第20話 みんな一緒

文字数 1,805文字

「うるうる、すんなよぉ」

 そう告げアイリ・ライハラは抱きついてくる女騎士ヘルカ・ホスティラを押し戻そうとしながら冥府の苦悩の河(アケローン)の河守りカローンの頭を踏みつけて昏倒させた。

「だって、連れ戻しに来てくれるなんて────」

 途中まで言いかけてヘルカはずずずず──と鼻を吸ってアイリは苦笑いを浮かべた。。

「ここでもたついてると厄介(やっかい)ごとが増えるから、さっさと行きたいところだけれど」

 アイリにしがみつく女騎士が顔を上げ(たず)ねた。

「行きたいところだけど(・・・・・・)?──生き返れないの??」

 アイリが辺りを見回して熱心に何かを探す素振りにヘルカはもしかして帰り道がわかんなくなっているのかと不安になり始めた。

「そうじゃねぇよ。もう1人探してる」

 そう言って騎士団長は女騎士の腕から逃れて(そば)の飛び越えてきた岩を走り登って河岸を丹念に見つめながら(つぶや)いた。

「遅かったかなぁ。もう苦悩の河(アケローン)を渡っちまったかなぁ」

 遠くを見つめているアイリへ岩の下からヘルカが問いかけた。

騎士団長(きしだんつおう)、誰を探してるの?」


「おぉ! いたぁ!」


 そう言いアイリが岩陰に飛び下りて反対へと走りだし女騎士へ大声で命じた。

「ヘルカぁ、ついて来いよ! はぐれると冥府においてくぞ!」

 それは嫌だと、ヘルカ・ホスティラは鉄靴(サバトン)をガチャガチャ言わせ岩を回り込んで駆けるアイリを追いかけ始めた。

 体力に自信ある女騎士がアイリ・ライハラに追いつき息を切らすほどの遠くの岩の元に砂場に座り込んだ誰かが見えてきた。

「お──い、エステルぅ!」

 走りながらアイリが呼んだ名にヘルカ・ホスティラは顔を引き()らせた。まさかあの黒いぶよぶよを連れ帰るのかとアイリの正気を疑った。

 名を呼ばれ砂場に座り込んでいる第6騎士が顔を上げた。

「あら? 主さん達も死んだの?」

「帰るぞエステル!」

 そう告げながらアイリは第6騎士に駆け寄り片手を差しだした。その騎士団長のもう一方の手を引っ張りヘルカ・ホスティラが耳打ちした。

「まずいですよ──こいつまた変身しますよぉ」

 それを聞いてアイリは軽く笑い飛ばした。

「あはははぁ! あれはあれ、エステルはエステルで別個のだよ」

 そう言いながら握られた手を引っ張りアイリはエステルを立たせた。

「本当に死地から帰れんすの?」

 第6騎士に問われアイリは2人に告げ歩き始めた。

「ついて来いよ。2度目だから任せな。カローンが戻って来ると面倒だから急ぐぞ」

 てくてくと歩いて行くアイリの背を見ていた2人の騎士は顔を見合わせ(あわ)てて小走りに追いかけだした。

 そうして(きり)立ち込める森へ騎士団長が平気にどんどん入って行くとエステルとヘルカは迷ったら最後だと言わんがばかりにアイリ・ライハラの服の後ろを握りしめた。





 いきなり空中から大理石の床にぼとぼとと落ちた場所は闇に包まれたあの魔物がいた部屋の巨大な扉の前だった。

「痛てててっ────」

 腰をさすりながら立ち上がると女騎士らも立ち上がり周りを見回してヘルカがアイリに問うた。

「あの怪物を倒したのか?」

「ああ倒した。ぶっ(つぶ)した」

 耳にしてエステル・ナルヒが耳を疑い(たず)ねた。


「主さんが本当に地の底の王を倒せたのでありんすか?」


 外への出口に歩きながらアイリが2人に命じた。

「まだ伸びているから今のうちに外の(くら)の荷物から革袋取ってきて、3人で詰め込もうぜぇ」

 それを聞いてヘルカが確かめた。

「詰め込もうって!? アイリ、あれはエステルと同じ大きさだったんだぞ」

「どおってことないじゃん。あいつ蛇になってるからな」

 どうしてそこまで知ってるのだと、ヘルカ・ホスティラは思いながら、神殿おもての石柱の方へ行く騎士団長を大人として扱うべきなのかそれとも15のままで接すべきなのか迷い、後を追いかけ小走りになった。



「あれはサタン────古くから知ってたんだよ」



 さ、サタン!? 古くから!?



 ヘルカは眼を丸くした。アイリ・ライハラは地獄の魔王を古くというほど以前から知っており、さらに黄泉(よみ)からの戻り方まで知っていた。

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルがあの日ディルシアクト城に連れて来た青髪の小娘はいったい何ものなのだと困惑した。

「アイリ・ライハラ────」

 第3騎士から声かけられ顔を(わず)か振り向けた成りだけが大人の少女が横顔を向けた。

「なんだよ?」



「お前、まさか頭に魔のつく種族なのか?」



 アイリ・ライハラはそれを鼻で笑い飛ばし大きすぎる石段を駆け下りて行った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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