第17話 激速の攻防

文字数 1,738文字

「アグネス、後ろから離れるな」

「は、はい!」

 アグネスを逃がし損ねてアイリ・ライハラは思うがままに動き回られなくなったと思った矢先に横へテレーゼ・マカイが退(しりぞ)いてきた。

「ヘルカは!?」

 アイリに問われあんな奴と組ませるからだと言わんがばかりにテレーゼが舌打ちし押し殺した声でアイリに言い返した。

()られましたよ。ええ、あの無双馬鹿が()られたのは私の責任ですよね!」

 それを聞いてアイリはうんざり顔になった。また黄泉に連れ戻しに行かなくてはならない。

姉様(あねさま)、この青髪──英雄だと噂に聞いた騎士だと? 赤竜を一撃で倒したとか」

 三女のヴェーラに問われ姉タルヤは青髪に聞こえるようにわざと大声で否定した。

「ふん、大ボラに決まってるさ。こんなに簡単に取り囲まれるはずがない」

 あぁ、あれのことだとアイリは気づいた。英雄かは知らんが、確かに赤竜を一発で倒した。

「吹聴して歩いたのは俺じゃあねぇぞ!」

 そうアイリ・ライハラが言い切ると(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)を着た赤毛が言い放った。

姉様(あねさま)、こいつ自分のことじゃないのに否定してますよ」

「捨て置け! どうせ、まがいもの────」

 それを聞いてアイリは気が変わった。

「テレーゼ、アグネスを護れ」

 そう命じるとマカイのシーデが警告した。

「アイリ──お前こいつらを安く見てると(ほぞ)咬むぞ」

 アイリ・ライハラは手持ちの剣先(ポイント)双刀(そうとう)の赤毛の騎士に振り上げ告げた。


「まがいものか試そうじゃん」


 寸秒、いきなりアイリの(ブレード)が叩き上げられその喉元にもう一口(ひとふり)(やいば)が当てられいた。

「へぇ────速いじゃん」

 (あご)を上げたアイリが双刀(そうとう)の騎士を見下ろし言い切った。

「サーティーン・ステップ」

 アイリ・ライハラは恐ろしい速さでステップ踏み換え双刀(そうとう)の騎士の背後に回り込み(ブレード)(あご)下に押しつけた。

 その刹那(せつな)、アイリは左右から赤毛の二人に刃口(きっさき)を喉元に突き立てられた。

「やりな!」

 そう双刀(そうとう)の騎士が言い放った。

 こいつ! 自分の首を()られるとか考えないのか!? そうアイリは考えたが別なことを見落としていた。

 アイリの爆速に赤毛の二人が追いついていた。

 三姉妹に躊躇(ちゅうちょ)はなかった。(かわ)()もなくアイリの首に突き立てられた(やいば)が食い込んだ。

 一瞬よりも短い雷速でアイリ・ライハラは跳躍(ちょうやく)退(しりぞ)いたが、跳び下りた騎士団長の首の両から血が流れ落ちた。

 (わず)かでも判断が遅れたら首を()り落とされていたとアイリは鼻筋に(しわ)を寄せた。だが問題は別だった。

 両側から襲いかかってきた赤毛の騎士の気配がなかった。気配を感じていたら何かしら(かわ)し様があったはずだとアイリは思った。

 こいつら────速さ以外に何かしら隠している。

 テレーゼが幽霊のようだと言ったのはこのことだったのか!

 振り向いた双刀(そうとう)の騎士が目を細めアイリ・ライハラを値踏みし妹らに(ささや)いた。

「この青髪──今、見せた速さがすべてじゃないよ。だが私らの剣技(けんぎ)を見抜けはしないさ」

「そうね姉様(あねさま)

 そう二人の妹らが認めた。

 その直後、三姉妹が同時に揺れ動いたようにアイリには見えた。

 見たものが真実とは限らない。

 多くの試練をくぐり抜けてきたアイリは三姉妹の残像が攻撃してくる前触れだと感じた。だが三姉妹は鋭い殺気を放ちながらどのように掛かってくるかアイリにはまったく太刀筋(たちすじ)を読めず(つぶや)いた。

「かかって来いよ!」

 落雷のように加速しアイリは自分から見て右手にいた軽装の赤毛の騎士と自分を結ぶ予測した線上へとジグザグに身体揺り動かした。

 その寸秒、前と左から双刀(そうとう)(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)を身につけた赤毛の騎士が(からだ)に引きつけた(ソード)(やいば)を突き出しながらアイリの動く先へと現れた。

 まただ!?

 アイリ・ライハラは咄嗟(とっさ)に身を右へと倒し両足を派手に滑らせ二姉妹の突きをぎりぎりで(かわ)した。

 地面に伸ばした左手の指を引き()るように靴履いた両足を後ろに滑らせながらアイリは双刀(そうとう)がいないことに気づいた。

 真後ろから凄まじき威圧(いあつ)感じてアイリは眼を(およ)がせた。


 アイリ・ライハラの逃げたさらに後ろから残像を引き()り現れた双刀(そうとう)使いが、振り上げた右手の(ソード)を一気に青髪の剣士の左肩に叩き下ろし一気に両断した。


 左肩から先を断ち()られた少女は振り向いた眼の前で血飛沫(ちしぶき)()いて回転する自分の腕を眼にした寸秒、激痛に息を呑んだ。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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