第4話 生き物狂い

文字数 1,990文字

 意味がないと言わせない。

 ノッチに奥の手として残しておけと言われた圧倒する力と速さ。

 自分の意識すら置き去りにする虚しさの(ごと)超越(ちょうえつ)

 初めて銀眼の魔女が後退(あとず)さるのを眼にした。

 だが首を(つな)ぎ終えた後、ミエリッキ・キルシは両腕振りだしまた氷の双刀(そうとう)を手にした。

 まだやるつもりなんだとアイリ・ライハラは眼を細めた。天使の素早さを前にこの魔女はどこまで足掻(あが)く!?



「青よ────間違った自尊心で死ぬが────よい」



 何を言ってると少女が顔を強ばらせた刹那(せつな)、銀眼の魔女の背後の空気が円形に揺らぎその波が上下左右に拡大した寸秒、息のかかりそうな眼の前に銀眼の魔女が現れ眼を覗き込まれ派手に回転した。

 とっさに身を守ろうと前面で交差させた長剣(ロングソード)が火花と金切り声あげアイリ・ライハラは押し切られ壊れた壁から廊下に押し出された。

 色んな場所から出入りして襲ってくる小賢(こざか)しい剣技(けんぎ)から力と速さにシフトして正面から打ち込んできやがった。

 イルミ・ランタサルらが大事とって遠ざかるのが視野のすみに見えていた。

 7人の銀眼の魔女とは似ても似つかぬその手練(てだ)れの剣士と化した魔女が不敵な笑みをみせ部屋からゆっくり出てくると両手の氷の長剣(ロングソード)を派手に1回転させ握りしめ(あご)を引いて三白眼でアイリ・ライハラを睨みつけ言い切った。


「青よ────お前では(かな)わないと────知っているだろう」


 ああ、そうか。こいつ余裕かませて変な口調になるんだったとアイリは思いだした。

銀眼(ぎんめ)、まだ俺が全力出し切ったと錯覚してるみたいだな」

 言い捨てた寸秒、アイリ・ライハラは両手首のスナップだけで2振り(ふたふり)の剣を同じ高さで回転させ、交差させた両手で強速(ごうそく)回転する長剣(ロングソード)のグリップをつかんだ。それと同時に少女は手首返し水平に(ブレード)回転させ異様に薄い残像を()いて銀眼の魔女へ駆け込んだ。

 その白髪の女が(からだ)の正面で(やいば)回転させ一気に数歩踏み込んでくるのがアイリ・ライハラには見えていた。

 見えていたのが罠だった。


 それで敵の速さと動線を予測しきったつもりになった。


 風圧を感じるよりも速く、氷の(やいば)光るよりも激速でアイリ・ライハラの(ほお)に迫った太刀筋(たちすじ)を身を引いて(かわ)した一閃(いっせん)、銀眼の魔女はさらに踏み込み逃れようとする少女を追い立てた。


 迫る顔が急激にぶれ一瞬止まるとアイリ・ライハラを挑発した。


「どうした? 第11位階なんとかは口先だけなのか!?」


 その声が奇妙な抑揚(よくよう)で耳に届いた寸秒、アイリ・ライハラは追い詰められた。





「アイリ! 早く通路へ!!」

 イルミ・ランタサルはアイリへ逃げるように警告した。

 だがアイリ・ライハラは大声で否定した。

「くるんくるん! 穴から離れてろ!」

 離れてろって、アイリは何を始めるつもりだと言われたままに王妃(おうひ)は部屋への穴から離れたが少女と銀眼の魔女とのやり取りだけは聞こえていた。

「天使様を捕まえたんだって!? 百万の軍勢に等しい天使様を2柱も罠にはめて調子こいてんだろ────」

「────天使様の猛攻にさえ折れない我はノッチス・ルッチス・ベネトス────────天上人(てんじょうびと)(つるぎ)と云われるんだ」


「青よ────死ぬ時だ」


 アイリは死なない! お前ごときに()られる騎士ではないとイルミ・ランタサルは様子を(のぞ)きにいきそうなり足を(とど)めた。

「青ではない────聖白の耀(かがや)き」



雷吼一閃(らいこういっせん)! クワドロプル・マキシマイ(四重強化)ムマジック──チェイン・ドラゴン・ラ(連鎖竜雷)イトニング!!!」



 アイリ・ライハラがステップ以外の宣言をするのを王妃(おうひ)は初めて耳にしたその直後、少女は後ろの氷壁を砕き大穴を開け砲弾よりも早く稲妻となり残像さえ(かす)み銀眼の魔女ミエリッキ・キルシへと突き進んだ。

 壊れた氷壁に押し切られ王妃(おうひ)後退(あとず)さり壊れ大きくなった壁の穴から部屋の中に見えたのは金属の(ブレード)から飛び散る火花の津波!

 直後、一瞬止まって見えた銀眼の魔女ミエリッキ・キルシが首を()り落とされた光景に王妃(おうひ)はついにアイリ・ライハラが魔女を倒したのだと胸を高鳴らせた。

 だが首を失った銀眼の魔女はとっさに氷の(ソード)を投げ捨て落ちる首をつかみ()れ落ちた部分へ押しつけ後退(あとず)さった。

 首を()り落とされながら死なない魔女に王妃(おうひ)は驚愕し身体をこわばらせた。

「な、なんだぁ! お前のその異様な速さは!!?」

 もう声を出している!? そう王妃(おうひ)が驚いた直後アイリが言い捨てた。

「教えてやる」



「雷竜すべての力をこの小さすぎる身体に封じ込めているからだ」



 だが首を(つな)ぎ終えた後、ミエリッキ・キルシは両腕振りだしふたたび氷の双刀(そうとう)を手にした。

 決着はついていない!!!

 そう王妃(おうひ)が青ざめた刹那(せつな)、銀眼の魔女が言い切った。

「青よ────間違った自尊心で死ぬが────よい」



 動き出すともう見えぬ2人がこれよりもまだ、いままでよりももっと速くなるのかと受け立ち向かう群青の少女の背を見つめるイルミ・ランタサルはもうこれは狂気だと震えが走った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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