第22話 鬼畜(生 おにちくしょう)
文字数 2,043文字
「出て行くのは簡単なんだな」
「
アイリ・ライハラが思ったことを口にするとヘッレヴィ・キュトラが教えた。
「もしかして貴君は騎士になってまだ日が浅いのか? その──城の仕組みなどどの国でも同じだろ」
少女が視線を同じ荷台の向かいに座る元異端審問官へと向け首を
「まだ半月だよ」
ヘッレヴィは眼を丸くした。
アイリがここに
その歳で第1騎士だ。よほど幼少期から騎士見習いをして幾つもの
「その────アイリ。貴君はイルミ・ランタサル
少女は一瞬意味わからぬと瞳を上へ向け
「違うよ。近衛兵副長だった」
騎士団長は無理だが近衛兵副長でも年齢と釣り合わないと元異端審問官は思った。
「アイリ、貴君はどうやって近衛兵副長になれた?」
「くるんくるんに押しつけられ──た」
くるんくるん!? ああ
押しつけられた? 何をもってして────この
このものはまだ人生を知らず子どもの視線で難局を計るが、逆にそこが大人がつけ込まれる理由となっている。
ヘッレヴィ・キュトラは思わず微笑むと逆に少女は顔をしかめた。
「なんだよ気色わりぃ」
「ん、いや、貴君がことの真意を確かめに行かないかと誘った理由が少し理解できた──からだ」
アイリは元異端審問官から向きを変えて荷台後部の縁に足をかけ
「まあ、そう考えるなよ。疲れるだろ? 先長いし」
気を使ってくれてるとヘッレヴィ・キュトラは
「そうだな。ところでアイリ・ライハラ」
「アイリでいいよ」
元異端審問官は軽く咳払いして声をかけた。
「あ、アイリ──貴君はかなり身の動きが速いんだけれど誰か有名な騎士に教えられたのか?」
少女が顔の前で右手を振った。
「ないない。小さい頃から親父が
て、
「当たって切ったり
少女がまたパタパタと手を振った。
「とんでもない。怪我どころか、最初のころ火傷したよ」
「な、なんで
「あぁ、真っ赤かに焼けてるものを投げつけるんだよ。鍛治職人だからって自分の娘にポイポイ投げねぇよな。普通はなぁ」
焼けた
娘が娘なら、父親も
「どうして
またブラブラとアイリは手を振った。
「ちゃうちゃう。親父、鍛冶屋
身売り!? そんなに食うに困る家庭だったのか、とヘッレヴィ・キュトラは少女に手を差しのべようとして腕を止め尋ねた。
「貴君、幾らぐらいで身売りされたんだ?」
「1億9千8百万デリ──」
1億9千8百万デリ(:約4800万円)だぁ!? そんな破格値どんな奉公や奴隷売買でも扱ったと聞かぬ金額。ランタサル王か、それとも現イルミ・ランタサル
「────それに若い美人3人付き」
「はぁあっ!?」
お前の父親は鬼畜かぁ!?
「アイリ・ライハラ────貴君の父に蹴り入れるときに手伝わせろ」
窓締め切った暗がりでベッドからそ────っと下りようとしたクラウス・ライハラはいきなり手首をつかまれ固まってしまった。
「駄目ですよクラディウス」
「いやぁちょっと仕事を」
シーツから別な手が伸びて彼の腕をつかんだ。
「ねぇぇ、働かなくても食べるに困らないでしょ」
男は苦笑いし立ち上がろうとした。
ベッドから3つめの手が伸びてクラウス・ライハラの指に絡んだ直後彼は大きなくしゃみをして女達が驚いたように手を引っ込めると彼が
「どこぞの
遥か遠くの荷馬車でアイリ・ライハラとヘッレヴィ・キュトラがくしゃみでハモった。