第6話 追撃隊
文字数 1,790文字
駆け込んできた騎士にイルミ・ランタサルは顔を向けた。
「王妃 様、騎士団長とノーブル国騎士ら5名の居所が────」
聞いた寸秒、イルミは悟り青ざめた。
アイリ・ライハラは言っていたように数名の騎士を伴い怨恨をはらしに向かったのだ。不安は的中した。あの子は私 と同じく言いだしたら人の言うことを聞かないから恐れていた。
武国デアチと対等するイモルキは防護にかけてはデアチ以上だという。それに少数で挑んでも討ち死にするだけだ。
今度こそ本当にアイリ・ライハラを失ってしまう。
不安に押しつぶされたり、悲しみに暮れている時ではなかった。頭を使うんだ。少女を救う策 を────。
イルミは居室から去らぬデアチ騎士の伝令を不信に思い尋 ねた。
「どうした?」
「離反したノーブルの騎士らをどうなさるおつもりですか」
離反だと!? そうかこのことに気づいて放置したデアチの連中がいるのだ。ノーブルの騎士らを疎 むもの共がいてもおかしくなかった。
「よくお聞き。王族は一生をかけて人民の運命を考えます。それは騎士達も同じこと」
「王妃 様、イモルキへの兵に先んじて動かれると、イモルキに感づかれ多くの兵が無駄死にします。騎士団長の一派は我が軍を窮地に陥 れたのですよ」
やはり。弱小国の統治に異を唱えるものが出てきてもおかしくなかった。デアチの息のもので騎士団長代理を立てられる前に手を打たねばならぬとイルミは考えた。
「リクハルド・ラハナトスを総代に、指示を出すため彼を私 の元へ」
「御意 」
アイリらを止めるため足速 の兵士を送らねば、デアチのものに叛乱 を起こされる可能性があった。だがその指示を誤れば、アイリらはデアチとイモルキに挟まれ立ち往生することになる。
立ち往生では済まぬ!
リクハルドは元リディリィ・リオガ王立騎士団の長 。そこを酌 んで采配は下すだろうが、彼は騎士歴も長い古い人間だ。第1に王家の地位安寧 を真っ先に考える。彼は足速 の兵士らにアイリら捕縛の指示をだすだろう。
それでは駄目なのだ。
アイリらは一両日で追いついてくる足速 の兵士らに気づき対抗策をとるに決まっている。祈願成就 のためでもデアチ国の兵士らを斬 り捨てることはないだろうが、それではアイリらは被害を被 ることになる。
いや巧妙 なアイリなら追撃をまともに相手せず回避策をとる。
ここは捕縛ではなく討伐 指示でよい。
その方がデアチ国の騎士兵士らの雑音にならぬだろう。
そこまで思案した刹那 、元リディリィ・リオガ王立騎士団長のリクハルド・ラハナトスがドアを叩き駆けつけた。
「王妃 様、アイリと中堅騎士たちがいなくなりましたと!?」
イルミ・ランタサルは老齢の騎士に陰鬱な面もちを向けた。
「そうです。アイリとノーブルの手の騎士5名はイモルキ侵攻に先んじて威力偵察を無断で」
「弱りましたな。イモルキ侵攻が知られ防備を固められるかもしれませぬぞ」
ここからが難しいとイルミは間 をおいた。
「そこでリクハルド、アイリらに足速 の兵20騎を馬3頭立てで向かわせ戻るよう説得。聞かぬ場合は────討伐 せよ」
「良いのですなイルミ王妃 殿」
「それしかデアチの剣竜騎士団を押さえる手だてはなかろう」
「御意 」
「リクハルド────」
リクハルド・ラハナトスが踵 返し振り向いた。
「はい、王妃 様」
「アイリらは追っ手に捕まりませんよね」
「策 があります。追っ手減らしましょう」
「減らせば手心を加えたと」
「いえ、数はそのままで減らすのです」
イルミ・ランタサルは意味をつかみかねて困惑した。
剣竜騎士団の騎士たちは命じられた20騎、馬60頭を速やかに用意させた。1人頭馬3頭を割り当てることにより疲れた馬を乗り換えることで駆け足を伸ばそうというのだ。一刻を争う伝令のよく使う手段だった。
追撃部隊を前にリクハルド・ラハナトスは指示を出した。
「いいか、何としてもアイリ・ライハラら先見隊を阻止せねばならぬ。国境は広く、追撃隊を2つに分け東部と東北部を索敵 する」
「南東部はどうされるのです?」
総指揮のデアチ国騎士が臨時騎士団長に問うた。
「南東部はもっとも越境が遠くなる。先見隊がその道を選ぶとは考え難い。以上だ。何としても先見隊を阻止せよ」
そうリクハルド・ラハナトスが命じると追撃部隊総指揮が声高に命じた。
「騎乗!」
20名の騎士が各々 2頭曳 き馬を連れた馬に騎乗し次々に手綱 叩き駆けだした。
「
聞いた寸秒、イルミは悟り青ざめた。
アイリ・ライハラは言っていたように数名の騎士を伴い怨恨をはらしに向かったのだ。不安は的中した。あの子は
武国デアチと対等するイモルキは防護にかけてはデアチ以上だという。それに少数で挑んでも討ち死にするだけだ。
今度こそ本当にアイリ・ライハラを失ってしまう。
不安に押しつぶされたり、悲しみに暮れている時ではなかった。頭を使うんだ。少女を救う
イルミは居室から去らぬデアチ騎士の伝令を不信に思い
「どうした?」
「離反したノーブルの騎士らをどうなさるおつもりですか」
離反だと!? そうかこのことに気づいて放置したデアチの連中がいるのだ。ノーブルの騎士らを
「よくお聞き。王族は一生をかけて人民の運命を考えます。それは騎士達も同じこと」
「
やはり。弱小国の統治に異を唱えるものが出てきてもおかしくなかった。デアチの息のもので騎士団長代理を立てられる前に手を打たねばならぬとイルミは考えた。
「リクハルド・ラハナトスを総代に、指示を出すため彼を
「
アイリらを止めるため
立ち往生では済まぬ!
リクハルドは元リディリィ・リオガ王立騎士団の
それでは駄目なのだ。
アイリらは一両日で追いついてくる
いや
ここは捕縛ではなく
その方がデアチ国の騎士兵士らの雑音にならぬだろう。
そこまで思案した
「
イルミ・ランタサルは老齢の騎士に陰鬱な面もちを向けた。
「そうです。アイリとノーブルの手の騎士5名はイモルキ侵攻に先んじて威力偵察を無断で」
「弱りましたな。イモルキ侵攻が知られ防備を固められるかもしれませぬぞ」
ここからが難しいとイルミは
「そこでリクハルド、アイリらに
「良いのですなイルミ
「それしかデアチの剣竜騎士団を押さえる手だてはなかろう」
「
「リクハルド────」
リクハルド・ラハナトスが
「はい、
「アイリらは追っ手に捕まりませんよね」
「
「減らせば手心を加えたと」
「いえ、数はそのままで減らすのです」
イルミ・ランタサルは意味をつかみかねて困惑した。
剣竜騎士団の騎士たちは命じられた20騎、馬60頭を速やかに用意させた。1人頭馬3頭を割り当てることにより疲れた馬を乗り換えることで駆け足を伸ばそうというのだ。一刻を争う伝令のよく使う手段だった。
追撃部隊を前にリクハルド・ラハナトスは指示を出した。
「いいか、何としてもアイリ・ライハラら先見隊を阻止せねばならぬ。国境は広く、追撃隊を2つに分け東部と東北部を
「南東部はどうされるのです?」
総指揮のデアチ国騎士が臨時騎士団長に問うた。
「南東部はもっとも越境が遠くなる。先見隊がその道を選ぶとは考え難い。以上だ。何としても先見隊を阻止せよ」
そうリクハルド・ラハナトスが命じると追撃部隊総指揮が声高に命じた。
「騎乗!」
20名の騎士が