第14話 騒がしい夜

文字数 1,760文字


 北東のイウネ族の1つ手前の集落に到着したのは陽が落ちてかなりたってからだった。

 4人が借りられたのは馬屋に繋がる納屋だった。寝るのはベッドなどなく、積み上げられた(わら)に雑魚寝するしかなかった。

王妃(おうひ)様、このような宿しか(あつら)えず申し訳ございません」

 ヘルカ・ホスティラが頭下げるのは王家に(つか)える騎士という立場からだったが、アイリが(さら)われてからというものイルミ・ランタサルの口数がめっきり減っていたからの気遣いもあった。

「いえ、構いません。屋根があり風に(さら)されずに寝られるのでしたら上等です」

 すまなそうな顔でヘルカはテレーゼへ視線向けると剣士は(わら)の山に(ソード)を突き立て始めたのでヘルカも加わり伏兵を探りながらテレーゼに(たず)ねた。

「テレーゼ、今夜は交代で歩哨(ほしょう)につこう。いいか?」

「どうして聞く? 貴公はデアチを属国にしたノーブルの騎士団の上位騎士だぞ。命じればいいだけだ」

 (ソード)を仕舞ながら顔も向けずにテレーゼが告げた。

「貴殿はすでに剣竜騎士団に所属しておらず、1剣士として(たず)ねたのだ。(さっ)してくれ」

 そうヘルカが説明するとテレーゼがため息をついたのでヘルカが理由を(たず)ねた。

「なぜ気遣いにため息で返す?」

「堅苦しい。アイリ・ライハラはもっとざっくばらんとしてるぞ。貴公を取りまとめる騎士団長じゃないか。そんなことより食事の準備に────」

 はぜる音に2人が振り向くとノッチがレンガをかき集め即席の囲炉裏(いろり)作り火を起こしていた。

 こいつも腹の中がわからんとヘルカが見つめているとイルミ・ランタサルがヘルカとテレーゼを呼んだ。

 何を言われるのかとヘルカはテレーゼと(わら)に腰掛けた王妃(おうひ)の前に片膝(かたひざ)着いた。

「襲ってきた銀盤の魔女はあなた方も経験したように妖術だけでなく(ソード)の腕前も恐ろしいレヴェルです」

 ああ、このままねちねちといぢられるのだとヘルカは気が滅入ったが、王妃(おうひ)の話はまったく違う方へと
突っ走り始めた。

「いいですか、アイリも含めたあなた方が四方を固める中、あの魔女は飛んで来たのでもないのに()いた馬にいきなり立ち上がりました」

 そうなのだ。姿でも消して近づいたのかとヘルカは思いそのままをイルミ・ランタサルに意見した。

王妃(おうひ)様、あのものはきっと姿消す(すべ)を身につけております」

「ヘルカ──お前の頭は戦場(いくさば)でしか働かないのですか?」

 きっつ────っと女騎士は眼を(およ)がせた。

「姿見せぬとも私らの馬はかなりの速さで駆けていたので、女の──いえ、たとえ伝令の軽脚でも追いつきようがない、と王妃(おうひ)様は(おっしゃ)られるのですね」

 テレーゼがそう言うと、ヘルカは青ざめ挽回(ばんかい)せねばと頭を引っ掻き回した。

王妃(おうひ)様ぁ! 魔女は姿消して(ほうき)で飛んで来て馬に下りたのです!」

 言ってしまってヘルカは自分で矛盾(むじゅん)に気づき馬糞踏んだとさらに青ざめた。

「昨夜、閉じられた小屋に入り込んだ銀盤の魔女は姿消す以外に何らかの方法をこうじているはずです。今日アイリを(さら)った後も空中に消えるのでなく────吸い込まれるように(たてがみ)に消えました。なぜ(たてがみ)なのです!?」

 王妃(おうひ)に問われヘルカは困惑に気を失いそうになった。だが確かに横から見ていて馬の(うなじ)直前で魔女は姿消していた。いや、姿消したというよりも吸い込まれたように見えたのだ。

「あれはきっと────」

 テレーゼが横で何か言いかけた時、後ろからぷすっと音がしてイルミが視線を向けたのと同時にヘルカとテレーゼは半身振り向いた。



 アイリの旦那(だんな)ノッチが紙に指を突き刺していた。



「そんなことができるわけが────まるで悪魔そのもの────」

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルが言葉に()まりヘルカが戸惑った表情を王妃(おうひ)へ向けたその背後でノッチが告げた。

「やってるのさ、ルースクース・パイトニサム──銀盤の魔女は────あれは悪魔との契約なぞ必要としない」


「まさか! 場を操る(すべ)を────」


 テレーゼがそう中途半端に言い出し、ヘルカは(うつむ)いてしまった。

 わからん!? 場を操る!? 騎士道で考えてわからんものは永遠にわからん!

 あ!!!

 女騎士ヘルカ・ホスティラは顔を振り上げ王妃(おうひ)へ警告した。



「銀盤はどこにでも出入り口を作れます! 距離も速さも関係ない!」



 脳筋(のうきん)が初めて眼にしたイルミ・ランタサルの面もち。細めた瞳で(さげす)んだ眼差しを(みな)に向け言い切った。

「生かしておくべきではないわ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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