第7話 二柱(ふたはしら)

文字数 1,680文字


「お前なら大事なものをどこに隠す?」

 そうアイリに問われテレーゼは下唇の下に人さし指を当ててちょっと考え込んだ。

「自分の部屋のベッドの下かクローゼットの上棚の奥」

「なんだ普通じゃん。それらを真っ先に思いついたよ。でもお前考え込んでる顔何気に可愛いな」

 アイリにからかわれテレーゼは少女の尻を(たた)いた。

「ならアイリはどこに隠すんです?」

「出入り口から入って7番目の床板の下」

「天使2柱も入りませんね」

 いきなりアイリ・ライハラはしゃがみこみつま先を見つめながら真剣に考えた。

7番目の床板の下(・・・・・・・・)に秘密の扉の引き(ひも)がある」

「なんで床板の(・・・・)にこだわるんです!?」


親父(おやじ)が口説き落とした女の下着隠してたから」


「父親の代わりに(たた)いてあげましょうか?」

 アイリはとっさにしゃがみ込んだまま尻を両手でかばった。

「やめろよ。尻がでかくなるだろうが」

「2、3発(たた)いたところであなたの小さな尻がでかくなったりしませんよ」


「え!? 小さい? 俺の尻小さいか?」


「でかくして差し上げますよ!」

 そう言ってテレーゼが右腕振り上げたのでアイリは(あわ)てて立ち上がり逃げだした。

 2人は銀眼の魔女の部屋前に来ると足音を忍ばせて壊れた壁際(かべぎわ)から覗きこんだ。

「いませんね」

「いないな、ひぃいい!」

 アイリは片手で尻を庇って部屋に逃げ込んだ。

「なんで尻なでるんだよ!?」

「可愛い尻をちょっと触ってみたく」


「変態かぁ! 尻さわるな!」


 そう告げ後退(あとず)さったアイリの足下の氷床(ひょうしょう)が細長く跳ね上がり少女は(おどろ)きひっくり返りそうになり(あわ)てて足を引き抜いた。

 氷床(ひょうしょう)がパタンと閉じてアイリとテレーゼは顔を見合わせた。

「こんな隠し方するぐらいです。変態ですね」

 そうテレーゼが言うのでアイリはマカイの妹に問いただした。

「銀眼の魔女って変態なのか?」

「少なくとも貴女(あなた)のお父様よりは」

 アイリは自分の身を抱きしめ震えながら踏み抜いた部分に体重をかけた。するとまた細長く氷床(ひょうしょう)が立ち上がった。

 それをテレーゼは左手で押さえ右手で氷床(ひょうしょう)の溝にある引き(ひも)をつかんで引っ張った。

 するとゴゴゴゴと響かせてベッドが横に回転し壁に消えそのあった場所の氷床(ひょうしょう)に階段が現れた。

「簡単に見つかりましたね」

 そう少女へ言いながらテレーゼはアイリへと顔を向けると少女が眼を点にしていた。

「俺の親父(おやじ)そっくりだぁ────」

貴女(あなた)のお父上、女ものの下着隠すのに隠し階段とか地下室まで作っていたのですか!?」

「あぁ、ショックだったのはそこに村の婆のものまであったことだぁ」


 テレーゼが先頭になり氷の螺旋階段(らせんかいだん)を下りてゆくと部屋4つぶん下りたところに薄暗い大きな円形の部屋があった。


 その円形の中央に人の身の丈3つほどの高い氷柱が2本あった。


 暗がりに眼がなれてくると2人は驚いて息を呑み込んだ。

 有翼の天使が大剣(クレイモア)を構え上げ氷づけになっていた。

「見るな!」

 とっさにアイリ・ライハラは顔を背けた。テレーゼも倣った。

「どうして顔を背けたんですか?」

「俺たちの(けが)れで眼を焼かれるぞ」

「そんなまさか────」

「やめておけ。お前が(あや)めたイラ・ヤルヴァが時々天使の姿で現れるんだが、眼が熱くて涙が(あふ)れるんだ。低位階の天使でさえそうだ。こんな上階位を見たら焼かれる」

「どうするのです?」

 氷を割るわけにはゆかなかった。天使がばらばらになる。なら、削るしかない。

(ソード)(ブレード)で削ろう。お前は右の氷柱を。決して見上げるなよ」

 削り始めてすぐにテレーゼが少女に問いかけた。

「天使が2人して敗れたんです。貴女(あなた)が加わっても銀眼の魔女に勝てるのでしょうか」

「そんなもん、やってみないとわかんねぇ。だけど────」



「こいつらがいると無敵な気がしてなんねぇ」



 押し負けたアイリ・ライハラが言うのだ。根拠(こんきょ)などと無粋(ぶすい)な問いかけはできないとテレーゼ・マカイは思った。

 脚に触れそうなほど削った時に2人以外の声がして削る(ブレード)をアイリとテレーゼは浮かせた。



家捜(やさが)しは────よくないんだろう────────」



 螺旋階段(らせんかいだん)をコツコツと靴音を響かせ下りてくる足音に銀眼の魔女に見つかってしまったと2人は猛然と削り出した。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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