第18話 判決

文字数 1,797文字


「今から魔女嫌疑の()い改め。魔女裁判を行う!」

 その宣言にヘリヤ侍女(じじょ)長はアイリ・ライハラを(にら)み据えホンラッド公爵親子は落ち着きなく目を(およ)がせていた。

「弁護の機会を────弁護士をつけてくれないとどんな尋問にも応じない」

 目を落ちつきなく動かしていながら言うことは言うとアイリは鼻筋に(しわ)を刻み申し入れを受けた。

「ユハナ・マルカマキ──2人の弁護を。彼はリディリィ・リオガ王立騎士団の重鎮(じゅうちん)だ。先入観で眼が曇ることなく弁護をつとめる」

 ホンラッド公爵は顔なじみの騎士が弁護を(にな)うと知って安心しきって目が座ると侍女(じじょ)長ヘリヤが少女に罵声を浴びせた。

「アイリ・ライハラ! 呪われておしまい!」

 アイリは手のひらを振って言い返した。

「呪いはもういい。ゲップがでるよ」

 アイリは1枚の紙を取り出し侍女(じじょ)長の鼻先に近づけた。

「この紙を知ってるな」

「知らん!」

 ヘリヤはぷいと顔を逸らした。

貴女様(あなたさま)の机の上にありました」

 それを聞いてホンラッド公爵はあっさりとヘリヤを裏切った。

「この女がそそのかしてきたんだ。言うことを聞かないと真っ先に呪われると」

 アイリは眼を細めホンラッド公爵に(たず)ねた。

「ホンラッド公、貴方(あなた)が目が銀色の魔女に持ちかけられ城のものを陥れるためにヘリヤを巻き込みましたね」

「騎士団長、異議あり」

 アイリは手で指し示し弁護を促した。

「容疑と明確でない尋問は誘導尋問であり断定的な設問に反対します」

 誘導尋問だぁ!? そんなもんお子さまの俺が知るわけないじゃん。だがユハナがだめだと言うのでだめなのだろうとアイリは思った。

「質問を取り消す。それじゃあ銀色の目をした魔女に会ったか?」

 そう少女が問うとホンラッド公爵は息せき切ったように弁解し始めた。

「魔女に会ったのはこの女だ! こいつが何もかも手引きしたんだ!」

 だがアイリはそのことでレニタにすぐに問いただしたのは1つだった。

「レニタ──魔女に会ったのか?」

 侍女(じじょ)長は顔をそらしたまま黙秘したのでアイリが警告した。

「だんまりは自由だが、立場を悪くするぞ」

 それでも黙秘続けるのでアイリは別なことを問うた。

「そんなに俺のことが憎いならなぜ真っ先に俺に呪いをかけなかった?」

 その問いにレニタはゆっくりと顔を向けその面もちは不気味な笑みを浮かべていた。



「青よ────貴様は(われ)を追い立て殺すだろう。貴様1人呪ったところで気は済まぬ」



 まるで銀眼の魔女と話しているようだとアイリは困惑した。とり()かれているのか。それとも魔女本人なのか。いやイラ・ヤルヴァは侍女(じじょ)長がそそのかされていると言い切った。

 そもそも眼の前にいるこいつはレニタ侍女(じじょ)長とは限らない。

 魔女ならなんでもやってのけるだろう。容姿を変えてレニタになりすますことだって────。

 侍女(じじょ)長はそそのかされている。

 なりすましじゃない。

「操られてるな──お前────」

 アイリ・ライハラに言われ侍女(じじょ)長は(しば)られてる椅子をがたつかせた。

「聞け青よ────この憑り代(よりしろ)を生かすも殺すも我が────」

 いきなり椅子を立ち上がったアイリ・ライハラは侍女(じじょ)長の胸ぐらをつかみ椅子ごと引き上げると顔を近づけ言い放った。



「立ち去れ銀眼────死にぞこないがもう1度殺されたいか」



 レニタ侍女(じじょ)長の目の曇りが去るとアイリは歳嵩(としかさ)の女を下ろした。

(わたくし)は────!? ここはどこなのです!?」

 アイリは騎士の1人に命じてレニタの(なわ)を解かせた。

「さてホンラッド公爵、貴様は大枚を投じて呪いの紙を多量に印刷し(たみ)流布(るふ)したな」

 アイリ・ライハラは公爵に向かい言い捨てた。

「いえ────その女に────」

「言い渡す。資財はすべて没収の上貴様ら親子はノーブルから追放」

 押し殺した声でアイリ・ライハラが命じるとホンラッド公爵の態度が豹変した。

「財産を没収だと────させぬぞ────小娘がつけあがりやがって」

 アイリはゆっくりと長剣(ロングソード)を引き抜いて脅した。

「親子そろってこの台所で首を()ねられる方がいいんだな」


「くそう──くそう、くそう、くそう、貴様ら騎士団もウルマス国王もろとも(ほふ)って────」


 いきなりユハナ・マルカマキが(ソード)引き抜きホンラッド公爵の首を()り落とした。

「ふざけるな」

 公爵の息子の首も()ねようとする第2騎士をアイリは羽交い目にして押し止めると(しば)られたアフレッド・ホンラッドは震え始め泣き出した。


「だから────やめろと────」




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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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