第25話 お子様

文字数 1,749文字

 口々に命乞いの弁明する家臣(かしん)らを冷ややかに見つめ、アイリ・ライハラはイルミ・ランタサルを裏切った家臣(かしん)ヴィルホ・カンニストを思いだした。

 あの男は謁見(えっけん)()(みずか)らイルミ・ランタサルの命取ろうとした。

 こいつらよりもあの指切り落とされた家臣(かしん)の方が(いさぎよ)い悪党だったとアイリは思った。

 アイリは耳を貸すように釈明しようと次々に他の家臣(かしん)を押しのけ出てくる男らの方へ歩み寄りながら連れてきた配下の騎士に命じた。

「扉を閉じろ。誰も入れさせず────誰も出すな」

 その刹那(せつな)アイリ・ライハラは近い家臣(かしん)二人を続けざまに()りすてた。

「私が何をしたと言うんだ! 前国王が退位されたときにはまだ下っ端の────」

 その男の首を()ね転がすと家臣(かしん)らはほかのものを押し出し後ろへ逃げようとした。


(あわ)てずともよい──この場にいる家臣(かしん)どもよ、よくお聞き。わたしは宮廷魔導師クラウス・ライハラを追い立てなかった家臣(かしん)を探しているに過ぎない。名に覚えがあるだろう」

 すると家臣(かしん)らは自分はクラウスやその娘アグネスを追い立てたと言い張り始めた。

 こいつら嘘つきだ。命()しさにペラペラと嘘を並べる。アイリは自分は忍耐強い方かと思った。浴びせられる嘘に耳を貸している。

 のん気に聞いてる暇はなかった。

「もうどうでもいい────最後に一つ逃げ道をあげる。前王制打倒の手引きしたお前らの頭は誰だ?」

 アイリが問うと一番地味な服装をした歳嵩(としかさ)家臣(かしん)が前へ出てきて申し開きをした。

「ザカライア・オーモンド──だ。クラウスにヨーク国王と王妃(おうひ)暗殺の嫌疑をかけた張本人だ」

「お前は名をなんという?」

「オズワルド・サングスタ──今の家臣(かしん)達をまとめている一人だ」

家臣(かしん)を続け長いのか?」

「三十年以上になる。アグネス殿(・・・・・)貴女(あなた)即位(そくい)されるのなら我々は貴女(あなた)(つか)える所存だ」

 じゅうぶんだった。こいつも10年前に父を追い立てた一人だとアイリは思って男らを(にら)みながら後ろで騎士達に護られるアグネスに問うた。

「だとよアグネス。どうする?」

 オズワルド・サングスタの顔色が見る間に青くなり目つきが強張ってどもりながら指摘した。

「き、貴様、そ、それではアグネス・ヨークでは、な、ないのか!?」

「言ったじゃん。クラウス・ライハラの娘────アイリ・ライハラだと」

 手を打ってきたものが失策へと(くず)れさる現実を呑み込めない男の足掻(あが)きだった。オズワルドが他の家臣(かしん)へ命じた。

「小奴らからアグネス・ヨークを奪い返せ!」

 だが得物(えもの)を持った騎士や剣士をどうすることもできずおろおろするばかりで、アイリは命じた歳嵩(としかさ)家臣(かしん)の方へ大股で近寄ると(ブレード)をオズワルドの首へ押し当て言い切った。

「これはアグネスは関係ない。父クラウスを追い立てた(むく)いだ! アイリ・ライハラの名において私怨(しえん)をはらさせてもらう!」

 そう言い捨てアイリはオズワルド・サングスタの首を一気に()ねた。

「ここ十年以内で家臣(かしん)になったものは下がれ。身内同士でかばい立てすると後で調べた上で辛い仕打ちをお見舞いする!」

 十名余りのうち七名が下がり五人が(おび)え顔で残った。

 脅える心当たりはなんだ?──とアイリ声にせずに唇だけを動かした。

 そのものらへ踏み込むと一陣の風のようにアイリは(ソード)を振るった。

 次々と事切れてゆく男らを前にアイリは(ブレード)の一振りで(ソード)血糊(ちのり)を横へ飛ばし残った男らに問うた。

「アグネス・ヨークの(もと)で心血(そそ)げるか!?」

 現政権の元でするその(ちか)いは謀叛(むほん)そのものだった。それを反故(ほご)に出来ぬようアイリは男らを脅した。

(われ)(ブレード)(あなど)るなよ。距離や日時に関わらずアグネスに背を向けたと知った時点で首を()ねるからな」

 (うなづ)いたり安堵(あんど)の表情浮かべる家臣(かしん)らからアイリは振り向き連れてきた騎士らに混じって立つ王女へ忠告した。

家臣(かしん)らはあなたの手となり足となる。だが常に注意の眼差しでいなさい。裏をかくものは目つきにそれがでる」

 他に言えることなどない。

 お子様なのだからとアイリは無言で自分を(あざけ)った。

「────いて、いつでも(わたくし)を守っていただけるんで────すね」

 アイリは唖然となった。そのしまりない表情にアグネスはもう一度確認するようにアイリ・ライハラに問いかけた。

(わたくし)(そば)にいて、いつでも(わたくし)を守っていただけるんですね」



 やめてくれ! 俺はお子様なのだから────。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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