第20話 剣の輪舞曲

文字数 1,617文字



 だから────。

 甲高い音が重なり騎士らの(やいば)(うろこ)に、アイリ・ライハラの先折れの長剣(ロングソード)が牙に弾き返された。

 99階層の(ぬし)火蜥蜴(サラマンダー)咆哮(ほうこう)を上げ火焔を吹いた。

「うぁちちちちぃ!」

 粘着質の火炎がついた甲冑(アーマー)を転がり込んでアイリら数名の騎士は(あわ)てて土で消した。

「くそうアイリ! こいつはヤバいぞ!」

 尾の近くにいるヘルカ・ホスティラが立ち上がりかかった騎士らの中央にいる騎士団長(きしだんつおう)に怒鳴った。

 だから、言ったんだ────。

 火蜥蜴(サラマンダー)がそこいらの魔物程度に思っているなら手をつないで踊ってやる。

 だから、言ったんだ。来るなって────。

 尾を激しく振り回し4人の騎士が内壁まで飛ばされ激しくぶつかると血反吐を吐いた。

「お前ら──馬鹿ばかりだ──」

 先折れの長剣(ロングソード)を顔の前に横様に構えアイリは思いの丈を吐き捨て気づいた。

 ああ、そうか。こいつら罪人でもないのに追い立ててきた。

 (ソード)を持つことは力なり。

 力は試され、試練は人を作る。

 魔物は神が遣わした人への試金石。

 飛び上がりアイリ振り回すブレードはまたもや巨獣の牙に弾き返されアイリはバク転し飛び下りた。

 その着地した場所へ火蜥蜴(サラマンダー)は火焔を吐いた。

 跳び退いてアイリは顔の前に横様に先折れの長剣(ロングソード)を構えた。

 アイリは父クラウスの様を思いだした。

 99階層の入口の陰に隠れるように言い聞かせクラウスは1人でこの火焔竜に立ち向かっていた。父は顔にダメージを与えるように見せかけ火焔竜の首を刻んでいった。

 そうだ。

 こいつは顔に受けようとする斬撃(ざんげき)をその鋭い牙で必ず打ち(かわ)す。

「ヘルカ! こいつの尾を思いっきり斬りつけろ!」

 参謀長は眼を丸くしてアイリを(にら)んで言い返した。

「そんなことしたら(われ)が弾き飛ばされるだろがぁ!」


「それが狙いだ!」


 父に出きるなら自分にもできる。アイリ・ライハラはそう言い聞かせ鉄靴(サバトン)の爪先を地面に食い込ませた。

 ヘルカ・ホスティラが叫び声を上げ火焔竜の尾に切りかかる。

 火蜥蜴(サラマンダー)の顔が横に振られ片目で尾に()りかかる赤い甲冑(アーマー)の騎士を(にら)み据えた。

 人は助け合わねばならない。その運命を騎士団長は受け入れた。

 一撃。一太刀(ひとたち)で片をつける。

 そうアイリ・ライハラは決意した。


フル(・・)・ステップ!」


 力を解放して飛び上がったアイリ・ライハラは身体を大きく(ひね)り蒼い稲妻を振り回した。





 ソファから身を乗り出してイルミ・ランタサル王妃(おうひ)はヘルカ・ホスティラに問いかけた。

「それで、アイリは火焔竜を倒せたのですか!?」

「ええ、王妃(おうひ)様。馬車(キャリッジ)よりも径のある屈強な首を両断しました」

 イルミ・ランタサルは手のひらを打ち鳴らし奇声を上げた。

「キャァア!!! やった! やったじゃないですか!」

「ですが王妃(おうひ)様、斬れた首から火焔が噴き出し騎士団長(きしだんつおう)はそれを浴びてしまったんです」

 イルミは参謀長の横に座る包帯だらけのアイリ・ライハラに手を伸ばした。アイリはその手に触れる前に腕を引いた。

「よくやりましたアイリ。貴女(あなた)の顔の火傷の傷は殆どの傷に効くポーションを取り寄せているので、もうしばらく我慢なさい」

「それよりイルミ、連れて行ったパーティー(みな)に報奨金やれよな」

「勿論、(みな)に使い切れないほどの金貨を出します」

 配下への報奨の話が済むとアイリはまた腕組みして黙り込んだ。

「どうしたのですアイリ。いつもの貴女(あなた)なら自慢話に花を咲かせるのに」

 不安げな面もちで王妃(おうひ)(たず)ねた。

「自慢できるのは(みんな)だよ。俺には何一つない」

「アイリ・ライハラ、あなたは大人になりましたね」

 イルミに言われアイリは(かぶり)振った。

「187階層まで下りていた親父が化け物じみた強さだとわかった。それに比べたら俺に自慢できることは何もないさ」

 テーブルの上に突き出されているイルミ・ランタサルの手を見つめアイリは腕組みを解き彼女の手に手を重ねた。

「帰ってこれた事が喜ばしい」

 テーブルを乗り越えてイルミ・ランタサルはアイリ・ライハラを抱きしめた。


「お帰りなさい。(わたくし)の群青の宝石」





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み