。だが勇猛果敢(ゆうもうかかん)に躍り出たヘルカ・ホスティラも騎士の足に(つまづ)きうつ伏せに倒れて顔を打ちつけた。

 1人残ったアイリ・ライハラは大蛇に顔を合わせない様に洞窟(どうくつ)内に入ると気を失った騎士1人の足と落ちてる(ソード)をつかみ30階層への坑道に引き()り込んだ。そうしてまた29階層に戻ると倒れた騎士の足をひっつかみ先の坑道へと()きづり込んだ。次々に気絶した騎士らを坑道へと移すと最後に大柄(おおがら)なヘルカ・ホスティラの両足をつかみ上げ引き()り始めうっかりグローツラングと眼が合った。

 すっぽんとつかんでいた足から鉄靴(サバトン)が脱げるとアイリ・ライハラはもんどり打って顔から石の上に倒れ込んだ。

 その固い音にヘルカ・ホスティラは気がつくと(うめ)き声を上げ起き上がった。彼女はなぜ自分の鉄靴(サバトン)が脱げているんだと拾い上げ、そばに鼻血出して倒れているアイリ・ライハラの首根っこを片手でつかみ上げて運び始めた。

 その時、ヘルカ・ホスティラは気づいた。

 初めから魔物に顔を合わせないとどおって事ない奴だったのだと。

 気を失ってつかみ上げられているアイリ・ライハラがまたグローツラングと顔を合わせると天井から落ちてきた岩石が後頭部に命中しヘルカ・ホスティラは騎士団長(きしだんつおう)を落っことした。顔を石にぶつけたアイリ・ライハラは派手に鼻血を吹き出させた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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