第9話 誰(た)がために
文字数 2,043文字
イルミ・ランタサルは剣を持つ暗殺者2人にたかだか長いだけの木の棒で一歩も退かない少女の後ろ姿に惚れぼれとした眼差しを向けていた。
あなたはわたくしのために──アイリ・ライハラ。
フードを深々と被り纏 わりつくマントを意にも介さず向かってくるものらが、横から振り切ろうとする剣二振りのぎらついた光にわたくしがこのものと決めた剣豪が次に見せてくれる殺陣 がどんなものか。
輝け青い雷撃 よ!
王女が固唾の呑んで見つめる先で低くそして誰よりも速く雷光が迸 った。
「ワンステップ!」
少女がそう呟 き、青の稲妻が一瞬マント姿の暗殺者 らの直前で横に乱れ伸びた。
アイリ・ライハラは殺し屋2人の直前の石畳の継ぎ目に木の棒の先端を突き一気に路地の右手の壁に駆け上がると、引き上げた木の棒をフード2つの間に抜き背後に飛び降りた。そうして前方に突き出した木の棒を引き締めた腋 の間から凄まじい速さで後ろへ突き出した。
その先端が1人のマント姿の暗殺者 のフード後部にめり込み撓 み砕けると同時に一撃を喰らった殺し屋は両膝 を石畳に落とし金属の響き1つで突っ伏した。
もう1人のマント姿の殺し屋が耳障りな音と共に鉄靴 の足を滑らせ立ち止まると振り向いた。その眼の前で王女が新しく連れてきた近衛兵がゆっくりと振り向いて身長と同じ長さになった木の棒を右手1つで身体の左右に振り回し空を切ると風が唸 った。
「この路地で振り回しやすくなったよ──止めにするかい? 殺し屋さんよ?」
アイリがそう相手に告げ棒を握りしめた腕を身体の後ろにまわし折れ尖った先端を相手から見えないようにし両膝 を折り右足を引いて腰を沈めた。
マント姿の暗殺者 は外套 から左の手を出し両手で握った剣を右肩の後ろに振り上げた。
「そうこなくちゃ、面白くないもんな!」
少女が言い捨てた瞬間、猛然とマント姿のものが向かって来た。
「トゥステップ!」
アイリは口ずさむように言葉を放ち、一瞬相手の利き腕と反対の方へ身体を揺らし靡 いた蒼 髪がジグザグの雷光のように横へ跳ね直後相手の振り下ろしてくる剣の真下に飛び込んだ。
まるで鞭 のように大きく彎曲 した少女の右手の獲物 が凄まじい速さで斜め下から唸 り相手の両手の手首に命中し中ほどから砕け散った。
須臾 剣を振り下ろそうとしていた両手から剣の握り手 が抜け、アイリの肩を掠 め飛び背後に派手な金属音を響かせ落ちた。
直後、少女は左手をフードの穴蔵に飛び込ませ相手の喉元を鷲掴 みにして、仰 け反 らせた。
「あんた、私だけじゃなくイルミ王女にまで手を下すつもりだったなぁ?」
呻 き声1つ漏らし相手が答えないでいるので、アイリは右手に折れ残った木の棒で思いっきりフードを横から叩いた。そこで初めて相手が息を呑み懸命に呻 き声をこらえていたのが途絶えた。
「ちょ──うしに──のるなよ──平民──めが」
少女はしかめっ面になるともう一発フードを横様に思いっきり叩いた。
「なんだか、猛然と腹立たしくなった。くそう──折れ尖ったこの棒を鉢 被り忘れてきたその顔にめり込ませてやろうか──!?」
そうアイリが脅すと、殺し屋が急に暴れだした。その鉄靴 に蹴られないように少女が脚を逃がすといきなりフードが背後に引き下ろされそのものが凍りついたように動きを止めた。
「ヨエル!」
頭を仰 け反 らせた男の顔を横から覗 き込んでいるのはイルミ王女だった。
「何の冗談ですこと!?」
声を荒げかかり王女が問い詰めた。
ヨエルという男が答えないでいると、アイリは眉間に皺 を寄せ上げた腕で折れ尖った木の棒をじわじわと男の顔面に近づけた。
「王女──貴女がこのような平民と慣 れ親しむと城のものが黙ってはおりません──私はそうなる前に──」
いきなりアイリはヨエルという男の首を振り回し倒れているものへ押し倒し王女が飛び退いた。
「馬鹿ばかしい──私は今日帰るんだよ。それっきり、これっきりで、慣れ親しむもなにもねぇーよ!」
棒を投げ捨て少女は腰に両手を当てて見上げるヨエルにそう告げ表通りへ向け歩き始め王女が追いかけた。
「待って、アイリ──」
イルミ王女が追いつくと少女がいきなり歩みを止めた。王女も合わせるように立ち止まると、アイリは引き倒したヨエルという男の方へ脚を進めるとうなだれていた男が顔を上げ見つめた。少女はぐんぐんと駆け始め鉄靴 の男はうつ伏せに倒れた仲間から後退 りだした。
青い髪を靡 かせ低く速く手も振らずに走るアイリは投げ捨てた木の棒を右手で拾い上げ身体を右に大きく捻 ると旋風 のように身体を弾く。
その棒が後退っていたヨエルの顎 下を捉えると男は打ち上げられたように体を浮かし飛び上がり石畳に後頭部から落ちて昏倒 した。
そうしてアイリは仰向けで泡を吹いて白目をむいた男の腹に登るとその上で数回飛び上がり両足でマントの下のブレスト・プレート──胸当てを踏みつけへこませ王女の方へ駆け戻った。
つぶさに見ていたイルミ王女はアイリ・ライハラがもうたまらなく好きで両手を広げ出迎えた。
あなたはわたくしのために──アイリ・ライハラ。
フードを深々と被り
輝け
王女が固唾の呑んで見つめる先で低くそして誰よりも速く雷光が
「ワンステップ!」
少女がそう
アイリ・ライハラは殺し屋2人の直前の石畳の継ぎ目に木の棒の先端を突き一気に路地の右手の壁に駆け上がると、引き上げた木の棒をフード2つの間に抜き背後に飛び降りた。そうして前方に突き出した木の棒を引き締めた
その先端が1人のマント姿の
もう1人のマント姿の殺し屋が耳障りな音と共に
「この路地で振り回しやすくなったよ──止めにするかい? 殺し屋さんよ?」
アイリがそう相手に告げ棒を握りしめた腕を身体の後ろにまわし折れ尖った先端を相手から見えないようにし
マント姿の
「そうこなくちゃ、面白くないもんな!」
少女が言い捨てた瞬間、猛然とマント姿のものが向かって来た。
「トゥステップ!」
アイリは口ずさむように言葉を放ち、一瞬相手の利き腕と反対の方へ身体を揺らし
まるで
直後、少女は左手をフードの穴蔵に飛び込ませ相手の喉元を
「あんた、私だけじゃなくイルミ王女にまで手を下すつもりだったなぁ?」
「ちょ──うしに──のるなよ──平民──めが」
少女はしかめっ面になるともう一発フードを横様に思いっきり叩いた。
「なんだか、猛然と腹立たしくなった。くそう──折れ尖ったこの棒を
そうアイリが脅すと、殺し屋が急に暴れだした。その
「ヨエル!」
頭を
「何の冗談ですこと!?」
声を荒げかかり王女が問い詰めた。
ヨエルという男が答えないでいると、アイリは眉間に
「王女──貴女がこのような平民と
いきなりアイリはヨエルという男の首を振り回し倒れているものへ押し倒し王女が飛び退いた。
「馬鹿ばかしい──私は今日帰るんだよ。それっきり、これっきりで、慣れ親しむもなにもねぇーよ!」
棒を投げ捨て少女は腰に両手を当てて見上げるヨエルにそう告げ表通りへ向け歩き始め王女が追いかけた。
「待って、アイリ──」
イルミ王女が追いつくと少女がいきなり歩みを止めた。王女も合わせるように立ち止まると、アイリは引き倒したヨエルという男の方へ脚を進めるとうなだれていた男が顔を上げ見つめた。少女はぐんぐんと駆け始め
青い髪を
その棒が後退っていたヨエルの
そうしてアイリは仰向けで泡を吹いて白目をむいた男の腹に登るとその上で数回飛び上がり両足でマントの下のブレスト・プレート──胸当てを踏みつけへこませ王女の方へ駆け戻った。
つぶさに見ていたイルミ王女はアイリ・ライハラがもうたまらなく好きで両手を広げ出迎えた。