第10話 控え打ち登場
文字数 1,893文字
こいつ、邪神なみに悪辣 だと裏の魔女キルシ思った瞬間、彼女は尻に剣 の刃口 を突き立てられ短く悲鳴を上げた。
「ちくしょう──覚えてやがれ──絶対に貴様ぶち殺して──ひぎゃぁぁ!」
顔を横に向けさらに後ろへ視線を向けた魔女は腰縄 を握るアイリ・ライハラを睨 んだ。
「おらぁ! さっさと歩いて攻めて来る蛮族に爆裂攻撃! でないとまた突くぞ!」
そう脅されてキルシは荒れ地のずっと先に見える砂埃 上げる蛮族へ向かい合い詠唱 を始めた。
距離が近ければ簡単な詠唱 で爆裂魔法を放てるが、攻めようとしてくる蛮族は馬でも一時かかるほど遠くにいた。それに脅されて何度も魔法を使う気もさらさらない。
その荒れ地の先に上がる土埃 が別れ急激に大きくなり始めた。
あ!? もしかして遠候隊 !?
!!!
悪辣 の魔女は閃 いた。適当な場所に爆裂魔法を放ち蛮族の遠候隊 をここまで来させる。アイリ・ライハラと兵らが蛮族と斬り合いになったらどさくさに紛 れ逃げ出し思いっきりド派手な魔法で蛮族もろとも吹き飛ばしてくれるわ。
キルシは偵察隊と本隊の間に爆裂魔法を放ち爆轟とともに多量の土砂が舞い上がった。
魔法の杖 が打ち砕かれ遠征隊唯一の魔導師 ──ティモ・ヴェストラは困惑した。
普通、遠方の魔導師 の力量なりマナを探るのはただ覗 くだけなので即座に攻撃されることはない。だが今し方手を伸ばした相手はそのような千里眼にも備え攻勢防御魔法を己にかけている。それも素早い反応でこの遠距離からでもこちらを見つけ出し覗 くなと警告し魔法具だけを破壊した。
とんでもない呪術師かもしれぬ!!!
「どうしたヴェストラ? デアチ軍の魔導師の力量はわからぬのか?」
馬を並べる女大将ヒルダ・ヌルメラに問われ魔導師は返答に困った。敵方が強いと言えばこちらの志気にかかわる。だが見栄を張ってこちら強しと言えば先鋒に出され正面切っての魔法争いとなる。
「いえ、わかりましたが、拮抗 しております。最善手はもう少し距離を詰 めましての魔法対決がよろしかろうと。魔法対決中は我 無防備ですので護衛の中にいた方が敵方すべてを網羅して倒しましょうぞ」
「────」
女大将が無言なのでティモ・ヴェストラは探るように僅 かに顔を向けた。
「お前────斥候隊を追え。お誂 え向きにお前も馬に乗っておるだろ。斥候隊に追いつき探りで魔法攻撃をかけよ!」
「ええぇ!? そのようなぁ!? 遠距離攻撃兵を先鋒に出すなどぉ!?」
両手振り上げ驚いた魔導師 は言い繕おうとしたが決め手の言い訳を欠いた。その刹那 、本隊目前で爆発が起きて土砂が降ってきた。
「なにをしておる。斥候の騎士らが敵に到達するぞ」
そう言い放ちヒルダ・ヌルメラが魔導師 の馬に自 らの馬を寄せ馬の腹を蹴った。小石や砂が落ちてくる中を猛然と走りだした馬にティモ・ヴェストラはしがみつき振り落とされまいと泡を食った。
魔導師 は抱きついていた馬の首から綱 に握りなおしそれでも鞍 に何度も叩き上げられ落ちそうになった。その駆ける傍 で爆轟と共に土砂が噴き上がり馬がよろけた。
く、くそう! デアチ軍の魔導師 はこっちを的確に捉えてやがる!
ティモ・ヴェストラは透明化の詠唱 を唱え駆ける馬ごと蜃気楼のように消え去った。
だが蹄 が叩き巻き起こす砂埃 までは消せなかった。
「まだですか?」
馬車 の窓から顔を突き出し近くを馬で駆ける元ノーブル国騎士団長のリクハルド・ラハナトスが顔を振り向けた。
「王妃 様、まだ国境 まで半日はかかります。揺られる馬車 から顔を出されると危険ですから中でお待ち下さい」
イルミ・ランタサル王妃 は眉根寄せ唇をゆがませリクハルドに不満を伝えた。
「だってのんびりしてたらアイリ・ライハラの活躍をこの眼で見れないじゃないですか!」
今度はリクハルドが眉根しかめた。
この思いつき猪突猛進 癖は今に始まったことじゃない。王妃 はノーブル国で幼子の時から我がままし放題で大きくなられた。この行軍も王妃 が宮廷易 占い士の転がした筮竹 で占っただけのものを鵜呑みにしてお決めになった事。
「王妃 様、十字軍の名の下に異教徒征伐 を理由に諸国より兵をお集めなったのは良いのですが、教皇 ヨハネ・オリンピア・ムゼッティ様の許可をどうお取りになったのかまだ私 にお教え下さってないでしょう────?」
王妃 が唇に人さし指を当て微笑んだあとその手の指を怪しく蠢 かせた。
リクハルド・ラハナトスは王妃 がまた舌先三寸の奸計 を持って教皇 様をたぶらかしたのだと気づいた。
ど、どうするんだこれほどの兵を!?
元リディリィ・リオガ王立騎士団長が後ろを振り向き見渡すばかりの騎兵の群れに困惑した。
「ちくしょう──覚えてやがれ──絶対に貴様ぶち殺して──ひぎゃぁぁ!」
顔を横に向けさらに後ろへ視線を向けた魔女は
「おらぁ! さっさと歩いて攻めて来る蛮族に爆裂攻撃! でないとまた突くぞ!」
そう脅されてキルシは荒れ地のずっと先に見える
距離が近ければ簡単な
その荒れ地の先に上がる
あ!? もしかして
!!!
キルシは偵察隊と本隊の間に爆裂魔法を放ち爆轟とともに多量の土砂が舞い上がった。
魔法の
普通、遠方の
とんでもない呪術師かもしれぬ!!!
「どうしたヴェストラ? デアチ軍の魔導師の力量はわからぬのか?」
馬を並べる女大将ヒルダ・ヌルメラに問われ魔導師は返答に困った。敵方が強いと言えばこちらの志気にかかわる。だが見栄を張ってこちら強しと言えば先鋒に出され正面切っての魔法争いとなる。
「いえ、わかりましたが、
「────」
女大将が無言なのでティモ・ヴェストラは探るように
「お前────斥候隊を追え。お
「ええぇ!? そのようなぁ!? 遠距離攻撃兵を先鋒に出すなどぉ!?」
両手振り上げ驚いた
「なにをしておる。斥候の騎士らが敵に到達するぞ」
そう言い放ちヒルダ・ヌルメラが
く、くそう! デアチ軍の
ティモ・ヴェストラは透明化の
だが
「まだですか?」
「
イルミ・ランタサル
「だってのんびりしてたらアイリ・ライハラの活躍をこの眼で見れないじゃないですか!」
今度はリクハルドが眉根しかめた。
この思いつき
「
リクハルド・ラハナトスは
ど、どうするんだこれほどの兵を!?
元リディリィ・リオガ王立騎士団長が後ろを振り向き見渡すばかりの騎兵の群れに困惑した。